【書評】空想が超スピードで現実化する世界に備えよ

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これからの10年は、テクノロジーの進化とその速さがこれまでとは比べものにならないほど加速していくのだそうです。「エクスポネンシャル(指数関数的)」に加速するテクノロジーの進化※1とは?その変革と速さに私たちはどのように対処すればよいのでしょう。2030年のビジネス界に身を投じる当事者の一人として、ベンチャー企業の取締役や顧問、書評ブロガーとして活動中の徳本昌大氏による書評でご紹介いたします。
※1 エクスポネンシャル(指数関数的)な成長とは、直線的ではなく、あるポイントから急上昇のカーブを描き、さらに加速して進化していくというもの。

2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ
著者:ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー
(NewsPicksパブリッシング)

本書の要約

ピーター・ディアマンディススティーブン・コトラーの2人は、2030年までの未来を予測します。量子コンピュータや自動運転などの新たなテクノロジーが次々に融合され、エクスポネンシャル(指数関数的)に世界を変えてしまいます。個人も企業もこの激変に対する備えを怠らないようにすべきです。

エクスポネンシャル・テクノロジーが空想の未来を実現

地球上の主要産業が一つ残らず、まったく新しい姿に生まれ変わろうとしている。起業家、イノベーター、リーダー、そして機敏さと冒険心を持ち合わせたあらゆる人にとって、とほうもない機会が待ち受けている。私たちの想像を超えて加速する未来、かつてないほどの勢いで空想が現実化する世界が到来する。

名著「ボールド 突き抜ける力を書いたピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラーのチームの新作「2030年:すべてが『加速』する世界に備えよ」が面白い。前作でも紹介されているエクスポネンシャル・テクノロジー(指数関数的なテクノロジー)が本書の重要なテーマになっています。(ボールドのブログ記事はこちらから)

著者プロフィール

参考に2人の著者のプロフィールをアマゾンから引用します。

ピーター・ディアマンディス
Xプライズ財団CEO。シンギュラリティ大学創設者、ベンチャーキャピタリスト。連続起業家としては寿命延長、宇宙、ベンチャーキャピタルおよびテクノロジー分野で22のスタートアップを設立。1994年に創設した「Xプライズ財団」は、おもに民間宇宙開発を支援し、20年来の友人であるイーロン・マスク(スペースX、テスラCEO)、ラリー・ペイジ(Google創業者)らが理事を務める。2008年、グーグル、3Dシステムズ、NASAの後援を得て、人類規模の課題解決をめざす教育機関「シンギュラリティ大学」をシリコンバレーに創設。 MITで分子生物学と航空工学の学位を、ハーバード・メディカルスクールで医学の学位を取得。2014年にはフォーチュン誌「世界の偉大なリーダー50人」に選出され、そのビジョンはイーロン・マスク、ビル・クリントン元大統領、エリック・シュミットGoogle元CEOらから絶賛されるなど、シリコンバレーのみならず現代アメリカを代表するビジョナリーの1人である。

スティーブン・コトラー
ジャーナリストにして起業家。身体パフォーマンスの研究機関フロー・リサーチ・コレクティブのエグゼクティブ・ディレクター。

エクスポネンシャル・テクノロジーの融合が産業構造を変革する

テクノロジーの変化に造詣の深い2人の予測を読むことで、2030年までの未来に何が起こるのが実感できます。ムーアの法則※2は終わりをつげ、エクスポネンシャル・テクノロジーが世の中を変えていきます。エクスポネンシャル・テクノロジーが融合すると、その破壊力はケタ違いになります。量子コンピュータなどの単独のエクスポネンシャル・テクノロジーだけでも、製品、サービス、市場だけでなく、それらを支える構造そのものが消滅します。

※2 ムーアの法則( Moore’s law)とは、1965年、インテル創業者の一人であるゴードン・ムーアが大規模集積回路(LSI IC)の製造・生産における長期傾向について論じた指標。一つの 集積回路(ICチップ)に実装される素子の数は18か月ごとに2倍になるという経験則を示している。

今後100年の変化は今までの2万年分に相当

人工知能(AI)研究の世界的権威であるレイ・カーツワイルが「収穫加速の法則」に従って計算したところ、人類はこれからの100年で、2万年分の技術変化を経験することになることが明らかになりました。つまりこれからの1世紀で、農業の誕生からインターネットの誕生までを2度繰り返すくらいの変化が起こるのです。

移動の自由はお金と時間の概念を変化させる

UberのAI担当のジェフ・ホールデンは自動車の未来を以下のように予測します。

すでにミレニアル世代の10%以上が車を所有するよりライドシェアを選択していますが、そんなものでは終わりません。自動運転車のほうがコストは4分の1から5分の1になり、車の所有は不要になるだけでなく、割高になります。おそらく10年以内に、人間が車を運転するには特別な許可が必要になるでしょう。(ジェフ・ホールデン)

移動の自由を得る消費者は多くのメリットを享受します。自動運転が普及すれば、車内は寝室、会議室、映画館に変わり、通勤時間が気にならなくなります。今までの住宅地の概念が変わり、不動産コストが低い地域に安くて広い家を買うという選択肢が出てきます。車を所有しなくなれば、ガレージをつぶして寝室を一つ増やしたり、ドライブウェイに花壇を造ったりすることも可能です。

電気自動車は夜のあいだに勝手に充電するので、ガソリンを買う必要がなくなり、無駄な移動をせずにすみます。街中で駐車スペースを探してうろつきまわることも、駐車違反切符を恐れることもなくなります。スピード違反の切符も、飲酒運転のリスクもなくなるのです。電気自動車や自動運転が移動の問題を解決し、人々のお金と時間の概念を変えてしまうのです。

自動車産業の統合進化が加速する

こうしたトレンドは、2つの破壊的変化をもたらします。

  1. 非収益化
    自動運転車のライドシェアのコストは、個人で車を所有するより80%安くなります。しかもそれはロボット運転手付きなのです。
  2. 時間の節約
    アメリカ人の通勤時間は往復50.8分ですが、この時間を睡眠、読書、SNSに使えるようになります。大手自動車メーカーにとっては、こうした変化は終わりの始まりでしょう。2019年には100社以上の自動車ブランドが存在していましたが、今後の10年でエクスポネンシャル・テクノロジーがデトロイト、ドイツ、日本に襲いかかり、自動車産業の統合が進むと著者は指摘します。

再教育による人的バージョンアップの重要性

これから数十年でAIとロボティクスの融合によって、アメリカの労働者の相当な割合が失業の脅威にさらされることを多くの研究が示している。これは社会が変化に適応するためには、数千万人の労働者が再教育を受け、バージョンアップしなければならないことを意味する。一方よい面は、この再教育と表裏一体の関係にある。

インターネットがGAFA を生み出し、電気自動車がテスラを強者にしたように、エクスポネンシャル・テクノロジーが融合するとユニコーンが短期間に続々と生まれるはずです。「いいアイデアがあるぞ」から「10億ドル企業を経営している」という状態にいたるまで、かつては20年はかりましたが、それがわずか数年で実現します。

生き残り策は変化への適応にあり!

残念ながら、既存の大企業はそういった破壊者にはなかなかついていけません。イェール大学のリチャード・フォスターが、今日のフォーチュン500企業の40%が、今は名もないベンチャーに取って代わられ、10年以内に消滅すると予想しています。 教育制度も旧態型で、この時代の変化に適合できずにいるからです。

時間とお金の価値が変わる中、産業や教育もこの10年で激変します。私も含めたビジネスパーソンは2030年までにこの変化に適応する準備をしておかないとあっという間に取り残されてしまいます。

エクスポネンシャル・テクノロジーの成長過程

エクスポネンシャル・テクノロジーの成長サイクルには以下の6つのステージがあります。

  1. デジタル化(Digitalization)
  2. 潜行(Deception)
  3. 破壊(Disruption)
  4. 非収益化(Demonetization)
  5. 非物質化(Dematerialization)
  6. 大衆化(Democratization)

6つのステージを経て進化するテクノロジー

それぞれがエクスポネンシャル・テクノロジーの発達の重要な段階であり、とほうもない混乱と機会を生み出します。この6つのステージを理解することが、量子コンピューティングやすべてのテクノロジーの進化を理解するうえで不可欠となります。

①デジタル化

あるテクノロジーがデジタル化されると、つまり「1」か「0」のバイナリコードに転換できるようになると、ムーアの法則に則ったエクスポネンシャルな加速が始まります。

②潜行

エクスポネンシャル・テクノロジーは最初に登場すると、大きな注目を集めます。しかし、初期の進歩は比較的ゆっくりなので、しばらくは世の中の期待に応えられない状態が続きます。

③破壊

エクスポネンシャル・テクノロジーが本当の意味で世界に影響を与えはじめたときがこのステージになります。既存の製品、サービス、市場、産業を一気に破壊していきます。現在、3Dプリンティングというたった一つのエクスポネンシャル・テクノロジーが、10兆ドル規模の製造業そのものをおびやかしています。

④非収益化

かつては製品やサービスにかかっていたコストが、そっくり消えてしまうステージで、写真フィルムのマーケットを見れば、その恐ろしさがわかります。かつて写真は高価で、フィルムや現像にお金がかかったために、写真を撮影することに慎重でした。しかし写真がデジタル化した結果、このコストは消滅しました。今では誰もがフィルム代や現像代などのコストを考えずに写真を撮るようになりました。

⑤非物質化

非物質化とは、製品そのものが消えることを指します。カメラ、ステレオ、ビデオゲーム機、テレビ、GPSシステム、計算機など全てがスマホに標準装備されるようになりました。ウィキペディアによって百科事典が消え、iTunesによってCDが消滅したのも非物質化の例になります。

⑥大衆化

エクスポネンシャル・テクノロジーがスケールし、一般に広がるステージとなります。かつて携帯電話は、レンガほどの大きさで、ごく一部の富裕層しか手に入れることができませんでしたが、今日ではほとんどの人が1台以上所有しており、世界でスマホが一切存在していない地域を探すのはほぼ不可能になりました。

この6つのステップを使って、テクノロジーを検証することで、自社が置かれている状況が理解できます。GAFAだけでなく、ベンチャーやスタートアップに破壊される前に、何をすべきかを真剣に考えた方がよさそうです。

ビジネスの変化に備えた準備を

本書の豊富なケーススタディが、あと10年で、あらゆる産業と社会が根底から変わることを明らかにしています。すでに起こった未来が、本書の中にいくつも紹介されています。テクノロジーの指数関数的な進化を侮らずに、自分のビジネスの変化を予測し、準備を怠らないようにしましょう!本書はそのガイド役として打ってつけです。小売、広告、エンタテインメント、教育、医療がどう変化するのかは大変興味深く、今後も紹介していきたいと思います。

徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラーの2030年:すべてが『加速』する世界に備えよの書評」

この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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