【書評】人材の流動化を招く“ダイレクトリクルーティング”
- 2021/2/5
- 書評
リモートワークも浸透してきた昨今、採用のかたちも徐々に変化してきています。オンラインでの求人や応募、リモート面接をはじめ、コロナで不況の中でも企業は必要な人材を確保できる時代になりました。
そんな中、まだ日本では浸透していない、画期的な採用サービスも出てきています。AIがSNSなどの膨大なオープンデータの中から理想に合った優秀な人材を探し、企業が直接オファーする。これから主流になっていくであろう「ダイレクトリクルーティング」について、書評ブロガーでベンチャー企業の取締役や顧問として活動中の徳本昌大氏による書評よりご紹介いたします。
目次
本書の要約
AIなどのテクノロジーやFacebookをはじめとしたSNSを活用したダイレクトリクルーティングによって、企業は今までとは異なるアプローチで優秀な人材を見つけられるようになりました。ここから人材の流動化が起こり、強者と弱者の差がますます広がります。経営者はコロナ禍の中で変化に適応する術を本書から学べます。
不況を乗り切るマーケティング図鑑――成功企業16社でわかるサバイバル・マニュアル
著者:酒井光雄(プレジデント社)
コロナ後の社会変化
今回の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)は、完全な終息までに時間がかかるため、生活者の消費行動はそれまで抑制されてしまいます。そのためコロナ不況からの回復も時間がかかると予想されます。
あらゆる状況において3密(密閉・密集・密接)を避ける新しい生活様式を強いられる中で、いかに企業は迅速にこの苦境を乗り切るかが試されています。
今回のコロナ不況で社会の前提が激変し、企業は真剣に生き残り対策を考えなければ消費者からそっぽをむかれてしまいます。元々、弱体化していた企業はコロナ禍により、何かしら手を打たなければ撤退を余儀なくされ、M&Aなどで人材の流動化が起きていくでしょう。
今後、時代にフィットしない古いビジネスモデルが置き換えられ、新たなサービスが次々と生まれていくはずです。
不況時の勝ち組企業の例
不況を乗り切るマーケティング図鑑で、マーケティングコンサルタントの酒井氏は、過去の不況時に企業が行った対策を研究し、以下の8つのパターンを明らかにしました。それぞれの勝ち組企業を紹介しています。
- 不況耐性型 サカタのタネ、ケンタッキーフライドチキン
- 適者生存ダーウィン型 ドン・キホーテ、トレジャー・ファクトリー
- 顧客との関係づくりを強化し、需要を創造するプロモーション型 JR東海、無印良品
- キャッシュ・コンバージョン・サイクル短縮型 Apple、Amazon
- 不況逆手型 アパグループ、ニトリホールディングス
- リアルとバーチャルの融合最適型 Peloton、Bonobos
- ダイレクトリクルーティング型 Linkedin、LAPRAS
- 働き方支援型 タニタ、助太刀
ダイレクトリクルーティングの時代
今回はこの中からダイレクトリクルーティング型という新たな採用法とそのケーススタディを紹介したいと思います。
「ダイレクトリクルーティング」とは、企業の経営者、事業責任者、人事・採用担当者が、その企業にマッチした人材を自ら探し、ダイレクトにアプローチする採用手法です。AIなどのテクノロジーやFacebookをはじめとしたSNSを活用することで、企業は今までとは異なるアプローチで優秀な人材を見つけられるようになったのです。
パーソナルブランディングの重要性
日本のビジネスパーソンは日本型雇用システムに守られてきたため、自身の仕事に対するリスクヘッジやリスクマネジメントを行う風土がなく、無防備に暮らしてきた面があります。しかしながら社会構造と雇用制度が変われば、1社でいつまでも雇用が保証されることはなくなります。
また不況による人員整理の対象になって初めて転職活動を始めていては手遅れになる場合もあります。社会に有益な情報発信を行い、ビジネス社会で活躍している人たちと交流を深め、人的ネットワークを世界中につくることは、これからのビジネスパーソンに欠かせない取り組みになります。
また転職意向の有無にかかわらず、自分のビジネススキルを社会にアピールすれば、実力を備えた人にはチャンスが広がることにもつながってくるでしょう。
今回のコロナ禍は人材の流動化を加速します。また、副業がトレンドになる中で、新しい働き方を求めるビジネスパーソンもSNSや新しいテクノロジーを使って、パーソナルブランディングを行っています。
私も10年前にソーシャルメディア経由で本を出版してから、自分のキャリアを劇的に変えることができました。チャンスをつかまえたければ、自分のスキルをどんどんアウトプットすればよいのです。
当時、世界的大企業から突然採用のオファーを受けたことがありますが、ネット上に情報を置くことで、自分の可能性を広げられることに気付けました。
今は新たなテクノロジーによって、簡単に転職できるようになったのですから、ビジネスパーソンは遠慮せずに積極的にパーソナルブランディングを行うべきです。
新しい採用のかたち「LAPRAS SCOUT(ラプラス スカウト)」
引用:LAPRAS SCOUT公式HPより
LAPRAS SCOUTというサービスをケーススタディに、ダイレクトリクルーティングについて考えていきます。LAPRAS SCOUTでは、従来の採用サービスのように候補者が自ら情報を入力するのではなく、TwitterやFacebookといったSNS、GitHub、Qiitaのような技術的アウトプットをクローリング技術で収集し、それらを個人に紐付けてポートフォリオを自動生成します。
AIが候補者のスキル・情報を集める
LAPRAS SCOUTは、AI技術をもとにインターネット上のデータから他のサービスでは見つからないトップレベルのエンジニアの情報を自動的に取得します。また個々のエンジニアの能力を分析し、本人が入力した転職意欲など確かな情報を元に貴社に最適な候補者を採用します。(LAPRAS SCOUTのHPより)
紐付けられた情報は、機械学習を活用して解析し、従来の履歴書ではわからなかったスキルや志向性を企業は可視化できるようになりました。
例えば、その人は以前の勤務先を何年で退職したか、現在の企業は平均して何年で人が辞めるかなどをAIが分析します。またSNS上に転職に関する言葉を使った投稿をすると自動検知して、離職スコアに反映していきます。
引用:LAPRAS SCOUT公式HPより
LAPRAS SCOUTがネット上から収集・紐付け・解析した候補者のポートフォリオ数は150万件を超え、日本国内のエンジニア職種に特化した採用サービスでは最多の実績を誇っています。
気になる逸材を管理する「タレントプール」
採用したい人材を貯めておく「タレントプール」には、LAPRAS SCOUTが見つけた候補者はもとより、リファラル(社員からの紹介)など他から集まった候補者も含めて気になる人材を一括管理できるようになります。
また、Google Chromeのブラウザ用拡張機能を使うことで、SNSページから直接LAPRAS SCOUTの候補者プロフィールが確認でき、タレントプールに追加できます。
引用:LAPRAS SCOUT公式HPより
タレントプール内の候補者が転職を検討する可能性があると、その候補者がSNSに掲載した活動内容や経歴の傾向などから転職の可能性を機械学習が算出し、転職アラートが企業に届きます。企業が転職希望者にスカウトメールを送るだけで、ダイレクトにアプローチ可能な仕組みです。
サービスに登録していない候補者へもアプローチ可能
LAPRAS SCOUTに登録していない候補者にも、「カジュアルスカウト」という機能を使うことでアプローチが可能です。
候補者にはメールでスカウトが届き、候補者がそのメールに反応すれば、カジュアル面談などの選考プロセスに移行、両者の条件をすり合わせを行い合致すれば採用に至ります。
採用活動のプロセスがテクノロジーにより簡略化されるだけでなく、採用コストを大幅に削減できます。当然、ミスマッチも防ぐことができ、優秀な人材を確保できるようになるのです。
ビジネス特化型SNSが流行る!?
著者は名刺の時代が終焉し、個人がネット上でビジネススキルをアピールする社会が始まると述べています。
ビジネスで有能な人材を採用したい場合に必須化するのは、個人のビジネススキルや実績に関するデータの有無です。企業がホームページを立ち上げて自社をアピールするのが当たり前になった現在、これからは個人が自身のビジネススキルをネット上でアピールする取り組みが必然化してきます。
実名を使うSNSにはFacebookがありますが、ここはプライベートの利用が多く、ビジネススキルの向上や職探し、転職といったビジネス案件に関しては使い勝手が良くありません。
そうなれば海外では既に一般化しているビジネス特化型SNSの活用が、日本でも加速していくことになります。
ダイレクトリクルーティングが普及していく中で、インターネットやSNS上に自分のスキルを書き込んでいくことがますます重要になっていきます。日本でもそろそろビジネス特化型SNSのLinkedinが流行り始めそうです。
ダイレクトリクルーティングで企業がスカウトする時代
これまで転職する際には、求人広告・エージェントからの紹介・会社説明会・SNS・リファラル採用などの方法が使われていましたが、今後はダイレクトリクルーティングが本格化していくはずです。
有能な人材を求める企業は、ダイレクトリクルーティングを活用して、有利な条件で転職意思を喚起しスカウトを行っていきます。
今後、大企業の優秀な社員が草刈り場になることが予想されます。ITや専門性のある知財コンサルタント、社内士業、CFOスキルなどを持つビジネスパーソンに好条件のオファーが集まるはずです。実力を備えていれば、誰もが自分の可能性にチャレンジできるようになります。
企業は自社に必要な人材をリストアップし、ダイレクトにスカウトすることで、競合に打ち勝つことができるようになっていくでしょう。
徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「酒井光雄氏の不況を乗り切るマーケティング図鑑――成功企業16社でわかるサバイバル・マニュアルの書評」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。