女性アドバイザーが事業承継問題の救世主に!これからの中小企業M&Aを支える素質とは
- 2020/9/21
- M&A
経営コンサルタント、特に中小企業分野においては女性の数がとても少ないのが現状です。
国家資格である中小企業診断士においても、直近のデーターでは女性比率が8%台です。
М&Aアドバイザーの集計データーはありませんが、更に低いことは間違いありません。
しかしながら、М&A・事業承継分野における女性のポテンシャル・役割は高い評価を得ており、徐々に活躍している女性アドバイザーも増えてきました。
その中の一人、中小企業診断士であり、М&Aアドバイザリー会社を経て独立した柿本美沙さんに記事を寄稿頂きました。
経営者を支える女性たち
中小企業のオーナー社長のみなさんに、こんな質問を投げかけてみたいと思います。
あなたが「本音で話せる相手」は誰ですか?
・奥様
・コンサルタント
・カウンセラー
・付き合いの長い秘書
・スナックのママ …etc.
上記はほんの一例にすぎませんが、共通点として何が挙げられると思いますか?
そう、「女性」が多い点です。
さらに質問してみたいのですが、あなたがその相手に本音で話せるのは、なぜだと思いますか?
・気持ちを理解してくれるから
・気遣いが素晴らしいから
・立場に関係なく、気づいたことを指摘してくれるから
・自分にはない視点やエッセンスをくれるから …etc.
様々な理由があるでしょう。
経営者を陰で支える立場にある人物というのは女性が多く、それがコンサルタントであれ、カウンセラーであれ、行きつけのスナックのママであれ、実は女性であるという特性自体が適している要素のではないか、と筆者は考えています。
そして、このことは中小企業のM&Aのアドバイザーにも当てはまるのではないかと考えています。
いま、女性のアドバイザーに出会う機会は、1年に1回あるかないか、というほど希少です。
ですが、今後はもっと多くの女性がアドバイザーとして活躍できるのではないかと思うのです。
中小企業M&Aで本当に求められるスキルとは
そもそも「M&A」と聞くと、どんなワードが思い浮かびますか?
法務、財務、税務などの高度なビジネススキルが複雑に絡み合い、大量の契約書のやりとりが続き、厳しい交渉力が求められ‥‥。
なんだか重苦しく、堅そうなイメージを持つ方が多いのかもしれません。
実際、数百億円の大規模なM&Aの世界では、投資銀行のアドバイザーを中心に弁護士や会計士が駆け回り、タフな交渉を何度も重ね、何カ月、ときには1年以上に渡って案件をまとめ上げていきます。
銀行マンが繰り広げる、流行りのドラマのドロドロな世界をイメージする人もいるかもしれませんね。
まさに知識人たちの「総力戦」といった世界であることは間違いありません。
しかし、いま国内で増えている中小企業の事業承継系の案件では、1番大事なのは、これらの高いビジネス知識やスキルではない、と筆者は考えています。
大事なのは、「心を読む力」や「社長に寄りそう姿勢」「傾聴力」だと感じています。
こう聞くと、唐突で先ほど述べたM&Aの世界とは、なんだかかけ離れたキーワードに聞こえますね。
少し補足をしましょう。
創業から会社の成長に全力を注いできた中小企業のオーナー社長が、会社の売却を決心するということは、どう考えても人生において一大イベントです。
「息子を送りだす気持ち」と表現されることもよくあります。
運よく、良い引継ぎ先の候補が見つかったとしても、
「本当にこの相手でいいのだろうか?」
「本当にこの条件でいいのか?」
「他にもっと良い相手がいるのでは?」
「そもそも自分はやるべきことをやり切ったのだろうか…?」
などと、深く悩むのは当然です。
その際アドバイザーは、オーナー社長の心に寄り添って、本当に譲渡先や要件について納得しているのかどうかを、しっかりと見極められる力が必要です。
実は中小規模のM&Aにおいて1番大事なのは、この複雑な感情を読む力や傾聴力なのではないかと思うのです。
いくらレベルの高い知識が豊富で、複雑なスキームを提案できたり、交渉の進め方のコツを知っていたり、ビジネススキルが高かったとしても、それだけでは絶対に成約には至りません。
交渉が進む中できちんとオーナー社長が「腑に落ちているのかどうか」を把握しなければ、どこかで必ず「ひずみ」が爆発して交渉が決裂してしまいます。
最低限の知識はもちろん必要ですが、この「心を読む力」は間違いなく重要です。
本音で話せる相手の影響力
このことに気づかされた、ある案件の話を聞いたことがあります。
とある中小企業のオーナー社長が、税理士、会計士、弁護士、金融機関などの関係者との調整事もすべて詰め終わり、10億円で会社を売却することがまとまりました。
そして翌朝に調印式(譲渡契約書に押印をする儀式)を控えていた前夜、社長は行きつけのスナックを訪ね、長年の付合いのママさんにその旨を話したところ、こう言われたそうです。
「あなたの価値は10億円なんかじゃないわよ。」
なんとこの一言で案件は破談。
売却話は振り出しに戻ってしまいました。
これを知ったときの関係者の落胆ぶりは、想像しただけでも不憫でなりません。
この出来事はいろんな捉え方ができます。
M&Aの世界では、売却側の覚悟が決まっておらず、成約直前で案件が消滅するというのは、よくある話です。
ただこの話からひとつ考えられるのは、税理士などのどんなプロフェッショナル職のメンバーよりも、結局はこの社長が本音で会話できる人物は、このスナックのママだったのではないかと想像しています。
だから調印前夜にスナックを訪れ、このたった一言が与えた影響力が絶大だったのではないでしょうか。
「本音で話せる相手」の影響力は、どんな知識やスキルにも勝るということです。
このような中小企業のM&Aにおいて、オーナー社長が腑に落ちているかどうかをきちんと把握する能力は、女性の方が長けているのではないかと考えています。
一概に言うことは難しいですが、感情変化の機微を読み取る力というのは、男性よりも女性の方が一般的には長けているのではないかという仮説に関して、ご賛同いただける方も多いのではないでしょうか。
M&Aの世界でも広がる女性活躍の可能性
実は先ほどのエピソード、筆者が営業職からM&Aビジネスに本腰を入れて関わっていこうと決意したひとつのきっかけになった話でもあります。
人の気持ちを理解することが、M&Aアドバイザーとして成功の秘訣なのではないかと考え、自分も1人の女性ビジネスパーソンとして、活躍できる余地があるのではないかと感じたのです。
冒頭で挙げた例からもわかるように「本音で話せる相手」が比較的女性が多いのは、自然とそういった心の信頼関係が築ける女性が多いからではないでしょうか。
スナックのママも大変魅力的なお仕事ではありますが、経営者が本音で話せる相手であり、かつビジネススキルを兼ね備える女性M&Aアドバイザリーの存在が増えることは、これからの世の中にとって大変価値があると考えています。
中小企業のM&Aには、ときには心の迷いがある社長に対して「この条件ではあなたは納得がいっていないはずだ」と言えるくらいの信頼関係が必要なのです。
まだまだ女性アドバイザーは少ないですが、もっと今後増えてほしいし、気持ちを理解できるアドバイザーが生み出すM&Aが世の中により多く増えていけば、より一層オーナー社長のハッピーリタイアメントが実現しやすくなるのではないでしょうか。
1件でも多く、経営者に幸せをもたらすM&Aが増えれば、世の中は明るくなることは間違いありません。
これからは女性アドバイザーが明るい未来をつくる時代だと信じながら、日々の案件に真摯に向き合いたいと考えています。