【書評】フードテック革命が地球を救う?

近年注目を浴びるフードテック(Food Tech)という分野をご存じでしょうか。
食と最新テクノロジーを組み合わせ、世界中の食に関する課題を解決しようとする注目の産業分野です。
環境や健康によい代替食の開発、食分野の細菌感知、無人農場、長期保存技術など範囲は広く市場規模は700兆円と言われています。
IT分野、海外ベンチャー動向に詳しく書評ブロガーとしても有名な徳本昌大氏が、この分野の良書について記事を書かれていますのでご案内いたします。

本書の要約

工業化した食肉が人の健康を蝕むだけでなく、地球環境を破壊しています。この問題を解決するために、多くのフードテックが開発に取り組み、代替肉のクオリティが高まっています。ビヨンドミートやインポッシブルフーズは、セレブやZ世代から支持され、マーケットを拡大しています。

 

フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義(日経BP)
著者:田中宏隆、岡田亜希子、瀬川明秀

代替肉マーケットが拡大する理由

「どうやって世界100億人の胃袋を満たすのか?」2050年、そう遠くない将来に、世界人口は19年の77億人から急増し、97億人に達するという国際連合の予測がある。世界の人口が”爆発”していく中で、現状のままの食料、特にプロテイン生産体制では持たないという強い危機感がある。(田中宏隆、岡田亜希子、瀬川明秀)

フードテック革命の書評を続けます。世界の人口が100億人に近づく中、食料問題に対する危機感が高まっています。人口が増加し、中間層が増えれば、肉の消費量は確実にアップすることは、中国を見れば、簡単に予測できます。
また、どこかのタイミングで人口が減り始めたとしても、中間層が拡大することで、肉の消費量は増え続ける可能性が高いのです。

現在の食肉供給を支えている畜産の実態は、数多くの問題を抱えていると著者たちは指摘します。今後の人口増に伴う食肉の需要の増加に対して、これ以上、供給を増やすことは難しくなっています。
世界的に見れば、農地の面積をこれ以上増やせない中、狭い養鶏・養豚場内という劣悪な環境で鶏や豚たちは、育ててられています。

アメリカではできるだけ早く食肉として出荷できるよう、抗生物質やビタミン剤を使ったり、あるいは品種改良が繰り返されています。
本来草食動物である牛に、飼料として多く使われているのは穀物のトウモロコシですが、これが牛に負担をかけています。私たちは以前の牛肉とは異なる新種の牛を食べているのです。

1957年当時、鶏はふ化から57日目は905グラムでしたが、2005年では同じ57日目で4202グラムにまで成長しています。

細胞農業の研究機関であるニューハーベストのCEOであるイシャ・デイター氏は、「鶏は5週目で食肉処理されなければならない。なぜなら、その後自らの足で立てなくなるほど肥大化するからだ。つまり私たちは生物学上の限界まで家畜を品種改良してしまった」と述べています。
生育を早める無理な畜産によって、感染症を発生させるリスクが高まっています。豚熱や鳥インフルエンザといった感染症が今まで発生してきましたが、工業化された家畜の飼育が新たなウイルスの発生をもたらしている可能性があるのです。

しかし、このような畜産の工業化を行ったとしても、今後の人口増に対して十分な食肉を供給できません。そうした家畜の育てられ方は、動物の命を育み、自然に感謝してそれをいただくという倫理に反すると、動物愛護の観点からも批判が集まっています。

さらに、どれほど早く育てようと品種改良をしても、動物である以上、育てるためには飼料、水、空調管理など膨大なエネルギーを必要とし、植物に比べて畜産の環境負荷は非常に高くなっています。

地球上で暮らす人間全体では、1日に水200億リットル、食料10億トンを消費する。それに対して、地球上にいる家畜としての牛15億頭は、1日に1700億リットルの水、600億トンの食料が必要となる。これだけの食糧と水を生み出すには、広大な土地が必要だ。ヴィーガン(完全菜食主義者)であれば、一人が生涯を通して生きるための植物を育てるのに必要な農地は4000平方メートルだという。卵や乳製品を食べるベジタリアンであれば、その3倍が必要となる。

米国人の平均的な肉食の人の場合、その食生活を支えるにはヴィーガンの実に18倍の農地が必要だという試算があります。人口が増加し、中間層が肉を食べる中で、これだけの農地を確保することは難しくなります。
あのユヴァル・ノア・ハラリも次のように述べています。

現在地球上には、家畜化された豚10億頭、牛15億頭、鶏5000億羽が暮らしている。ライオンが全世界で4万頭、象が50万頭であることを見ると、地球上のほとんどの脊椎動物は家畜である。これまでの技術革新が動物を生き物としてではなく、食肉、牛乳、卵を生産する機械として進化させている。(ユヴァル・ノア・ハラリ)

この食肉の工業化という課題を解決するために、多くのスタートアップが代替肉マーケットにチャレンジしています。今日はインポッシブルフーズとビヨンドミートの取り組みを紹介します。

インポッシブルフーズとビヨンドミート

代替肉に取り組む多くのスタートアップが、自社のミッションとして「動物に頼らないプロテイン供給」をあげています。

インポッシブルフーズは、特にこのミッションを前面に掲げます。
同社の2019年の「Impact Report」よると、19年に販売開始したインポッシブルバーガー2.0は、1個当たりに換算して、一般的な食肉バーガーと比較して水の利用量を87%削減しています。土地の利用面積は96%削減、温暖化ガスの排出量は89%削減を達成するなど、環境保護に貢献しています。

このインポッシブルフーズの動きは、ヴィーガンだけでなく、環境問題に敏感なセレブや「Z世代」に大きな影響を与えています。

代替肉は、需要の面からもこれ以上の市場を獲得できる可能性があります。世界では、肉食に制限を設けている宗教がありますが、代替肉が「摂取可能な食材」として認定され始めています。

例えばインポッシブルフーズの植物性代替肉は、ユダヤ教の食事規定に従った食品である「コーシャ」の認定を受けています。宗教的な理由で「肉が食べられない」人たちにとって、代替肉は新しい食材になる可能性を秘めているのです。

インポッシブルフーズは、肉と同じ喫食体験を追求し、レストランクオリティーのハンバーガーを提供しています。
創業者のパトリック・ブラウンはスタンフォード大学の医学部教授で、テクノロジーを活用して、代替肉のレベルアップをはかっています。

彼のミッションは、家畜の要らない世界をつくることで、インポッシブルフーズは、 肉の要素を栄養、フレーバー、見た目と調理体験、食べ心地と大きく4つに分け、これらを肉と全く同じ、あるいはそれ以上のことができないかを模索しています。

ヘム鉄を活用することで、肉の食感を再現したインポッシブルバーガーは、アメリカの高級レストランで取り扱われています。
同社はセレブやZ世代から支持されることで、マーケットを拡大しています。今後は豚肉の代替肉のインポッシブルポークでアジアにも販路を広げようとしています。

インポッシブルフーズの対抗馬のビヨンドミートは、より食材にこだわります。創業者のイーサン・ブラウンは、再生可能エネルギー業界から食品業界に転向しました。
ビヨンドミートはインポッシブルフーズと異なり、遺伝子組み換え食品、大豆、グルテンは使わないようにしています。エンドウ豆と米、ココナツオイルやポテトスターチなどを駆使して肉の食感に近づけています。

同社は早くから米国のオーガニック食品スーパーのホールフーズ・マーケットなど、小売りをチャネルとしてパティやソーセージを展開しています。また、アメリカのケンタッキーフライドチキンやマクドナルドといったファストフードチェーンにも広く商品を供給しています。

ビヨンドミートはインポッシブルフーズとは違って遺伝子組み換えの素材は使っていないため、規制に対応しやすい製品に仕上がっていることで欧州などへの海外展開をスピーディに行っています。このビヨンドミートはいち早くナスダックにIPOを行い、株価も堅調に推移しています。

健康や環境を意識する人が増加する中で、代替肉マーケットは拡大を続けます。食感などの問題をクリアすれば、世界中をマーケットにすることが可能です。インポッシブルフーズとビヨンドミートの動きに関しては、今後も注目していきたいと思います。

徳本氏の著書「「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)」

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「ビヨンド・ミートやインポッシブルフーズが変えるフードテックの未来」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
ビズライト・テクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
情報経営イノベーション専門職大学【iU】客員教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。 特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。

現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。

ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

この著者の最新の記事

関連記事

編集部おすすめ記事

年別アーカイブ

ページ上部へ戻る