【書評】時代はDXからSXへ。生き残り戦略としてのサステナビリティ経営とは

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「SX」は流行の「DX」をもじり、デジタルをサステナブルに置き換えた造語です。近年、多くの企業が競争力を高めるDXに取り組んでいますが、顧客はもちろん、株主や従業員などにとっても魅力的で頼れる企業になることが求められています。そのキーワードが「持続可能性」で、本書で取り上げているのは、多様性の実現、脱炭素、さらには人権問題といった、グローバルに事業展開する企業が配慮すべきテーマです。豊富な事例は、様々な社会課題に対処しなければならない経営者に大いに参考なるでしょう。遙か遠くにあるが、決してぶれない目指すべきゴールのある長期ビジョンの重要性を、企業支援のエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏の書評から紹介します。

SXの時代 ~究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営
著者:坂野俊哉、磯貝友紀(日経BP)

本書の要約

サステナビリティがビジネスの基本となり、成長を左右する重要なファクターになってきました。企業が長期にわたって顧客から支持されるためには、親亀(環境)と子亀(社会)に配慮する経営(SX)を行う必要があります。「サステナビリティ経営」を戦略の核にしなければ、企業は生き残れなくなりそうです。

SXとは長期的な利益創出のためのリソース配分

サステナビリティ経営とは何か。一言でいえば、「長期で利益を出し続けるために、リソース配分を行うこと」だ。では、長期で利益を出し続けるために必要なことは何か。まずは、その企業が長期にわたって市場から求められ続けること、第二に供給(原材料、知財、人材など)を長期的に維持すること、第三に社会からも信頼され続けることだ。長期的な市場の行方を適切に見定めることは当然重要だが、市場があっても、供給体制が維持できなければ、その要求に応えることはできない。また、社会から信頼されず、ブランド価値が殿損してしまうようなことがあれば、長期的な事業継続は不可能になる。

生活者から支持される「サステナブル」

DXという言葉が市民権を得て、よく使われるようになりましたが、最近ではSXが話題になっています。SXとはサステナビリティ・トランスフォーメーションのことで、サステナビリティを軸にした経営改革を行うことが、いま経営者に求められています。

環境(親亀)や社会(子亀)に真摯に向き合わなければ、企業は利益を生み出せなくなっています。それは、ミレニアル世代やZ世代が消費の中心になる現代社会に、サステナビリティを意識しなければ企業は生き残れないことを意味します。サステナビリティを前提に「インプット」→「ビジネスプロセス」→「アウトプット」をデザインすることで、生活者から支持されるようになるのです。

長期ビジョンとぶれない視座がSXを実現する

変化のスピードが速い世界では、計画など無意味という見方があるかもしれない。アジャイル経営はこうした考え方の一つだ。時間をかけて「計画」を立てるよりも、「変化に柔軟に対応すること」で目標を達成することを目指す。現代のような変化が激しい時代に合ったアプローチだ。しかし、アジャイル経営によって、変化に柔軟かつ素早く対応するのは、あくまで先に目標があってそれを達成するためであり、経営環境が激変する今のような時代こそ、道に迷わないために、進みたい方向を指し示してくれる目標を明確にしておくことが必要不可欠だ。

サステナビリティへの意識が必要な時代、経営者は変化にしっかりと適応しなければなりません。つまり、未来志向型のSXを実現するために重要なのは、短期的な変化に目を奪われず、長期的な視点から経営を考えるということです。

例えば、今後の環境変化から逆算し、環境保護のために今何をすべきかを明確にして経営を行う事を著者は挙げています。リーダーの仕事は、決してぶれない長期的な到達点(北極星)を描きながら、アジャイルに対応しつつ、企業を北極星に向けて導いていくことになると本書は説いているのです。

経営者はアップルやイケアなどのSXの先進事例を見習い、企業の中だけでなく、取引先を含めたサプライチェーン全体で、事業ポートフォリオやビジネスモデルの根本的見直しと事業自体の再創造に取り組んでいかなければなりません。

SXで環境と社会の課題を解決し企業を成長させる

企業がそれまで得てきた利益は、サプライチェーンのなかのどこかに隠されていた児童労働や低賃金労働によって生み出されたものかもしれない。もしくは、その利益は、環境を大きく殿損する化学物質や農薬によって、短期的には効率的に、低価格で生産された原材料に依拠してきたのかもしれない。

企業価値を下げる市場取引外での不利益

先日、ユニクロを手がけるファーストリテイリングの株価が急落しましたが、これは新疆ウイグル自治区の人権侵害が主な原因と見られています。投資家や消費者が中国の人権侵害に厳しい目を向ける中、新疆綿を使うユニクロや良品計画などのアパレルブランドが、外部不経済のツケを払わされる格好となった一例です。

企業は、原材料調達、加工・生産、物流、販売などのバリューチェーン全体で、外部(児童労働、低賃金労働、人権躁躍、差別、環境汚染など)に不利益を押しつけていないかを徹底的に見直し、改善に取り組み、新しい利益構造を考え直さなくてはなりません。ユニクロや良品計画の例を見れば、先送りが許されないことがわかります。

盤石な事業継続とファン・リソースの確保で経営革新を

企業は環境課題(気候変動・CO2、水、資源・廃棄物、生物多様性)や、社会課題(身体的人権、精神的人権、社会的人権)に真剣に向き合う必要があります。SXを企業に定着させるために、経営者は以下の3つの要素を意識して経営を革新していくべきです。

  • 自分で自分の首を絞める構造を断ち切る
  • 親亀・子亀と共存しながら長期的に事業を継続できる基盤を固める
  • リスクを回避するだけでなく、ファンを増やす、優秀な従業員を確保する

また、親亀(環境)・子亀(社会)と共存しながらも利益を出す新しい事業のあり方を、以下の3つのステップで考えるとよいでしょう。

  1. 既存事業領域でビジネスモデルの抜本的変革を検討する
  2. 新しいビジネスモデルや新技術・新商品の開発を検討する
  3. 顧客の外部不経済を最小化する

“イケア”にとってSXこそが成長戦略

最後に、イケア・ジャパンで代表取締役社長兼CSOを務める、ヘレン・フォン・ライスの言葉を引用します。このメッセージを読めば、SXの重要性を理解できるのではないでしょうか。

私たちが未来に向けて積極的に投資をする姿を見たお客様は、イケアで家具を買うことに価値を見いだし、(買い物を通じて)イケアの活動の一部となり、イケアというブランドとつながることに誇りを感じてくれると思う。それを実現できれば、環境問題を軽減できるだけでなく、企業としても成長できる。つまり、未来への投資は、環境負荷低減への投資であると同時に、イケアの成長戦略でもあるのだ。(ヘレン・フォン・ライス)

環境問題に配慮することで、企業は多くのファンをつくれます。SXの実践は未来への投資であり、企業の成長につながるのです。DXだけでなく、SXが今後、経営のキーワードになりそうです。

徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「坂野俊哉氏、磯貝友紀氏のSXの時代~究極の生き残り戦略としてのサステナビリティ経営の書評」

この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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