経営者の突然の逝去にも慌てない備えを (一社)緊急事業承継監査協会 代表理事 伊勢田篤史さん

経営者が突然倒れたときに会社をどうするのか!?この問題がふと頭をよぎった経験のある方は少なくないでしょう。中小企業の社長の平均年齢は2021年度で60.1歳※。高齢化が深刻化するなか、非常時に対応するために平常時からしっかりした備えを!と提唱する(一社)緊急事業承継監査協会・代表理事 伊勢田篤史さん。経営者の突然死が招く相続・事業承継問題を回避するためにはどうすればよいのか、お話を伺いました。

※帝国データバンク「全国社長年齢分析2021」参照

経営者の突然死で訪れる緊急事業承継

Z-EN――協会の名前にもなっている「緊急事業承継」という言葉自体、あまり聞きなれない言葉のように思いますが、「緊急事業承継」とは何でしょうか?

伊勢田 篤史 氏(以下、伊勢田氏)――「緊急事業承継」というのは、経営者の突然死により、「緊急」で「事業承継」をしなければならない状況を示す造語です。日本の中小企業においては、経営者の高齢化が進む一方で事業承継対策を講じることができておらず、「緊急事業承継」が今後大きな社会問題になると考えています。

――確かに、事業承継に関する対策を何もしていない中で、経営者が倒れてしまったら…と考えると、ぞっとしますね。

伊勢田氏――中小企業の経営者が、何らの対策も取らずに突然死してしまった場合、亡くなった当日の対応から、資金繰り、後継者選び、社葬、相続等まで、さまざまな問題が生じます。特に、ワンマン経営者の場合、他に誰も会社の経営に関与できていないケースも多く、現場はパニックに陥ります。

資金繰り1つとっても、経営者以外の役員等が誰もその詳細や実態を把握していなければ、あれよあれよという間に資金ショートしてしまうリスクも十分に考えられます。まぁ、中小企業においては、経営者すら資金繰りを把握していないケースも多いですが。

伊勢田篤史氏 写真はご本人からの提供

事業承継の緊急性を回避するには?

経営者の現状認識不足

――伊勢田先生は、そんな「緊急事業承継」という問題について、どのようにアプローチされているのでしょうか。

伊勢田氏――まずは、経営者の皆さんが、「明日死ぬかもしれない」という現実と向き合うことが重要だと思います。ただ、多くの経営者の皆さんは、「俺は(私は)絶対に死なない」と口をそろえておっしゃいますので・・・。入口の段階で躓いてしまうことも多いのが実情ですね。

――「俺は絶対に死なない」・・・誰も、死にたくはないですからね。

伊勢田氏――緊急事業承継の問題は、一般的な事業承継対策とは切り離して考えるべき問題と考えています。

事業承継について、経営者の方が、以下のようなお話をされているのをよく耳にします。

「5年以内に後継者を決めて、その後継者を5年後に代表取締役にする。その後、5年くらいかけて徐々に経営権を移行していき、自分は引退する予定だ」

これが50歳くらいの経営者の方であればよいのですが、70歳近い経営者の方からお聞きしたこともあり、びっくりしたことがあります。

事業承継というと、どうしても長期プランで考えるケースが多いかと思いますが、上記のような長期プランが終了するまで、現経営者が生きている保証はどこにもありません。そのため、緊急事業承継の対策については、一般的な事業承継対策とは切り離して、真っ先に考える必要があります。

経営者抜きで会社が回る仕組みを作ること

――緊急事業承継の対策・・・具体的には、何をすればよいのでしょうか。

伊勢田氏――端的にいえば、経営者が突然死しても、会社が回る仕組みを作ることです。後継者選びを含め、こういった仕組みを短期的に作ることができないのであれば、M&Aを利用して、大企業等の傘下に入ることも検討する必要があるでしょう。経営者が亡くなってからのM&Aは、残された遺族が本当に大変な想いをすることになりますからね。

緊急事業承継訓練の提案

――緊急事業承継対策で、面白い取り組みを提案されていると聞きました。

伊勢田氏――「緊急事業承継訓練」ですね。

どなたでも小学校などで、定期的に地震や火事を想定した防災訓練をやった記憶があると思います。この防災訓練の目的は、地震や火事といった「万が一」の際に、しっかりと対処することができるよう心身ともに準備しておくことです。

緊急事業承継訓練は、その「中小企業版」です。具体的には、経営者の突然死といった「万が一」の際にしっかりと対処することができるように、さまざまな場面を想定して訓練します。

例えば、役員らを集めて、「今朝、社長が亡くなった」という一報が入ったことを想定し、緊急会議をロールプレイング形式で執り行うことです。このような会議で事前に、経営者が突然死したときの問題点をリストアップすることができれば、あとは、その問題を1つずつ解決していくだけです。

経営者の皆さんの中には、不謹慎だ!と不快に感じる方もいるかもしれませんが、現実に即した訓練を行うことで、参加した役職者に危機意識をもってもらうことができ、従業員の意識をも変化させることができたという事例もあります。

是非、多くの中小企業にて、取り組んでいただきたいですね。

「緊急事業承継ガイドブック 社長が突然死んだら?」を刊行

――3月17日に著書「緊急事業承継ガイドブック 社長が突然死んだら?」をご出版されたとのこと、おめでとうございます! 緊急事業承継ガイドブックということは、緊急事業承継対策に関する内容となっているのでしょうか?

伊勢田氏――ありがとうございます。本書は、中小企業の経営者の皆さんに、「自分が突然死んだら、会社は最悪どうなるのか」というワーストケースを体験してもらい、「事業承継対策」を真剣に考えるきっかけを作ってもらうことを目的に執筆したものです。

タイトルどおり、中小企業の経営者が突然亡くなった場合に起こりうる、亡くなった当日の対応から、資金繰り、後継者選び、社葬、相続、M&A等の問題点について、ストーリーとともに解説しています。また、先程の「緊急事業承継訓練」の手法についても触れていますので、是非、手にとっていただけたらと思います。

緊急事業承継対策に役立つ”情報と測定ツール”を公開

――とても面白そうな本ですね。読むのが楽しみです。そういえば、本書の出版を機に、サイトを立ち上げられたそうですが。

伊勢田氏――経営者突然死に関わる対策などの情報発信のため、「社長の突然死.com」というウェブサイトを立ち上げました。

まだ、試作版ではありますが、その中で、「緊急事業承継レビュー」というツールを公開しています。「緊急事業承継レビュー」は、経営者突然死時における会社への影響度合いを測定するツールですので、是非、一度体験して頂けたらと思います。

緊急事業承継認証モデルの構築を準備中!

-――今後あらたなに展開を考えていらっしゃるビジネスはありますか?

伊勢田氏――緊急事業承継監査協会では、今後、緊急事業承継に関わる認証モデルを構築していきたいと考えています。

中小企業における緊急事業承継対策を外部から評価する仕組みを構築することで、事業承継対策を進めるメリットを目に見える形で提供し、日本の中小企業の事業承継対策を後押しできればと思います。

――本日はありがとうございました。

伊勢田篤史

伊勢田篤史
終活弁護士・公認会計士
(一社)緊急事業承継監査協会 代表理事
日本デジタル終活協会 代表理事

投稿者プロフィール
海城高等学校卒業。慶應義塾大学経済学部卒業。中央大学法科大学院修了。
大学3年次に公認会計士試験(旧第2次試験)に合格し、翌年あずさ監査法人入所。監査法人にて4年の実務経験後、高校時代の夢をかなえるべく法科大学院への進学し、司法試験に合格し、2014年弁護士登録。弁護士・公認会計士の枠にとらわれず、相続・事業承継分野での活動を展開中。
著書に、2021年3月発行「社長が突然死んだら?」(税務経理協会)
共著に「応用自在!覚書・合意書作成のテクニック」(日本法令)「ストーリーでわかる 営業損害算定の実務」(日本加除出版)「改正民法と新収益認識基準に基づく契約書作成・見直しの実務」(日本法令)など多数。

関連記事

ピックアップ記事

  1. 変化の時代にあって単に事業を引き継ぐだけでは、成長どころか生き残りが難しい状況になってきました。 …
  2. 借入過多の会社でも事業を買収できるのか。 事業再生や倒産、M&Aを得意とする堂野弁護士にお話を伺い…
  3. 寺社の境内に建てられた宿「宿坊」。勤行や写経、座禅などを体験しながら誰でも宿泊できるため、手軽な体験…
ページ上部へ戻る