【書評】最新の科学的健康法「バイオハック」で脳と身体を最適化

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私たちが求める健康とは、どうしたら手に入れられるのでしょうか。様々なHow to本にその答えを求めても、自分に合ったものを見つけるのは簡単ではありません。スタンフォード大学の人気講義「HELTH SPAN(健康寿命)」を担当した医師モリー・マルーフ氏は、自書『脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法』で最新の科学的健康法「バイオハック」について解説しています。生活の質と幸福度を高める「誰でもすぐにできる方法」です。本書を企業支援のエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏がナビゲートしてくださいます。

脳と身体を最適化せよ!
――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法
モリー・マルーフ(ダイヤモンド社)

本書の要約

本書はエネルギーの源であるミトコンドリアを活性化し、心身を最適化するバイオハック戦略を紹介する1冊です。栄養、運動、睡眠、マインドフルネス、テクノロジーの活用を通じて、現代人が直面する慢性的な疲労やストレス、集中力低下に対応します。愛や社会的つながりの重要性にも触れ、健康とは単なる身体の状態ではなく、意識的な選択と愛の循環によって育まれる力であると説いています。

ミトコンドリアの活性化でエネルギーを枯渇させない

あなたの細胞の一つひとつに、生命の「スパーク」がある。身体を動かす電気エネルギーだ。

現代のビジネスシーンは、かつてないほどのプレッシャーに晒されています。
情報とタスクの波に押し流されるなかで常に高い成果が求められるため、集中力やモチベーションを維持できないことに苦しみ、そして何より「正体不明の疲労感」に悩まされています。
こうした不調は、仕事に影響するばかりか、生活全体の質を下げ幸福感さえも奪いかねない問題となっています。

これらのサインは、実は体の深部、つまり細胞レベルで起きている「エネルギー不足」であることへの警告です。
そんな健康課題に対し、本書の著者、モリー・マルーフ氏は、信頼性の高い実践的な解決策を提示しています。
著者は、スタンフォード大学メディカルスクールで健康寿命に関する講義を担当し、複数の企業やスタートアップのウェルネスプログラムに携わるなどの実績があり、まさに今を生きるビジネスパーソンの健康を支える第一人者です。

「頑張っているのに、どうして結果が出ないのか」
「ここぞというときに集中力が持たない」
──そんな違和感を抱えながら働く人は少なくありません。
著者自身も、学生時代にエネルギーの低下を経験し、そこから抜け出すために自身の身体と徹底的に向き合った結果、世間に広まる健康法や生産性向上のメソッドが、現代のビジネスパーソンのライフスタイルに本当にフィットしているとは限らないという事実に気づきます。
そこで、細胞内のミトコンドリアを活性化させるというアプローチを提案するに至るのです。

エネルギーをバイオハックして健康を増進

本書では、新たなライフスタイル戦略として、自分の生物学的特性を理解し、それを基盤にパフォーマンスを最大化するための知的フレームワークを提唱します。
それは、「バイオハッキング」というコンセプトに基づき、自身の健康をデータと科学的理解のもとで行動を変えることです。
血糖値や睡眠の質、食事、運動、ストレスの状態などをトラッキングし、それに応じて生活習慣を改善すれば良いのです。

また、こうしたテクノロジーの利活用とともに、信頼性のあるエビデンスに基づいた判断の重要性が繰り返し強調されています。
栄養に関するアプローチでは、単なるカロリー管理にとどまらず、消化吸収の効率や腸内環境、食材の質にまで踏み込んだアドバイスがなされています。
例えば、食物繊維や発酵食品、良質な脂質とたんぱく質を組み合わせた栄養戦略では、エネルギー持続と精神的安定性の向上に大きく貢献することを証明しています。

重要なミトコンドリアの役割

基盤となるエネルギーの効率的な活用手段であるバイオハックによって、脳と身体の最適化がもたらされます。

細胞の発電所と呼ばれるミトコンドリアが正常に機能しなくなると、エネルギー欠乏が生じ、それがあらゆる慢性疾患の引き金となります。
つまり、脳と身体のバイオハックとは、多角的に見ても最終的にはミトコンドリアのバイオハックに他なりません。
私たちは、この小さなエネルギー産生器官と双方向の関係を築いており、ミトコンドリアは私たちの人生経験すべてに影響を与えながら、同時に私たちの行動からも大きな影響を受けているのです。

幸いなことに、ミトコンドリアは環境に対する感受性が高いため、これをハックすることは比較的容易です。
例えば、神経可塑性を高める効果が報告されている「ライオンのたてがみ(ヤマブシダケ)」のようなサプリメントは、その代表例として紹介されています。
1日3グラムの摂取が脳機能の最適化に寄与するという研究もあり、こうした補助的な戦略も本書の魅力の1つです。

ホルミシス効果を引き出すための生活

ミトコンドリアの機能を促進してレジリエンスを高め、身体に逆境への適応方法を教える生物学的メカニズムである「ホルミシス」という考え方も極めて重要です。
ホルミシスは、大量であると有害ですが、微量であれば逆に有益な作用をもたらすため、量と質のバランスを見極めながら取り入れる必要があります。

大量の酸素を消費するミトコンドリアは、その活動に伴って活性酸素種(ROS)と呼ばれる、細胞内での代謝プロセスに伴って立ち上る「のろし」のような副産物を生じます。
低レベルのROSはホルミシス効果をもたらし、適応反応によってミトコンドリア機能をさらに強化してくれます。

ただし、注意すべきは、私たちが日常生活の中で、大気汚染、アルコール、たばこの煙、重金属、溶剤、殺虫剤、紫外線、高温環境、焦げた食品、さらには特定の薬剤など、意図せずして大量のROSを体内に取り込んでしまっているという点です。
これらは、細胞を傷つける有害物質となり得ます。

このようなダメージに対抗するためには、抗酸化物質に富んだ食事が有効です。
カラフルな果物や野菜、スピルリナやクロレラといった天然の解毒力を持つ食品を積極的に取り入れることで、体内の抗酸化防御機構を強化し、ROSの悪影響を最小限に抑えることができます。
また、自然の中で過ごすなどストレスの多い環境から距離を置くことにも効果が期待できます。

細胞のバッテリー容量を増やす

習慣を変えるのは大変だが、自動操縦をオフにして、それをやり遂げるのがバイオハックだ。バイオハックは、習慣を変えるための手法(観察、測定、継続的な記録による自己認識)とツール(臨床検査、訓練、介入、進捗のモニタリング手段)を提供する。あなたの身体はあなたの家であり、その目的はもっぱらあなたに奉仕し、あなたを守ることにある。

オランダの医師マフトルド・ヒューバー氏は、健康を「逆境に適応し、自己管理する力」と定義し、そのコンセプトを「ポジティヴ・ヘルス」とネーミングしています。
著者もまた、逆境への柔軟な適応力こそが健康の本質だと語ります。
ストレスをゼロにすることは不可能ですが、それにどう対応し、しなやかに立ち直るか。
その回復力こそが、真の健康を支えてくれるのです。

過食、睡眠不足、運動不足、人間関係の希薄さ、SNSの過剰使用、そしてアルコールやカフェインに頼る日々。
これらの悪い習慣が私たちの適応力を下げ、エネルギーを奪う落とし穴です。
私自身、かつてはアルコールでストレスを紛らわせていましたが、2007年に断酒を決意し、そこから脳と体の本来の力を取り戻しました。
自分の体調や生活習慣をトラッキングし、現状を把握することこそが、改善への第一歩なのです。

重要なのは、細胞の「バッテリー容量」そのものを増やすことだと著者は繰り返し述べています。
そのためには、運動と休養をバランスよく取り入れて細胞のエネルギー生成力を高め、栄養価の高い食事を適切なタイミングで摂り、十分な睡眠や自然とのふれあい、瞑想などを通じてストレスを緩和し、信頼できる人とのつながりを大切にして心の充電を図るのです。
エネルギーが増えることで自然とパフォーマンスは上がり、仕事も人生も好転していきます。

日常の積極的活動が戦略的に健康を支える

NEATはただ歩き回ったり、バスをつかまえるために走ったり、 庭仕事をしたり、掃除したり、せかせかと身体を動かしたりするだけで達成される。こうした活動は1日を通してかなり積み上がっていく。

エネルギーを最適化するうえで見逃せないのが、非運動性活動熱産生(Non-Exercise Activity Thermogenesis)、すなわちNEATの概念です。
NEATとは、日常生活におけるあらゆる動きのこと。
たとえば、歩く、階段を使う、掃除をする、買い物に行く、話しながら身振り手振りを交えるといった動作などです。

これらの小さな活動は一見地味に思えるかもしれませんが、実は身体のエネルギー消費に大きな影響を与える重要な要素なのです。
特に現代のようにデスクワークが中心となり、座りがちなライフスタイルが常態化している環境では、NEATの積極的な活用が健康とパフォーマンスの鍵となります。

著者は、こうした日常的な動作の一つひとつを「運動」と捉え日中の身体活動を意識的に増やすことで、ミトコンドリアの活性化、血糖値の安定化、さらには精神的なクリアさの向上まで期待できると述べています。
このような視点で生活を見直すことは、忙しいビジネスパーソンにとって非常に実用的かつ持続可能な健康習慣であり、創造力や意識の明晰さにもよりよい影響を及ぼします。

例えば、集中力が切れたタイミングで立ち上がり、軽くその場で足踏みやストレッチをするだけでも、血流が促進され脳の活性化に繋がります。
加えて、通勤ルートを1駅分歩く、エレベーターではなく階段を使う、昼休みに散歩する、資料を読みながら歩くなどの工夫も、蓄積すれば大きな健康利益です。

私も以前から歩くことを意識し、1日1万歩を日課にしていますが、歩くことで脳が活性化し、ビジネスにも良い影響を与えています。
その際、オーディオブックで読書をすることで、健康と学びの一石二鳥を狙っています。

このようにNEATを「運動」と捉え直すことで、忙しい日常においても自分なりのペースで身体を動かし続けることが可能になります。
これは単なる健康習慣ではなく、エネルギーを高め、集中力と感情の安定性を向上させるための戦略的な介入であり、現代の知的労働者にとっての必須スキルとも言えます。

食へのハック+マインドフルネス、ファスティング

食事においては「自分に合う食べ物を知る」ことが重要です。
世間で「体に良い」とされる食品も、必ずしもあなたの体に合うとは限りません。
植物性食品や魚介類を中心とした高栄養な食事を基本にしながら、自分にとっての“元気の源”を見つけるプロセスが鍵になります。

さらに、「マインドフルネス」も大切な要素です。
今この瞬間に意識を集中させることで思考をクリアにし、ストレスに振り回されることなく心の安定が手に入るのです。
疲れやすくなった、集中力が続かない、ストレスに負けそうになる。
そんな日々を変えたいと思ったときこそ、この本が力になります。

食べない時間を長くする、つまりファスティング(断食)をするか、ケトジェニックダイエットのような超低炭水化物食にすることで、炭水化物の摂取量を減らすことができる。炭水化物の摂取量を減らせば、燃料を切り替える練習の機会を身体に与えることができる。炭水化物を摂らなければ、身体はグルコースやグリコーゲンをすぐに使い果たし、別の燃料を探さざるをえないからだ。

ファスティング(断食)は脳の健康に良い影響を与えます。
さらに、ケトジェニックダイエットによって炭水化物の摂取量を減らすと、身体は脂肪を代謝してエネルギーを得ようとします。
この代謝の切り替えこそが、ミトコンドリアを鍛え、柔軟でエネルギー効率の高い体内環境を構築する鍵です。

また、ミトホルミシス(適度なストレスによる適応反応)の考え方は、冷水浴やサウナといった温度刺激を健康に活かす実践として紹介されています。
私自身もアイスバスを体験する中で、呼吸の重要性に気づき、身体に適度なストレスを意識的に与えるようになってから、その効果を実感しています。
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他者との良好なつながりが健康を強化する

私は、人間関係の質がエネルギー容量に大きな影響を及ぼすことに気づいた。 人間関係の質は生活の質を実際に大きく左右する。

ソーシャルメディアの利便性は私たちの生活を豊かにする一方で、その利用方法によっては心身に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
ソーシャルメディアがもしあなたの気分や健康に悪影響を与えていると感じるなら、その原因と背景を深く掘り下げ、意識的にスクリーンタイムを減らすことで、より健康的で充実した体験に時間を費やせるようになるでしょう。

現代社会はまさに「認知の危機」に直面していると言われています。
膨大な情報の洪水の中で、本当に価値のある情報を見極め、それを理解し、行動に繋げる能力が損なわれつつあるのです。
うつ病や不安障害、ADHD、認知症、自閉症スペクトラムなど、神経認知機能に影響を与える疾患が世界的に増加している現状は、この情報過多の時代と無関係ではないのです。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のアダム・ガザレイ博士は、過度なテクノロジーへの接触が、自然との触れ合い、身体を動かす習慣、そして質の高い睡眠といった、健全な精神と身体を保つために不可欠な要素を阻害していると警鐘を鳴らしています。

さらに、人との直接的な交流が減少することで、共感性や社会性の低下が引き起こされる可能性についても、徐々に明らかになりつつあります。
だからこそ、テクノロジーから意識的に距離を置き、スマートフォンの使用時間を制限すること、そして現実世界での対面交流を増やすことが、健康な生き方への第一歩となるのです。

人とのつながりは、私たちの心身に深い癒しと活力を与えてくれます。
実際に、社会的ネットワークが豊かな人ほど、うつ病や肥満のリスクが低く、健康寿命が長いことが、数多くの研究によって明らかにされています。

その一方で、孤独は深刻な健康リスクとなります。
年齢を重ねても、積極的な社会参加は幸福感に直結します。
実際に、67歳から95歳の高齢者を対象にした調査では、社会活動が幸福度に最も強い影響を与える因子であることが明らかになっています。
人との交流は、幸せホルモンとして知られるオキシトシンの分泌を促進し、心を穏やかに保ち、身体の修復機能を高める力があります。

私たちの生命エネルギーは、細胞を巡る回路のように働いています。
安全と危険を察知し、適応的に反応するこのシステムは、まさに宇宙の英知そのものであり、無限の愛と美と創造性を内包したフィールドの一部だという著者の言葉に共感を覚えました。
この神聖なエネルギーに触れるとき、私たちは人生を真に楽しみ、家族や愛を生きる支えとして受け入れ、自らを深く慈しむことができるようになります。

愛に従い、意識的にエネルギーを注ぐ先を選び取る生き方は、結果として私たちの健康を支え、自己実現の基盤ともなっていきます。
疲れやすい、集中力が続かない、ストレスに押しつぶされそうになる。
そんな毎日を変えたいと思う人にとって、本書は、自分の中にある生きる力を呼び覚まし、心と体を整えるための実践的な知恵を教えてくれます。

出典:脳と身体を最適化せよ!――「明晰な頭脳」「疲れない肉体」「不老長寿」を実現する科学的健康法(モリー・マルーフ)の書評
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。


著者:徳本昌大、松村太郎(2024年8月6日発売)
世界で初めて時価総額3兆ドル企業となり、次々と革新的な製品を世に送り出すアップル。世界中の人々の生活にイノベーションを起こし、絶えず高成長・高収益を継続している魅力的な投資先でもあります。アップルは、ビジネスをどのようにして考え、実行し、成果を上げているのか。アップルのように考え、行動するには、どうすればよいのか。17のビジネスフレームワークを用いて、アップルを読み解きその成功の要因を明かします!

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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