【書評】脳科学が明かすアートの力~幸福への近道

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アートと幸福

アートとは自分の身体状況あるいは感情の状態を変化させ、幸福感を高める活動である。

アートは、持続的な幸福を得る手助けもしてくれます。
美術館を訪れたり、コンサートに行ったりする経験が、脳内の幸福感を司る神経伝達物質の分泌を促進し、単に一時的な喜びで終わることなく、長期的な幸福感の向上に貢献しているのです。

感覚的な刺激としてのアート

マグサメンとロスの研究は、アートを贅沢品や娯楽としてではなく、健康や幸福のための必需品として捉え直す必要性を示唆しています。
彼らは、日々の生活にアートを取り入れることで、個人の健康と幸福度が向上するだけでなく、社会全体にも良い影響を与えると主張しています。

子供の頃に流行った曲がスーパーの店内で流れると、私たちの脳は瞬時に反応します。
血流が変化し、ドーパミンなどの快楽物質が分泌されると、中学時代の友達との思い出が蘇り、懐かしさという複雑な感情が湧き上がってきます。
こうして、一曲の音楽が私たちの心の状態を大きく変化させるのです。

このように、私たちは常に五感を通じて様々な刺激を受け取っています。
これらの刺激は互いに影響し合い、私たちの世界の捉え方や気分を形作っています。
アートは、こうした感覚的な刺激の一つとして捉えることができ、私たちの神経系に独特な方法で働きかけ、感情の処理や表現、さらには無意識の領域にまで影響を及ぼします。

人生では様々な感情的な起伏に直面しますが、アートはそれらに対処する手段となり、喜びや満足感といったポジティブな感情を増幅させて幸福感を高める力を持っています。
同時に、ストレスを和らげる効果もあり、日常生活で遭遇する様々な刺激への反応を変える可能性も秘めています。

マインドフルネスとしてのアート

アートを利用して瞑想に近い状態を育むと、脳の前頭前皮質の批判や個人攻撃を司る領域の活動が抑えられ、普段より寛容で大局的な視点を得ることができるのである。

通常、瞑想というと静かに座って呼吸に集中するイメージがありますが、アートの制作や鑑賞も瞑想の一種として注目されています。
仏教の瞑想専門家であるシャロン・サルツバーグは、アートを通じた瞑想が非常に効果的だと主張しています。
アートを通じた瞑想は、従来の瞑想のイメージを大きく変え、創造的な活動に没頭するという動の状態で心を整えます。

絵を描く、彫刻を作るなどのアート制作では、筆の動きや色の選択、形の創造に集中して自然と「今この瞬間」に意識を向けることができます。
美術館でのアート鑑賞でも、作品の細部や構成、色彩、形に注目することで「今、ここ」に意識が向けられ、作品から受ける印象や感情に気づくことが自己への理解を深めます。

日常生活にアートに触れる機会を増やすことで心の健康を保つことができる。
まさにこれは瞑想の核心である「マインドフルネス」そのものです。

幸福感を持続させる

世界は無限のエネルギーと振動で満ちており、アートが幸福感を育む方法も無数に存在する。アートは、私たちが不確かで予測不能な人生を航行し、複雑な感情や気持ちの波を乗りこなす手助けをしてくれる。

持続的幸福には6つの基本的な特性があるという興味深い研究結果が示され、それらは好奇心、感嘆、畏怖、豊かな環境、創造性、儀式、そして斬新さと驚きです。
アートは、これらを育む上で重要な役割を果たします。
例えば、アートは好奇心を刺激し、私たちの理解や感動への欲求を引き出します。
また、美的なマインドセットを心がけることで、日常のありふれた瞬間にも感嘆の念を抱くことができ、畏怖の体験は、私たちの脳に特別な変化をもたらし、不確実性やリスクに対する耐性を高めることが示されています。

アートを活用してよりよい未来を!

アートに囲まれた豊かな環境は、日常的に感性を刺激し、好奇心や感嘆の念を呼び起こします。
例えば、美しい絵画や彫刻が置かれたオフィスや、自然の景観を取り入れた建築空間は、私たちの心を豊かにし、創造性を高める効果があります。
アートギャラリーや美術館といった空間は、日常から一歩離れて新たな視点や思考を得る機会を提供するだけでなく、畏怖や驚きの体験をもたらし、私たちの脳に新鮮な刺激を与えます。

創造性の面では、アートの実践が重要です。
アート活動に従事することで、マインドワンダリングが促進され、創造性が高まります。
これは、脳のデフォルトモード・ネットワークと関連があると考えられています。

さらに、アートは儀式や習慣の形成にも役立ちます。
アートを通じた儀式的な実践は、感情や象徴、知識の分析を促し、強い意義と自己認識の感覚を構築します。
一方で、アートは斬新さと驚きをもたらす源泉でもあり、新しい刺激を求めている脳の欲求を満たす理想的な手段です。
斬新な経験は脳内のドーパミン放出を促し、さらなる関与を引き出します。

アートには、比類のない方法であなたを変える力がある。病気から健康な状態へ、ストレスから穏やかな気持ちへ、悲しみから喜びへと移行するのを手助けし、持続的な幸福と繁栄を可能にする。アートはあなたを根底から変化した状態へと導き、あなたの生理機能そのものを変化させる。アートは昔から希望の最高の姿を示し、今日では科学によって新たな知識がもたらされており、それは私たち1人ひとりの人生に取り入れることができる。

アートは私たちの幸福感を高め、より良い未来を築くための力を与えてくれます。
アートを通じて、私たちは新たな考えを生み出し、人間性の共通点を確認し、より深くつながることができるのです。
アートは単なる娯楽ではなく、持続的な幸福と豊かな人生を実現するための重要な要素です。

本書の著者2人の綿密な研究による学際的アプローチは、私たちの日常生活や社会構造に及ぼす広範な影響を明らかにしています。
私たちの健康と幸福に資する不可欠な要素としてのアート。
この新たな理解は、従来の医療の在り方を変え、より健康的なコミュニティの構築につながる可能性を秘めています。

本書は、アートと科学の相互作用が個人の幸福や社会の進歩にいかに貢献しうるかを、エビデンスに基づいて示している点で非常に説得力があります。
研究者はもちろん、アーティストや教育者だけでなく、ビジネスパーソンにとっても示唆に富む一冊といえるでしょう。

出典:アートが持続的幸福をもたらす理由。アート脳(スーザン・マグサメン , アイビー・ロス)の書評
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。


著者:徳本昌大、松村太郎(2024年8月6日発売)
世界で初めて時価総額3兆ドル企業となり、次々と革新的な製品を世に送り出すアップル。
世界中の人々の生活にイノベーションを起こし、絶えず高成長・高収益を継続している魅力的な投資先でもあります。
アップルは、ビジネスをどのようにして考え、実行し、成果を上げているのか。
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徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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