【書評】友愛と多様性を尊重し、シンクロナイゼーションでチームを強くしよう

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どんな大企業に勤務していても、実際の業務はチームや数人、ときには一人で行うものです。この小さな集団のなかで生産性を上げ、仕事を有意義なものとして実感するには、どのような組織づくりが必要なのでしょうか。
ブルース・デイズリー著「Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめた ワークハック大全―仕事がサクサク終わってラクになれる科学的メソッド」から、チームを強くするためのメソッドをご紹介します。コミュニケーションデザインや企業支援コンサルタントのエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏がナビゲートします。

本書の要約

孤独によって、人の生産性が下がることがわかっています。人は相手とのつながりを感じるほど、その人のために貢献しようとするからです。職場で自分が特別だという感覚を持つことができれば、職場への所属意識も持てるようになります。職場の仲間とのシンクロナイゼーションを意識し、チームを強くしましょう。

Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめた ワークハック大全――仕事がサクサク終わってラクになれる科学的メソッド
著者:ブルース・デイズリー(ダイヤモンド社)

孤独が生み出す負の連鎖を断ち切ろう

社会的に他人とつながりを持つことは人間の基本的な欲求であり、幸福と生存の両方に不可欠であると考えられる。(ジュリアン・ボルト・ランスタッド)

ブルース・デイズリーの「Google・YouTube・Twitterで働いた僕がまとめた ワークハック大全――仕事がサクサク終わってラクになれる科学的メソッド」より、他者とのつながりがチームに及ぼす影響について書評を述べたいと思います。
340万人以上の成人の病歴を調べたジュリアン・ボルト・ランスタッドの研究よれば、孤独によって早死にするリスクが50パーセント高まることがわかりました。肥満による死亡リスクの上昇は30パーセント。つまり、孤独は不健康な食事をし続けることよりもずっと悪いものであり、人を不幸にしてしまうのです。

安定した人間関係を奪われた人たちは心身の病気に悩まされやすくなります。犯罪や自動車事故など問題行動を起こす確率も高くなり、自殺傾向も強まります。実際、職場でも、孤独を感じると人のパフォーマンスは低下します。 ウォートン・スクールの教授のシーガル・バーセイドは、職場で友情や所属意識、愛について話しあうことが重要だと主張します。

従業員は、会社に足を踏み入れるときに人間らしさや感情を置き残したりしない。そこには自分の居場所があり、友愛がある。それは従業員を幸せにし、最終的には会社の収益にも貢献する。(シーガル・バーセイド)

職場で伝染する友愛が生産性を上げる

7つの産業部門で従業員3,200人を対象としたバーセイドの調査によると、「友愛」は、仕事への満足度や組織へのコミットメント、責任感などを高めることがわかりました。集団との強い結びつきを感じるとき、人は責任ある行動を取ろうとします。さらに、バーセイドは、友愛は伝染すると指摘します。

感情が伝染するという概念は、多くの研究で確認され、認知されています。人は相手とのつながりを感じるほど、さらにその人のために何かをしようとします。職場で自分が特別だという感覚を持てれば、職場への所属意識も自然に持てるようになります。

労働問題に詳しいジェイコブ・モーガンは、ポジティブな「従業員体験」により多くの投資をしている企業にはエンゲージメントの向上が見られると指摘します。従業員体験を積極的に導入する企業はしない企業に比べ、ファスト・カンパニー誌の「最も革新的な企業」リストには28倍、グラスドア社の「働きたい企業」リストには11倍、リンクトインの「もっとも働きたい企業」リストには4倍も多く選ばれています。また、従業員1人当たりの平均利益が4倍、企業全体での平均収益が2倍も高くなっています。

従業員エンゲージメントの育成は小集団から

では、従業員エンゲージメントの感覚は、どうやってつくればいいのでしょうか?従業員エンゲージメントとは、働いている会社の事業の方向性や経営方針などに共感し、従業員自らが貢献したいと意欲する主体的な態度や行動を指します。

集団力学を研究するイギリスの人類学者ロビン・ダンバーは、人類がつくる集団の規模は本来150人程度が限界だと述べています。この数を超えると、人間の大脳新皮質は複雑な人間関係に対処しきれなくなり、集団内の信頼や協力関係が弱まっていくと言うのです。
ダンバーによれば、集団が大規模になると、そこで過ごす時間の42パーセントが「ソーシャルグルーミング(社会的毛づくろい)」に費やされるようになるといいます。会社に喩えれば、勤務時間の42パーセントを社内の人間関係を維持することに使っていることになります。
大きな組織になればなるほど、企業文化を共有することが難しくなります。リーダーは一方的にビジョンを伝えるだけでなく、別のアプローチを試みるべきです。

チーム内の信頼関係がエンゲージメントを育む

人に態度や働き方を強制するのは賢明ではない。無理にそうすれば、チームはシニカルになり、やる気を失い、メンバーは「仕事のときだけ被る仮面」をつけて働くようになってしまう。

大企業のリーダーがいくらエンゲージメントを推進しようとしても、トップダウンだけでは限界があります。必要なのは、もっと小さな種族的(トライブ)なものだとブルース・デイズリーは指摘します。
会社レベルで強制するのではなく、小規模なチーム内での信頼関係を育むことが必要になります。チームは組織全体の中での自らの位置づけを理解し、メンバーの多様性を反映した強い個性を発揮しているとき、ポジティブな力や柔軟性を発揮できます。強いモチベーションは、CEOからのメールではなく、チームがうまく協力することから始まります。

内発的動機づけの3要素

作家のダニエル・ピンクは、内発的動機づけによって人をやる気にさせ、元気にさせ、自尊心を高めるのは、「自律性(autonomy)」、「熟達(mastery)」、「目的(purpose)」という3つの重要な要素が組みあわさっているからだと述べています。
■自律性とは、仕事を自分の思うようにコントロールできていると感じること
■熟達とは、以前に比べて仕事がうまくできるようになったという実感が伴う達成感のこと
■目的とは、仕事を通じて社会や家族に貢献していると感じること

仕事を通じて、些細なことでもいいから何かに貢献しているという感覚を持つと人は自ら動けるようになります。たとえば、今日会社に出勤することで誰かの役に立つと認識できていれば、出社することへのモチベーションは高まります。同僚と挨拶をして、自分に与えられた仕事をし、困っているチームのメンバーがいれば手を貸す。このようなありふれた日常を繰り返すことでも、幸せな気分を味わえるようになるのです。

感謝されることに仕事の意義を見出す

誰かに貢献しているという「目的」の感覚を持つことは、仕事への積極的な関わりや献身を大きく促すことがわかっている。

ハーバード・ビジネス・スクールとユニバーシティ・カレッジ・ロンドンによるレストランを1週間観察した研究によると、レストランのレイアウトを変えて、料理人から客の姿が見えるようにすると、出される料理の質が上がり、10パーセント良くなったと判断されたそうです。また、客からも料理人の姿が見えるようにすると、さらに料理の質が17パーセントも向上。料理人は自分の仕事が客や店に貢献していることを実感できたときに、より良い仕事をしたのです。この研究を主導したライアン・ビュエルは「人に感謝されることで、仕事は有意義なものになる」と述べています。

シンクする信頼関係が組織を強固にする

心理学者のアダム・グラントは、エンゲージメントにとって 目的と所属意識の中間にあるものだと言える「誇り」が重要だと言います。仕事を人から尊重され、評価されていると感じたとき、私たちは誇りを持てるようになります。
自律性、熟達、目的だけでなく、「シンクロナイズ」(シンク=sync)がある組織はより強くなります。

シンクロナイゼーションとは、人間的で共感的なレベルでのつながりであり、信頼のもとでチームをーつにするものだ。研究は、シンクが人に喜びをもたらすことを示唆している。シンクでは、お互いの動きを細かく一致させることもある。誰かと一緒に踊ったり、合唱団で歌ったり、スポーツチームを応援しているときに周りと同じような動きで喜びを表現したりする。このように他人と同じ動きをしているとき、人は恍惚感を覚えやすい。

シンクを感じることで他者への信頼感が高まります。信頼できる人が周りにいると、ストレスに対する緩衝剤になるのです。人には所属する集団が必要であること、互いにシンクしているときに強く元気で協力的になれること、この2点をリーダーは忘れないようにしましょう。

シンクロナイズ8つのメソッド

著者が提唱する8つのシンクロナイズのメソッドを取り入れることで、職場の生産性は高まります。

シンクロナイズ1 社員が集まりやすい場所をつくろう
・ウォーターサーバーや湯沸かし器の位置を移動するのは、交流を促したい社員を近づける良い方法です。それができない場合は、座席そのものを変更して、社員が集まりやすい場所を変えることを検討します。
・テレビやソファなどを置くことで、社員が集まって会話が始まるようなスペースをつくることは効果があります。

シンクロナイズ2 コーヒーブレイクを提案しよう
・周りの人にコーヒーブレイクをとることを提案しましょう。
・忙しくて仕事から手が離せないと感じているときに、あえて誰かと休憩をとってみましょう。ストレスや疲れがピークにあるときほど、人と休憩をとることに効果があります。

シンクロナイズ3 会議は半分の時間に短縮しよう

簡単に言うと、会議は人数を少なくし、時間も短くすべきだ。できるだけ少ない人数で速やかに意思決定をして、そのプロセスを他のメンバーにもわかるように伝えることだ(“徹底した透明性”を掲げる投資会社のブリッジウォーター・アソシエイツでは、すべての会議の内容を記録していて、参加者以外もそれを知ることができるような仕組みになっている)。焦点も絞るべきだ。たとえば、ある研究では次のように結論づけている。「問題の解決や行動計画の作成など、特定の目標を持って会議に臨んでいたチームは満足度が高かった」。明確な方向性を持って集中して会議をすることはたしかに有効だ。

・会議の時間を半分にしましょう。時間を短縮すると会議に集中できるようになります。

シンクロナイズ4 対面で自由な発言ができるミーティングをしよう
・会議をやめたら、ソーシャルミーティングを行うようにすべきです。チームに力をあわせて仕事をしてもらいたいのなら、社員が顔をあわせて自由に会話ができる機会を設けなければなりません。

シンクロナイズ5 笑える環境を作ろう
・みんなが集まる場で、笑いが起きやすいようにする工夫をしましょう。
・チームにいる面白い人の存在をリーダーは大切にすべきです。
・チームに当てはまることは顧客にも当てはまります。笑いがチーム内の連携や同期に役立つのなら、ユーモアを取引先との関係を深めるのに役立てましょう。
・職場で笑うことには、楽しい瞬間を味わう以外にもさまざまなメリットがあります。毎日の笑いを習慣にして、職場を明るくしましょう。

シンクロナイズ6 良いセルフイメージを持たせよう
・新人がもっとも影響を受けやすい入社時に、セルフイメージを高める教育をしましょう。
・この会社で自分らしさを発揮できるように、「最高の自分」を振り返るエクササイズをオリエンテーションに取り入れてみるのです。新入社員が早く会社を居心地の良い場所だと感じられるように、さまざまな工夫を試みます。
・温かく歓迎するほど、新人はチームに早く成果をもたらしてくれるようになります。

シンクロナイズ7 “悪い上司”をやめよう

悪い上司がいる会社は、離職率が高くなる。人が足りなくなれば、生産性は低下し、専門知識も失われる。欠員を補充するための採用コストも余計にかかってしまう。良い上司になるためのルールは明確だ。現場の部下に共感しながら、知識を活用し、サポートすることだ。いますぐに「悪い上司」をやめよう。

・シェフィールド大学の研究によれば、管理職に対する信頼度が高い企業はそうでない企業よりも業績が上がります。自分たちは公平に扱われていて、優秀な上司にうまく導かれていると感じている社員は、良い仕事をするようになるそうです。今すぐ、悪い上司をやめ、部下を褒め、支援するようにしましょう。

シンクロナイズ8 1人で作業するタイミングを知ろう

プロジェクトや新しいイニシアチブの初期段階では、アイデアを考え出したり、頭の中でそれを自由に膨らませたりするために、1人で作業をさせるべきだ。しかし、これらのアイデアを改良したり、問題点やボトルネックを解決したりするには、チームで協力して練り上げるほうが効果的だ。つまり、1人で作業するか、チームで作業するかはどちらかが常に正しいわけではない。大切なのは、いつ1人で作業するか、いつチームで作業するか、適切なタイミングを知ることなのだ。

コミュニケーションは、静かに1人でまとまった作業をする時間の合間の区切りとして機能するものだと著者は言います。真の同期は、絶えず仲間と会話をしているだけでは達成できません。1人で集中する時間と仲間とのコミュニケーションを組み合わせることで、私たちは結果を出せるようになるのです。孤独は人を不幸にもしますが、生産的な仕事にとって時には必要なことであることを忘れないようにしましょう。

徳本氏の著書「「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)」

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「チームを強くするシンクロナイゼーションの8つのメソッド」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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