【書評】組織力UP!新規事業を科学する“異能の掛け算”

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成長過程での段階的な価値創造

事業が成長していく段階別に、各フェーズがどのような状態か、どのような組織であるべきかを見てみましょう。

1の定義:「顧客課題への最小価値」を検証できた状態
不確実性が支配する世界で、最も大事なチームの意思決定の指針は「どうやって不確実性(見えていないこと)を減らしていくか」になります。

10の定義:事業が成立し、拡大の見込みが立った状態
誰かが一度正解を導いている10→100の世界では、その正解に対して、他の人や企業よりも確実に効率的にたどり着けるか? がイシューになり、既存の方程式を参考に、リソース分配を最適にしていくゲームになります。

100の定義:事業拡大を続けている状態
新規事業の不確実性を下げるためには、デザインとプロトタイピングを繰り返すことと〝無知の知〟のスタンスを持つことです。

本書資料を元にZ-EN編集部作成

新規事業において、知っていると思うのは思い込みでしかありません。
新規事業においては経験豊富な人も新参者であり、知らないことだらけです。
経営者はまだわかっていない背景や前提があると考え、仮説と検証の旅を続けるべきです。
「わかっていると思っていることを忘れる(アンラーン)」姿勢を持つことで、自社のビジネスモデルを発見できます。

バイアス脱却のカギは開かれた組織

新規事業をデザインしているときは、スキル・経験・環境のバイアスに陥りがちです。
既存事業の10→100のフェーズで、大きな成功体験がある人は、当然ながらすぐにその経験に当てはめて考えようとします。
特に類似の成功体験を持ったチームになると、その固定観念から抜け出せない危険性が増大するでしょう。

一方、異能がチームに入ることや、お互いに違和感を口にできるチームを作ることで、経験のバイアスに陥ることを防げます。
異能の掛け算が十分に発揮され、価値創造に成功している企業の多くは、個人に裁量を持たせたうえで、以下の3つの要素を満たしています。

■明確な危機感
経営陣を中心に「新規事業がなければ企業の存続がない」といった明確な危機感を共有していること
■経済的独立性
投資額と投資余力のバランスを見て、取りうるリスクを経営陣全員で合意していること
■心理的安全性
自分の考えや気持ちを、誰に対してでも安心して発言できる組織であること

この3つのうち1つでも足りないと、内向きの仕事が始まってしまいます。
その結果、新規事業を始動するうえでの足かせとなり、異能の掛け算も功を奏する機会を失うでしょう。

BTCが不可欠な理由

「新しい価値を創り顧客に有用な形で持続的に届ける」ためには、「新しい価値を”創り”(T)、”顧客に有用”(C)な形で、”持続的”(B)に届ける」必要があります。

目指す方向を明らかにし、チームを一丸にするためには、ビジョンやミッション、コンセプトを共有することが欠かせません。
しかしその際にも、似たスキルの人だけで集まっていると視野狭窄になり、スピードも落ち、事業開発力が弱くなり、以下のようなパターンに陥りがちになります。

・Biz人材がいないチーム・・・顧客がほしがるものになったが、続かない、儲からない、規模が大きくならない
・Tech人材がいないチーム・・・創ってしまったほうが早いことなのに、無駄に考察を続けてしまう、技術的に不可能な仮説に時間を費やしてしまう
・Creative人材がいないチーム・・・理屈上収益性が高い事業になりそうに見えるが、具体的に使うイメージやシーンが浮かばず、顧客が手に取らないサービスになる

リーダーの役割

BTCの関係がよいチームとなって信頼し合うようになると、異能の掛け算を起こすことがより効率よく新規事業を成功に導きます。

そのために経営者は以下の3つのことを目指さなければなりません。

①専門性を持ったBTCがいること
②相互に尊重し合う心理的安全性の高い状態
③各自のミッションのつながりが見える化され、 付度なく意見を言えること、全員が迷いなく全力を尽くせること

ビジネスモデルを構文化するフレームワークの活用

著者は「バリューデザイン・シンタックス」というフレームワークが、異能のチームを作る際に効果を発揮すると述べています。
「バリューデザイン・シンタックス」は、ビジネスモデルを構成する要素を分解し、ひとつの構文として表現するため、専門性が異なるメンバー間でも共通認識の構築ができます。
このフレームワークに沿って事業構想を文章化することで、全体像が可視化され、定義の曖昧さを排除でき、構成要素の整合性や弱点を簡単に把握できるようになります。

本書資料を元にZ-EN編集部作成

そして、仮説・検証の行き来を繰り返すことで、サービスコンセプト・競争戦略・利益構造の確度と精度を上げられると筆者は述べています。

異能のチームの掛け算を行い、バリューデザイン・シンタックスのフレームワークを活用することで、新規事業の立ち上げをスムーズに行えるようになります。
成功を目指すベンチャー・スタートアップ経営者にぜひ、読んでもらいたい一冊です。

徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)

出典:起業家・経営者のためのビジネス書評ブログ!「異能の掛け算 新規事業のサイエンス(井上一鷹)の書評」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

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徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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