アスリート×陶芸家×茶人、唯一無二のスタイルで日本の精神を伝える(前編)

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日本人に限らず多くの人に響く普遍的な思想を、どうしたら広く伝えられるかー。アスリート陶芸家の肩書きを持つ山田翔太さんは独自の解釈で生み出した奇想天外にも思えるスタイルで、日本の精神に根ざした思想と自らの思いを伝える活動を展開しています。自作の茶盌を持ってお茶室を飛び出し、山で、森で、自然と一体となった茶会を催す山田さんに、思索の方向性と経験談を伺いました。得意分野を広げて複数の肩書きも持つ山田さんの生き方から、キャリア形成や経営に関する目線、自分自身との向き合い方などに幅広く応用できるヒントをいただけるお話が満載です。

“週末陶芸”から、銀座のギャラリー所属の陶芸家へ

Z-EN――「アスリート陶芸家」として活動していらっしゃる山田さんは、その肩書きから単なる陶芸家ではないことが分かりますが、陶芸を始めたのはいつですか。

山田翔太氏(以下、山田氏)――中2でラグビーを始め、高校時代にラグビー部でキャプテンをしていたのですが、元ラガーマンの陶芸家の先生が教える選択授業で陶芸を始めました。
もともと立体の造形物を作ることがすごく得意だったので、ろくろも使いながらどんどん作るようになりました。
大学生の間はラグビー部で週6回の練習があったので陶芸から離れていましたが、卒業後、企業に就職してからは仕事の後や週末に陶芸作品を作っていました。

山田さんが作った富士山をイメージした「富士茶盌」

――サラリーマンの“週末陶芸”から陶芸家としてデビューするには、どんなきっかけがあったのでしょう。

山田氏――入社8年目の2018年、家にたまった器を見た妻から「多くの人にみてもらうために個展でもしたほうがいいんじゃない?」と言われ、自信はなかったのですが自宅隣の小さなギャラリーで初めて個展を開いたところ、1日で100点ほど売れたのです。
その半年後、個展をきっかけに遠州流茶道宗家13世家元次女の小堀宗翔そうしょうさんにご縁ができました。
小堀さんは大学の同級生の妹さんですが、銀座三越で毎年開催している茶道具展示のメイン陶芸家を探していた折に、独学で作っていた僕の器が目に留まり、しかも偶然にも遠州好みに近い作品だったようです。

「アスリートの美意識でスポーツをイメージした抹茶茶盌を中心とした作品を3か月後までに150個作ってほしい」と注文をいただき、毎晩、会社の仕事を終えてから、工房で作陶を続けました。
銀座三越での展示会に150点ほどを展示すると多くの器がお客様の手に渡り、その後、銀座のギャラリー「靖山画廊」から声を掛けていただき、陶芸家として所属させていただくことに決まりました。

お茶の世界に入って半年、フランスでお点前を披露

――なんとも華々しい展開ですね!その流れでお茶盌をメインに作っていらっしゃるのですね。

山田氏――はい。小堀さんから「良いお茶盌を作ってほしい。そのためにいいお茶盌をたくさん見てください」と言われ、家元から茶道を学びながら、お稽古やお茶会でたくさんの良いお茶盌を見る機会をいただき、ぐっとお茶盌の世界に入り込んだのです。
翌2019年に、フランス人の友人から「来週、フランスのマルセイユの展示会を企画しているけど、翔太も陶器を展示する?」と突然誘われました。
当時勤めていた会社では有給を使いながらの活動を続けていたのですが、そんな状況でいきなり来週、フランスに行くってキツイじゃないですか。
でも僕は当時、「誘われたら断らない」「何にでもYESを出す」の精神で、スピード感を持って活動していたので迷わず「行く」と言ってしまったんです(笑)。

現地に送るまでの期間がないので、作品はスーツケースに詰め込み、ハンドキャリーで自分で持っていきました。
いざ現地に行ってみると、日本から来たアーティストは僕だけで、「お茶会を開いてほしい」と言ってくださったマルセイユの区長さんが、区役所ホールに会場をセッティングしてくださったのです。
それも面白いチャレンジだと思いOKした結果、40人ぐらいのギャラリーとプレスも来てくれて、お茶の世界に入ってまだ半年でしたが、陶器の展示に合わせて、お茶の点て方、歴史、飲み方を伝えつつお点前を披露したところ、大変好評でした。
この個展は、自分の中ですべてのブロックを破壊する最初の経験になりました。

3年前に活動の拠点としていた南仏マルセイユで、満月をイメージした
畳の舞台でライブペインティング×茶会を開催した(2022年9月)

アスリートによるアスリートのための「茶会」を開催

――山田さんのアスリートとしての活動についても教えていただけますか。

山田氏――そもそも小堀さんは女子ラクロス元日本代表メンバーで、「アスリート茶人」と名乗っていました。
僕は、トライアスロンやトレイルランなどもしていて、その経験で培った美意識、精神性を取り入れた作陶をしています。
「アスリートの美意識をうつわに込める唯一の陶芸家」「スポーツとのコラボレーションという未知の領域への挑戦」をうたって、アスリート陶芸家を名乗っています。

そこで、2人でいろいろなジャンルのオリンピアンやメダリストをはじめとしたスポーツ選手を茶道でおもてなしする「アスリート茶会」を行ったのです。
そのひと席のためにそのスポーツ選手やチームをイメージした茶盌を作ったのですが、全部で50個くらいでしょうか。
イメージを抽象化して「この人のためだけ」につくるという、今考えるとむちゃぶりともいえる経験は、ものすごくよい訓練になりました。

お茶を一服いただいた後には、茶盌の中の景色を鑑賞して、自身が感じたこと、見えてきたものを率直に語っていただきますが、このことを「見立て」と呼びます。

あるサッカー選手をアスリート茶会にお招きした時、「茶盌の中に星の模様が見えた」と言ってくださったことがありました。
僕は、その方が「スピードスター」と呼ばれていることを知らずに器を作ったのですが、そのように人によっては僕が想像していないものが茶盌に見えたり、もっと抽象度の高いものが“見えた”といってすごく気に入っていただいたりしたこともありました。

「見立て」を通して自分の心を解放する

――「茶盌の中に見えるもの」とは、視覚的なものだけではないようですね。見立てについて、もう少し詳しく教えてください。

山田氏――茶の湯では物を大事に扱いますが、森羅万象に八百万の神が宿るというような、すべてに神様を見立てる日本人の心が根底にあると思っています。
その上で、自分が美しいと思ったもの、美しいと感じたことを勇気や覚悟のようなものを持って外に対してアウトプットすることを「見立て」と言います。
会社などで、一般的に「正解」と思われる物言いばかりを求められたり、個人の意見が言いにくい社会の中で、受動的な生き方をしていると、なかなか見立てをアウトプットする機会はありません。

でも、茶の湯の世界で茶盌を通して見立てをすることで、自分が感じることを深く意識し、自分とつながることで、自分の心を解放できるし、他の人の美意識や考えていることも許すことができるようになります。
要するに、自分と相手の考えが違うことを楽しむことが見立ての最終ゴールです。

2022年9月から行ったフランスツアーの最終日、パリのショップで
茶会&茶碗展示イベントでお茶を振る舞った(2022年10月)

▶高校時代に陶芸を始めた山田さんは、サラリーマンを続けながら銀座のギャラリー所属の陶芸家になり、アスリートとして、そして茶人としての活動も展開するという多彩な活躍ぶりは目を見張るものがあります。この後は、「なぜ、そんなことができるのか」という読者の皆さんが持つであろう疑問に、山田さんが答えを示してくださいます。

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山田翔太
アスリート陶芸家

投稿者プロフィール
10代から独学で陶芸を始める。東京を拠点に作陶。
遠州流茶道で茶の湯の世界を学び、茶盌を中心とした作品を制作し、銀座靖山画廊の所属アーティストとして個展を開催。
茶盌や茶の湯をとおして日本の美意識である"みたての世界"を伝える講師としても活動。
lululemon等のブランドアンバサダーとして、自然の中など様々なフィールドでスポーツとアートと日本文化をつなぐイベントを開催。
またフランスなど海外でも作品の個展や茶会を通して、日本文化を世界に伝える活動をしている。
2022年11月、高野山真言宗の得度を受ける。

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