【書評】M&A成功の秘訣!専門チームの組成と専門知識蓄積への投資

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スモールM&Aと言われる中小企業の売却や事業部門を切り離しての譲渡など、M&Aは私たちの身近なものとなりつつあります。コロナ禍にあってニューノーマル時代とも言われる昨今、経営の多角化・DX化が求められ、経営者たちはその進むべき方向を見極めることに神経を研ぎ澄ましているのです。ニューノーマル時代とは、日常に当たり前にあるこれまでの常識が大きく変化したときのこと。この時代を生き抜き、M&Aの成功を導くものとは何なのか。その答えを、森泰一郎著「ニューノーマル時代の経営学 世界のトップリーダーが実践している最先端理論」の書評からお届けします。ナビゲーターは、コミュニケーションデザインや企業支援コンサルタントのエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏です。

ニューノーマル時代の経営学 世界のトップリーダーが実践している最先端理論
著者:森泰一郎(翔泳社)

本書の要約

M&Aを積極的に行うのであれば、M&Aの専門組織にノウハウをため、M&Aの遂行能力を磨いていくことが近道になります。
企業を成長させるために、多角化経営が必要であるのなら、M&Aのチームを早めに組成し、検討・実践することが経営者に求められています。

M&A成功の近道は遂行スキルの向上

M&Aを積極化するのであれば、M&Aの専門組織にノウハウをため、M&Aの遂行能力を磨いていくことが遠いようで近道である。

M&Aによる新規事業参入は過半数が撤収

コロナ禍のニューノーマルの時代には、既存事業だけで成長することは難しくなっています。
成長のためには、多角化経営を行う必要がありますが、新規事業を育てるには時間がかかります。
もし、短期間に成果を出したいのであれば、M&Aも選択肢の一つになり得るでしょう。

現在のブームによって、M&Aで多角化戦略を行う企業が増えていますが、失敗事例も散見されています。
マイケル・ポーターは、アメリカの著名企業33社が1950年から86年まで行ってきた多角化戦略の経緯とパフォーマンスを調査しました。
その結果、既存事業を買収して自社の新規事業として展開した企業の大半が、その後事業を維持できず売却してしまったことが明らかになっています。

対象企業は26年の問に、平均して80の新規事業に挑戦し、27の新分野に参入しました。
新規参入の70%はM&Aによるものであり、22%が自社単独での新会社設立、8%が合弁事業でした。
結果として新規事業のためにM&Aを行った企業の53.4%がその後事業を手放しており、まったく新しい分野に多角化した場合には、買収した事業から撤退した比率は61.2%まで上昇したのです。
70%以上を手放した企業は33社中14社、非関連多角化をM&Aで行った場合においては、74%がその後失敗し、事業を売却しています。

このポーターの研究から、ニューノーマル時代の新規事業において、M&Aを活用した新規事業の成功確率は50%以下であること、それがまったく新しい分野である場合には40%以下となり、非関連分野になれば、30%以下になることがわかります。
自社単独で新規事業を行っても、10回に1回くらいしか成功しないのですから、M&Aの成功確率は比較的高いといえます。
では、M&Aを成功させるためには何をしたらよいのでしょうか?

M&A専門チームの組成

アニャ・トリヒターボーン、ドードー・ツー・クニーファウゼン・アウフセースー、ラース・スイスは、M&Aをうまく進めるための方法を研究しました。
彼らはM&Aのプロセスに注目し、2003年から2006年までに発生したドイツ企業の205件のM&Aについて調査しました。
社内体制については経営者やCFOへのアンケート調査、財務データについてはトムソン・ワン社のデータベースを利用しました。

彼らの研究によって、M&Aの専門組織があることが重要であることがわかりました。
専門チームがあることで、M&Aにおけるプロセスおよび買収後の統合(PMl)に関する学習が進み、それが企業のM&A遂行能力を高めることにつながります。
結果、M&Aのノウハウが蓄積されることで、成功確率が向上します。

確かに、私の周りのM&Aで成功している会社には、専門部隊が存在しています。
経営者もM&Aを何度も成功させることで、デューデリなどの知識や経験もたまり、PMIの際にもパーパスやビジョンを共有し、組織を上手にまとめています。

M&A遂行能力の向上に不可欠な専門組織

M&Aの遂行能力は、M&Aに関する知識や経験を明確化し、文章化し、部署内外で共有し、社内の価値判断基準へと落とし込んでいくことで向上されていく。
つまり、M&Aの専門組織があれば、そこにノウハウがたまり、そのノウハウをきちんと整理し、文章化し、同じ轍を踏まないように社内で共有・落とし込みをする組織能力が、M&Aの専門組織がない企業よりもスムーズに向上する。

M&Aの専門知識蓄積に投資を

日本企業はM&Aのスキルがないとよくいわていますが、それは外部のM&A企業、投資銀行、コンサルティングファームに丸投げしているからです。
M&Aで成功している会社は、自社での経験を重ねることでM&Aのスキルをしっかりと身につけています。

M&Aに関する成功・失敗事例は様々なメディアで紹介されていますし、M&Aの勉強会などでも学べます。
今後、ある程度の規模、ある程度の金額をM&Aに投資していくならば、専門組織を持つ方がM&Aへの多額の投資と比べたら安上がりになると著者は指摘します。

M&Aに何を求めるのか

ニューノーマル時代には、多角化を避けては通れません。
M&Aを活用して成功したいと考えるなら、M&Aの成果を楽観視せず冷静に判断することが求められます。

経営者は以下の質問への答えを用意し、企業内にチームを作り、ともに答えを探すべきです。

  • なぜ、多角化が必要なのか?
  • M&Aの目的は何か?スケールメリット、新規事業への参入、人材、DX、IT強化
  • どの業種を狙えば、成長できるのか?
  • 自社とのシナジーを発揮できる企業はどこか?
  • 優秀な人材を採用できるか?
  • PMIをスムーズに行えるか?

M&Aを実行する際には、プロフェッショナルを雇い、彼らのサポートを受けるようにしましょう。
彼らの知見やネットワークを活用することで、よい企業を見つけられます。

M&Aを積極的に行うのであれば、M&Aの専門組織にノウハウをため、M&Aの遂行能力を磨いていくことが近道になります。
成長のために多角化経営が必要であるのなら、M&Aのチームを早めに組成することが経営者に求められています。

徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「M&Aを成功させるために必要なこと。」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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