【書評】日本のデフレ脱却には、労働価値の向上と給料アップが必須

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海外の識者が経済の先行きを議論する際、「ジャパニフィケーション」という表現を使うことがあります。これは、低インフレと低金利が常態化し、長期にわたって経済成長できない状態を意味するようです。この不名誉な「日本化」を招いている原因と、その状態から脱出するために必要なこととは何でしょう。中藤玲著「安いニッポン『価格』が示す停滞」では、給与と物価を上げイノベーションを起こすために日本がどうすべきかをひも解きます。企業支援のエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏の書評から紹介します。

安いニッポン 「価格」が示す停滞
著者:中藤 玲(日本経済新聞出版)

本書の要約

デフレが継続する日本では、物価や賃金が「安過ぎること」が問題になっています。諸外国の労働者が賃金を上げる中、長年給料が上がらない日本人は年々貧しくなり、日本の「安さ」を放置することで日本人は負け組になっているのです。今こそ給与と物価を上げる施策を採用すべきです。

物価が安い日本は生活しやすいのか?

デフレーション(デフレ)は物価の持続的な下落を指す。日本は物価がほとんど上がらず、デフレに似た経済状況が長く続いている。これはインフレよりたちが悪い。縮小均衡が続けば、成長を続ける世界から日本は置き去りになり、日本は人材やモノを買い負ける。皆が300円の牛丼に収束していると、いつの日か牛丼も食べられなくなってしまう。

海外に出かけるたびに日本の物価の安さを実感します。ラスベガスやニューヨークでの食事にかかる費用は東京の3倍以上です。ホテルやディズニーリゾートなどの料金も、海外に比べて日本は必要以上に安い気がします。実際、東京ディズニーリゾートの入園料は世界的に見てもっとも安い水準であり、アジアの旅行者などは安いと感じているようですが、日本人の多くは東京ディズニーリゾートの料金を高いと感じています。このギャップはどこにあるのでしょうか?

日本経済新聞社 企業報道部の記者である著者はその理由を日本人の給与の安さにあると指摘します。デフレに陥った日本の物価は、約30年間ほぼ上がっていませんし、それに伴い賃金も上がっていません。

「安さ」は生活者から見ると「生活しやすい」が、供給者の観点では収益が上がらない。すると賃金は据え置かれ、消費が動かず需要が増えない悪循環に陥る。いったん下げた価格は再び上げられないため、企業はなるべく値下げせずに最低限まで生産コストを下げたくなる。果たしてこれで、世界の秩序をガラリと変えるようなイノベーションが生まれるだろうか。個々の企業にとっては最適解でも、「安さ」はまさしく、日本の停滞と結びついているのだ。

アジアや欧米の多くの国では賃金と物価がパラレルに上がっていて、成長を続けています。その中で、日本だけが成長の果実を得られず、一人負けしているのです。

「安さ」がもたらす4つの代償

コロンビア大学の伊藤隆敏教授は「日本の安さはいずれ大きな問題として日本に返ってくることになる」と警鐘を鳴らしています。

  1. 国際的に一物一価の法則が成り立っているような高級品は、日本人には高嶺の花になって、やがて買えなくなります。滞在費や旅費が高いため、海外旅行も頻繁には行けなくなくなります。
  2. 日本企業に海外企業と比べて高い賃金のポジションが無くなると、英語ができて能力の高い日本人は、より高い所得を求めて海外企業に流出します。優秀な人材を求めて海外に拠点を移す日本企業も出てきます。
  3. 海外大学の授業料が払えないため、若者が留学できなくなります。英語ができずに能力が低い人は、外国人に安い給料で雇われる職種にしか就けなくなります。
  4. 日本企業もトップは外国人、日本人は一般労働者となり、所得が海外に流出して、さらに日本が貧しくなる可能性もあります。

デフレが続いて日本人が貧しくなると、日本の成長力は削がれてしまいます。 長期のデフレ均衡という「ぬるま湯」は、日本だけで暮らす分にはよかったのですが、諸外国が豊かになるといやゆる買い負けが起こるようになりました。購買力が衰えグローバルな価格についていけない日本人は、ますます貧しくなっていくのです。

長期のデフレ状態から脱却するには

「日本の常識」は世界の常識ではない。そんな認識を突きつける安いニッポンの一つひとつの現場は、ミクロでは合理的でもマクロではそうならない「合成の誤謬ごびゅう」が産んだ縮小均衡という呪縛に閉じこもっていていいのかという疑問を、私たちに投げかけている。日本の購買力を上げるには、所得を上げるしかない。

デフレ脱却の鍵は、日本人の給料アップにあります。「日本の購買力」が落ちた根本原因は、実質賃金が上がらなかったことです。確実に成長している諸外国の経済に比べて、日本の家計はどんどん貧しくなっています。

給料が上がらない原因は、日本の労働生産性の低さだと前述の伊藤教授は指摘します。日本の教育システムや人事制度が優秀な人たちの能力を奪っているのです。大学や企業は学生や労働者に対し、AIやバイオといった21世紀に必要とされるスキルが習得できる環境を提供していません。日本の会社がこれからも、プロフェッショナルが少ないまま給与制度を横並びのまま放置し続けると、優秀な人材は海外に流出してしまいます。

将来国際的に活躍できる人材が少数になれば、日本人はグローバル企業や国際機関のトップポジションを獲れなくなる。日本企業もトップは外国人、日本人は一般労働者となり、所得が海外に流出して、さらに日本が貧しくなる。

日本が「安さ」から脱却するには、若者や低所得者など消費性向の高い人々の所得を引き上げることが最も重要です。そのためには、生産性の高い人材を増やし、彼らが高所得を得られるような施策を優先すべきです。日本人の労働力の価値を高め、給料をアップすることを政府、学校、企業が一体となって取り組まなければ、日本の未来は暗いと言わざるを得ないでしょう。

徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「中藤玲氏の安いニッポン「価格」が示す停滞の書評」

この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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