会社や事業は無理せず、誰かに引き継いでいいんです
- 2020/11/11
- M&A
- 「スモールM&A」の活用術
ここ数年、事業規模が比較的小さいM&Aが拡大しつつあります。取引金額では、数百万円から数千万円程度、従業員規模で数名から30名以下というのがボリュームゾーンです。
地域の美味しいご飯屋さんや、伝統ある旅館、技術を持つ中小企業も、お子さまや親族が引き継いでいくのが当然のようだったものが、現在では新しい事業の引継ぎ方が増えています。その理由を見ていきましょう。
目次
「親族内承継」は減り、「外部承継」が増えている訳
①会社を継がないご子息・ご息女達
中小企業庁の調査によると20年前に約9割であった親族内承継は年々減少し、直近の調査では4割を切っています。端的に言えば、会社を継いで維持する自信も、メリットも無いと判断しているからでしょう。
親のしがらみや借金を背負うのであれば、別の人生を歩みたいという気持ちも理解できます。後継者不在の中小企業は127万社とも言われています。
②次々と訪れる外部環境の変化
「法改正」の影響によるコスト高などの理由で、売却を決定するケースも増加中です。業界例ですと、人材派遣、介護、運輸、調剤薬局などです。
逆に、許認可申請が厳しくなった金融関連事業等では、売上がゼロでも高値で売買されるケースもあります。「競争の激化」も多い理由ですが、モノをつくれば売れた時代を経験した経営者自身が進化を拒んでいるケースも多く、世代交代の必要性を感じます。
③大きな声では言えない売却理由
銀行や従業員には表立って伝えにくい理由もあります。私の経験で多いのは「経営に飽きた」という本音トークです。創業社長は突破力がある代わりに、安定期に入ると他の事業に目移りしがちです。
また、事業を始めたものの、「実は社長業が向いていなかった」ということに気づき、悩んでいる経営者も多いです。
その他「海外でのんびりしたい」、「人生観が変わった」等の声もよく聞きます。事業意欲が低いまま経営を続けるのは、精神的にも負担がかかりますので、納得できる理由ではあります。
④事業を中古で仕入れる発想
事業が新規でなければいけない理由はありません。
中古不動産のリノベーションのように、手直しすれば生き返る事業や会社・組織は沢山あります。元来、日本のビジネスマンは、既存のビジネスを真似て修正するのが得意であり、その観点からも新規事業にM&Aを取り入れるのは、自然な流れかもしれません。
そこに気づき始めた方々がこの市場に注目しつつあります。事業は創るものではなく、買って伸ばすもの。そんな新たな常識が生まれつつあります。
成功までの時間を短縮し、事業投資リスクを軽減する手段として、スモールM&Aが注目を浴びるのは自然の流れかもしれません。
⑤再生型М&Aの増加
2019年、国税庁発表の法人税申告法人数は292万社です。黒字申告割合は34.7%なので、約6割程度は赤字申告の会社となります。中には債務超過、資金繰り悪化、課題債務などを抱える会社が多数あります。
М&A分野では、難易度が高いと言われる分野ですが、最もボリュームゾーンが多い層でもあります。今後この分野に対応できる投資家とアドバイザーが増えることが求められています。
事業はどこで買えるのか?
不動産や上場株式のように、正式な流通市場がある訳ではありませんが、経済産業省が各都道府県に設置する相談窓口や、専門の仲介サイトもここ数年でかなりの数が登場してきました。
将来的には、売手自らが情報発信し、それを人口知能(AI)が売手と買手とマッチングする時代が来るかもしれません。
ただし、まだ売手側の精神的なハードルが高く、表に出る案件は氷山の一角です。幸いこの分野に興味を持つ方々が増えてきたので、それに比例して案件流通の速度や量も増加すると予測します。自らの人脈や情報ルートを使って売手を見つけることも一案でしょう。
今後事業を買ったとしても、予定通りに行かないことがあるかもしれません。きっと、沢山の喜怒哀楽をリアルに味わえるはずです。事業投資のオーナー側に来た方々は、皆さん人間味あふれる方がとても多く、苦労しているように見えても本人は楽しんでいるケースがほとんどです。
リカバリーしやすいサイズで、仮に失敗しても致命傷を負わず、次の糧にできるスモールM&Aは、第一歩を踏み出すには最適な選択肢だと確信しています。