【書評】ESG経営で注目される最先端のビジネステクノロジーを解説
- 2021/10/29
- 書評
経済成長だけを求める経営は過去のものです。長期的成長に重要な、環境(environment)・社会(society)・カバナンス(Governance)への取り組みESGに対する企業姿勢が、ようやく日本でも問われるようになりました。そこで注目されるのが、最先端のテクノロジーを活用して社会課題をビジネスチャンスに変える施策です。ESGやSDGs(持続可能な開発目標)とビジネスの関係において日本はどうあるべきなのでしょうか。山本康正著「世界を変える5つのテクノロジー ―SDGs、ESGの最前線」ではヒントとなるテクノロジーのあり方を紐解いています。企業支援のエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏の書評から紹介します。
世界を変える5つのテクノロジー ――SDGs、ESGの最前線
著者:山本康正(祥伝社)
目次
本書の要約
海外の企業は社会課題に対応するのが当たり前になってきています。
投資家や生活者が、環境に優しくない会社を受け入れなくなり、テクノロジーに投資をしない企業に未来はありません。
自社の存在意義を再定義し、社会課題を解決するために欠かせない、GAFAMのテクノロジーを活用することで、顧客やパートナーから支持されるようになります。
ESG・SDGsと経済を両立する5つのテクノロジー
SNSの普及によって個人の声が企業に届く時代になりました。社会課題に対する企業の姿勢に反対する市民が声をあげ、そこからグローバルな不買運動が起きることも今では珍しくありません。
サステナビリティへの配慮
世界最大の資産運用会社であるブラックロックは、2020年の「サステナビリティ宣言」で気候変動を投資決定の中心に置くと発表して、投資方針と運用スタイルを大きく転換しました。
この宣言は、世界の株式市場に大きな影響をもたらし、ESGに無関心な企業は投資先として評価されづらくなりました。
環境に配慮しない投資不適格企業は、資金調達が難しくなりつつあるのです。
ESG視点で峻別しているのは投資家だけではありません。
AppleやMicrosoftは、サステナビリティに関する取り組みを、自社だけでなくサプライチェーン全体にまで広げています。
このように、サステナビリティへの配慮に欠けた企業は、取引先のサプライチェーンから外される可能性が高まっているのです。
市民目線で環境重視経営を
SNSでの情報発信が当たり前になり、経営者は市民が疑問を抱かぬよう、環境に優しい経営に取り組むしかないのです。
そのような中で脚光を浴びているのが、社会課題の解決を目的とする5つのビジネステクノロジーです。
- 食料不足×フードテック
ビヨンドミートやインポッシブル・フードなどの代替肉のフードテック
Oishii Farm(オイシイファーム)などの植物工場などのアグリテック - 教育格差×エドテック
「Khan Academy(カーンアカデミー)」や「Coursera(コーセラ)」、「スタディサプリ」などのオンライン学習支援サービス - 医療・介護×ヘルステック
AmazonやApple、Microsoftが医療分野に進出しています。グーグルの関連会社であるディープマインド社は、タンパク質の機能を知るために必須となる立体構造を明らかにし、創薬の手法を改良しています。 - 気候変動×クリーンテック
テスラのソーラー事業により、太陽光というクリーンな電力を家庭内で貯め、夜間はもちろん、災害などの非常時でも使うことができるようになっています。 - 大量廃棄×リサイクル
リサイクルやリユースが当たり前になり、資源の再利用が進みます。
Appleに見るパーパス経営
将来的にすべての製品をリサイクル材だけを使って生産する。(ティム・クック)
2020年7月、Appleは2030年までに自社オフィスだけでなく、世界中の製造サプライチェーンの100パーセントカーボンニュートラル達成を約束すると発表しました。
また今年、世界中の製造パートナー110社以上が、Apple製品の製造に用いる電力を、100パーセント再生可能エネルギーに切り替えていくという新たな目標を発表しています。
それだけでなく、Appleはゴールドマン・サックスや国際環境保護団体のコンサーベーション・インターナショナルとの共同で、パートナー各社と2億ドル規模のファンドを設立し、年間100万トンの二酸化炭素削減を目標とする森林プロジェクトに直接投資する「Restore Fund(再生基金)」もスタートさせています。
パートナー企業を巻き込みESG軸の経営を
iPhoneやMacなどには、希少な天然資源であるレアメタルが原材料として使われています。
これらの鉱物の採掘・精錬する過程で発生する温室効果化ガスの排出を抑えるため、自社製品に使われる鉱物資源を完全リサイクルすることで、顧客の支持を得ようとしているのです。
また、役員のボーナスを社会的・環境的な価値、つまりESGに対するパフォーマンスに基づいて最大10パーセント増減させることも発表しています。
このような、役員報酬を決定する際にESG指標を考慮するグローバル企業は、2018年以降、増加していると言われています。
SXを意識した経営戦略
Appleは、パートナーにも企業の稼ぐ力とESG の両立を図るSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を求めています。
今後、日本企業もSXの波に乗り遅れるとGAFAMなどとの取引ができなくなる可能性が高まるでしょう。
そこで著者は、経営者は以下の3つのことを理解し、実践すべきだと指摘します。
- 時代と社会の動きをしっかり掴んでいること。
- 今の時代の最先端にはどんなテクノロジーが可能性を秘めていて、自分たちは何に長けているかを客観的に認識すること。
- 社内をしっかりと説得すること。
今のままでは先がないという自己否定を出発点に、「では我々はどう変わっていくべきか」を真剣に模索することが、ESGやSDGsを組織に根付かせるための一番の近道になります。
現代の社会では、ESGを経営の中心に位置づけ、企業の存在意義に基軸を置いたパーパス経営を実践していくことが求められています。
そのため経営者は、社会課題を“自分ごと化”すると同時に、テクノロジー投資を躊躇ってはいけないのです。
徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「山本康正氏の世界を変える5つのテクノロジー――SDGs、ESGの最前線の書評」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。