バーチャルコミュニティやソーシャルメディアなどは、今でこそ誰もが知るものとなっていますが、iphoneが生まれる前からその分野を研究し、事業に生かそうと果敢に挑戦する人はそう多くはないでしょう。株式会社Yagish代表取締役 ⾦ 相集さんは、そんな先見の明をお持ちの起業家です。研究者の道から事業として人と人とをつなぐ支援をし社会に貢献する経営者に転身された⾦さんへのインタビュー。前編では、株式会社Yagish起業に至るまで、どんな研究をされ、何をきっかけに起業家となったのか。その道のりを伺いました。
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バーチャルコミュニティの研究者を目指し来日
Z-EN――本日はよろしくお願い致します! 金さんは1994年の26歳の時に留学で来日されたとのことですが、以前から日本にご興味があったのでしょうか?日本の大学を選択されたきっかけを教えてください。
⾦相集氏(以下、金氏)――来日する前は、93年に新卒で入社した韓国の大手広告代理店で、当時始まったばかりのパソコン通信をニューメディアと捉え、その価値を研究するチームに所属していました。
当時パソコンを操作できる人が少なかったので、プログラミングができた私が新卒ながら研究チームに加わることになったのです。
パソコン通信を行う同好会やグループサークルなどのコミュニティが展開する、いわゆるチャットルームを朝から晩までのぞいて、それぞれの属性を見つけ、そこにいる人々の動きを足跡などのログで分析していました。
ある日、ある山登りチームのチャットで出会った男女2人が告白に至ったと、チャットのレビューで噂になりました。
そして、ついには結婚するというのです。
2人の付き合いはバーチャルのみで現実には会ったこともないことが分析結果からわかり、なんて不思議なんだろうと思いました。
会ったこともないのにプロポーズができるものなのだろうか?と。
と同時に、アナログからデジタルへシフトしていく様に大きなカルチャーショックを受けたのです。
居ても立ってもいられず、どんな心持ちで結婚に至ったのかインタビューしに行ったところ、男性のほうが、「自分の理想形かどうかはどうでもいい。この気持ちが今後の人生にも続いていくのだとしたら、自分はこの人と結婚したいと思った」と、言うのです。
そして、「会ってみたら案の定タイプの女性だった」とも。
外見が少し理想から外れていたとしても、内在している価値観が繋がれば、それは相殺されるのだという生の声をインタビューできたことで、大いに興味が湧き、もっと研究したいと思うようになりました。
すでに研究している人はいないかと探したところ、アメリカ・ドイツ・日本にバーチャルコミュニティの研究者の先生を数人見つけました。
そこで、思い切って、入社1年目の秋に辞表を出して、各国の先生たちにラブレターを書いたところ、東京大学の情報学環の先生が研究テーマに関心をもってくれ、一緒にやろうと返事をくれました。
韓国とは距離も近く、授業料免除が適用されたこともあり渡日することになります。
ソーシャルネットワーキング研究を本格始動
――運命的な研究テーマとの出会いがあったのですね。その後、社会理工学という学問領域を研究なさったそうですが、具体的にはどのような学問なのですか?
金氏――実際に研究をスタートしてから、東京大学よりも東京工業大学のほうに自分の研究テーマの権威がいることがわかり、東京工業大学で修士号を取ることになります。
私の研究は、人と人の繋がりの構造を0か1かのような検証結果に基づいて新たな現象結果を把握していくという、いわば理系の研究として捉えていました。
とはいっても、社会現象を0か1で解明できるのか?という疑問もあったのです。
社会理工学研究科は、日本で初めて東京工業大学で設立された文理融合型研究科です。
理系の要素に、シミュレーションや社会現象により少しずつ解明していく社会科学の要素も加えた研究領域。
それは、文系と理系をまたいで私が目標にしていたテーマを研究できる環境でした。
そんな、博士の2年次だった98年に大きな人生のターニングポイントが訪れたのです。
大学の夏休みに韓国に帰省して、10数年ぶりに高校の同窓生に会い、ソウル大学の博士課程とMITの博士課程の友人、そして私の働かざる3人の研究者で屋台飲み会をやっていたときのことです。
昔話に花が咲き、友人の1人が当時気になっていた女性の話になりました。
彼女を探し出したいと切実な様子の友人に、名前や出身校が分かっているなら同窓会サイトを作っておいて、彼女が会員登録した際に連絡先を入手すれば再会できるじゃないかと、話が盛り上がったんです。
日本で研究の傍らプログラマーとして韓国.comサイトを立ち上げたりしていた私には技術的にできると踏んだ提案でしたが、お酒の場の思い付きでしたから、日本に戻ってからは研究に忙しく忘れていました。
すると、友人が、言い出したくせになぜやらないんだ!と催促の連絡をしてきたんです。
仕方がないので受け身でプログラムを作り始めたところ、だんだんと、これはサービスとして事業化できるのではないか、そして何より、自分の研究テーマであるソーシャルネットワーキングの研究データをサイト上から取得できるのではないかと思うようになり、一生懸命取り組むようになりました。
人の繋がりの研究で輝かしい功績を残す
――素晴らしい研究の場を見つけたわけですね。うまくデータは取れましたか?
金氏――サービス自体は、人と人が出会う→別れる→再会するを繰り返しているだけの単純なことです。
でも、再会した後どうなるのかが皆気になります。
バックデータベースからログデータを取り、それを用いて、世界の学会で発表しました。
すると、この分野の3つの学会すべてで賞を取ることができたんです。
今までにない研究テーマとそれを検証したプロセスに先生方が面白みを感じてくれ、続きは次の学会でと話すと、その会にはすごい数の人が集まってくるんです。
いったい、あの人とあの人はどうなったの?と、皆続きが気になるんですね。
結果的にはたまたまですが、サイトを立ち上げた恩恵を受けて、学会賞、論文賞、学位賞全部を頂くことができました。
▶研究者としての道を極める金さんはその後、企業家としてのスタートを切ります。次のページでお伝えします。