ビジネスDDの役割は、事業の現状把握と、問題点・強みの抽出

事業再生の現場でもM&Aの現場でも、ますます重要視される「ビジネスデューデリジェンス」。ビジネスDDが果たす役割と、実施の効果について、数多くの悩める中小零細企業を様々な角度から再生に導かれていらっしゃる、事業再生コンサルタントの寺嶋直史先生にお話しをうかがいます。

事業再生コンサルティングの仕事とは

私が行う「事業再生コンサルティング」の仕事は、再生企業(業績低迷して資金繰り難に陥り、金融機関向けに約定返済が困難な企業)の業績を改善することです。

具体的には、再生企業を調査して再生に陥った問題点や強みを抽出し、経営・業務の改善と売上・利益向上の施策の提案をして、その実現に向けて支援を行います。

事業再生コンサルティングの主な業務内容は、大きく3つあります。

①「ビジネスデューデリジェンス(以下、ビジネスDD)」

ビジネスDDというのは、再生企業の調査・分析を行って再生に陥った要因を突き止め、再生の施策の提案を行って、これらの内容を「事業調査報告書」にまとめることです。

②「経営改善計画書」の作成

事業調査報告書で提案した内容をアクションプラン(再生に向けた施策のスケジューリング)に落とし込み、このアクションプランを踏まえて、向う3~5年間の将来のPL(損益計算書)を作成します。

③「実行支援」

作成したアクションプランの実現に向けた支援や、日々発生する課題の解決策の提案や、現場に落とし込むための具体的な支援を行います。

 

ビジネスDDが、単なる企業情報の整理になっている実態

しかし、上記に示したビジネスDDの役割はあくまで「望ましい姿」であり、実態とはかなりかけ離れているのが現状です。なぜなら、実際の事業調査報告書というのは、多くの場合、単なる定量分析(数値の分析)が中心で、定性分析がほとんど実施されていないからです。

また、定性情報を扱っていても、単にフレームワークを活用して「情報整理」しているだけで、問題点やその原因、強みを抽出するための「分析」レベルに到達していません。さらに、再生のための具体策もほとんど明記されていないのです。つまり、再生に陥った問題点の原因や、その企業の強みが抽出できておらず、再生のための施策を構築することができていません。見た目はきれいに整理されていても中身がないのです。

その結果、事業の中身を確認することなく、PLとBSという数字だけで再生の手法が決定されるため、残念ながら実際に再生するケースは多くありません。例えば、改善可能な事業や店舗を、赤字続きという理由だけで撤退を余儀なくされることが起きるのです。

これが事業再生におけるビジネスDDの実態ですが、それでもM&AでのビジネスDDと比べるとクオリティは高いと言えます。M&AのビジネスDDは、買収企業の一般社員が実施するケースが多いため、さらに品質が低いのが現状です。

事業再生コンサルティングの実態は、ヤブ医者か営業マン

また、再生コンサルティングの実行支援も、「望ましい姿」と「実態」とでは大きく乖離があります。

例えば、定期訪問によるコンサルティングも、「モニタリング」と言って単に企業に訪問してアクションプランをチェックするのみで、実際の支援はほとんど行われません。また、中小企業の実行支援のコンサルティングでは、社長に対して「指摘のみで答えを出さない」「ヒントしか言わない」というケースが多く見受けられます。これは、コンサルタントに言わせれば「答えを出すと社長が考えなくなる」ということですが、実際は単にコンサルタントが答えを出せるスキルを持ち合わせていないだけです。

また、社長の「どうすれば改善するのですか?」という問いに対し、コンサルタントが「それを考えるのは社長でしょ?」と答えるのがごく自然で正当なもののように認識されています。再生コンサルタントは「企業の医者」です。しかも再生企業は、人間で言ったら「重病患者」です。重病患者が医者に「どうすれば治りますか?」と問いかけて、医者が「それを考えるのは患者のあなたでしょ?」と答えることなどあり得ないはずです。

再生企業の社長は、何とか再生して生き残ろうとして必死になって、企業の医者である(と考えている)コンサルタントにすがってきます。しかしコンサルタントの実態は、病気を治療できないヤブ医者か、さらには、この重病患者に対して自社のパッケージを売り込む営業マンの場合も多いのです。

再生企業(患者)が知りたいのは、再生の具体的手法(治療法)であり、どうすれば再生でき、成長できるのか(どうすれば完治して元気になるのか)です。これが顧客のニーズです。今の時代、顧客のニーズを無視して成り立つ事業などないはずなのです。

ビジネスDDの役割は、事業の現状把握と、問題点・強みの抽出

ビジネスDDの役割は、単にフレームワークを活用して情報を整理したり、分析したりすることではありません。再生企業を再生に導くために、問題点と強みを抽出し、企業の経営改善施策や強み活用の施策につなげていくことです。

そのための「質の高いビジネスDD」というのは、「企業全体の詳細の減少が把握できており、その中で細かいところまで徹底的に問題点を抽出して原因を究明し、さらに強みを抽出して、これらを踏まえた具体的な改善策や成長の戦略および戦術が示された事業調査報告書」なのです。

質の高いビジネスDDのポイントは、以下の4点です。

【質の高いビジネスDDのポイント】

① 企業の全体について詳細に現状把握できること

② 1つ1つ丁寧に問題点の抽出とその原因が究明されていること

③ 1つ1つ丁寧に強みが抽出されていること

④ 問題点や強みを踏まえ、具体的な戦略と戦術が示されていること

中小企業の場合、経営や組織、営業や製造など、各機能で多くの問題が存在しており、そして各問題点の原因は1つではありません。そのため、個々の問題点に注目し、それらの原因を究明することが重要です。

例えば「営業成績低下」という問題点がある場合、営業の手法が効果的でなかったり、営業の管理体制に問題があったり、或いは組織体制に問題があったりと、原因は様々である場合が多いのです。そのため、問題点の原因を1つ1つ丁寧に掘り下げていき、真の原因を究明することが重要です。問題点だけで原因を究明しなければ改善はできません。問題点の「真の原因」を究明して初めて、そこにメスを入れて改善策を構築することができるのです。

また、中小企業は自社の強みを理解していない場合が多くあります。そのため、ビジネスDDでしっかりと強みを抽出し、その強みを活かした施策を構築することで、初めて成長施策を打ち出すことができます。

こうして、問題点の改善策や、強みを活かした成長施策を明確にすることで、事業再生の場合は再生企業の再生が実現し、M&Aの場合は、早期にシナジー効果を発揮することができるのです。

寺嶋直史
事業再生コンサルタント
中小企業診断士
(株)レヴィング・パートナー代表取締役

投稿者プロフィール
大手総合電機メーカーに15年在籍し、部門で社長賞等多数の業績に貢献、個人では幹部候補にも抜擢される。その後独立してコンサルティング会社を立ち上げ、多くの中小零細の再生企業を、経営改善や業務見直し、ブランディングなど、様々な問題解決により再生に導いている。
その他、1年で一流の経営コンサルタントを養成する「経営コンサルタント養成塾」の塾長として、金融機関対応、問題解決思考、ヒアリング手法などの基礎から、事業デューデリジェンス、財務分析、経営改善手法、事業計画、マーケティング・ブランディングなど、様々な講義をすべて1人で実施している。
著書に「再生コンサルティングの質を高める 事業デューデリジェンスの実務入門」(中央経済社出版)、「究極の問題解決力が身につく 瞬発思考」(文響社)、「儲かる中小企業になる ブランディングの教科書」(日本実業出版社)等がある。

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