キノコ産地発、直販モデルの挑戦―相場に左右されないブランド戦略

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キノコの産地・大木町で、株式会社ドリームマッシュを運営する代表の廣松謙伸氏は、20代、未経験でキノコ事業に参画し、市場価格の暴落という危機に直面して「自分たちで売る」決断を下されました。以降、業務用市場に特化した直販モデルを確立し、鮮度と利便性を武器に事業を成長させ、“幻のキノコ”のブランド化や冷凍技術の開発、循環型ビジネスへの挑戦など、次々と新たな価値創出に取り組んでいらっしゃいます。その意思決定と戦略の背景についてお話いただきました。

偶然から始まった挑戦――未経験で飛び込んだキノコ事業

Z-EN――御社のメイン事業であるキノコの栽培と加工、出荷について、特に強みとしている領域を教えていただけますか。

廣松謙伸氏(以下、廣松氏)――弊社の所在地、三潴郡大木町(ミズマグン オオキマチ)は、キノコの産地なんです。
キノコを扱う会社が15社ぐらいあって、しめじ、えのき、エリンギ、椎茸を中心に、珍しいスギタケやユキレイタケなども含めて産地化しています。
その中でも弊社は少し特殊で、通常、JA出荷が中心のところJAにはほとんど出さず、9割以上を自社で販売しています。

外食、中食、病院、学校給食などの業務用顧客に対して、鮮度と利便性に優れたキノコを自社で直接提供することで、他社との差別化を図り売上を伸ばしています。

――キノコの事業を始められたきっかけがあったんですか。

廣松氏――この地域をキノコ産地にした先輩方の存在が大きいですね。
今は引退されている第一世代の方々が、大木町をキノコ産地にしました。

その中で、ある経営者が、1社で規模を拡大するのではなく農事組合法人をたくさん作り、経営者や生産者の仲間を増やして産地化していこうと、まず女性だけの法人を立ち上げ、ノウハウもすべて提供されたんです。

その次に、若者だけの法人を作ろうと、20代の若者を探していたところ、当時、大卒2年目で会社勤めをしていた私がいとこに誘われ話を聞きに行ったのがきっかけです。
当時の仕事も面白くて辞めるつもりもなく、キノコにも全く興味はなかったんですが、話を聞いてキノコの魅力を知り、自分もやりたい!という気持ちが高まったんですね。

価格暴落を転機に「自分たちで売る」という決断

――創業当時の課題はありましたか。

廣松氏――立ち上げメンバーは全員22〜24歳の素人4人ですから、当然、不安や戸惑いがありました。
ただ、栽培技術や法人運営、資金借入などのノウハウを提供してもらって始められたことは恵まれていましたね。

当初は市場出荷モデルだったんですが、1年目に市場価格が過去にないほど暴落し、事業計を立てていたものの借金を返せる状況ではなくなり、「自分たちで売るしかない」と覚悟を決めました
工場建設に約2億6000万円かかり、その半分が借入だったので、大きな転機でした。

――そこから自社で販路を探す決断をされたんですね。

廣松氏――このままでは給料も払えない、借金も返せない状況だったので、非常に厳しかったです。
ただ、ここで腹をくくったとも言えますね。

業務用特化で築いた独自ポジションと差別化戦略

――業務用に特化した理由は何だったんですか。

廣松氏――JA以外で売る場合、スーパーや仲卸だと販路がJAとバッティングする問題があります。
その点、業務用は別の市場なので、そこに可能性を感じて始めました。
また、小売は相場の影響を強く受けますが、業務用は工夫次第で相場に左右されにくくなるという点も大きかったです。

――幻のキノコ「博多すぎたけ」について教えてください。

幻のキノコ「博多すぎたけ」
正式名は、「ヌメリスギタケ」

廣松氏――正式名は「ヌメリスギタケ」で、野生のものはとても美味しいのですが、なかなか採れません。
人工栽培に成功しましたが、大量生産が難しいキノコです。
シャキシャキとした食感と濃厚な風味が特長で、美味しさには定評があります。

小売店にはほとんど販売しないので一般的には知られていませんが、香港のラグジュアリーホテルにも継続して使用していただいており、プロの料理人から高い評価を得ています
国内でも高級飲食店を中心に販売しています。
企業とのコラボで「博多すぎたけ 幻のキノコフェア」なども開催しています。

ラグジュアリーホテルのシェフと
右が廣松さん

勝機は諦めなかったこと!技術革新への執念

――キノコを販売するうえでの他社との差別化について、もう少しお話いただけますか。

廣松氏――一番の強みはやはり品質と利便性です。

一般のキノコは流通経路が長く鮮度が落ちがちですが、うちは新鮮な状態で届けることができます
また、複数のキノコをまとめて揃えられることや、石づきをカットし可食部だけをほぐしているので無駄が出ないことも特徴です。

業務用では一日20〜30kg使うこともあり、この利便性は大きな価値です。
加えて、急速冷凍技術により収穫直後の鮮度を保ったまま1年間保存できる冷凍キノコも提供しています。
安全面でも認証を取得し担保しています。

――冷凍キノコは珍しいですね。その技術も自社開発ですか。

廣松氏――キノコは水分が多く冷凍が難しい食材で、既存の冷凍用機械ではうまくいかず、メーカーと共同で改良し、調理後の食感も生のキノコと遜色ない技術を作り上げました
この急速冷凍技術によって食感を保つことができるので、試食会などでも皆さん驚かれます。
業務用キノコも、10年以上かけて生鮮キノコからから冷凍キノコへと移行が進んでいます。

――キノコの研究もさらに進んでいるのですか。

廣松氏――大木町には生産者出資の種菌研究所があり、新しい品種を常に開発しています。
5年に1回くらいのペースで更新したものが市場に出回りますが、以前は苦味の強かったしめじも今は食べやすく美味しいものに変わっているということを消費者はあまりご存じないと思います。

――これまでで一番大変だったご経験はどのようなことですか。

廣松氏――栽培技術の習得で、研究所で修行しながら事業と並行して取り組んだことですね。
通常3ヶ月かかる栽培期間を大幅に短縮し、回転率を上げることで年間生産量を増加することにも成功したので、その分達成感も大きかったです。

冷凍のカットキノコ

三方よしの経営と循環型ビジネスへの次なる一手

――キノコの事業をやっていて良かったと感じる瞬間はどんな時ですか。

廣松氏――お客様に価値を認めてもらえた時です。
差別化が難しい中で選ばれることは大きな喜びで、スーパーなどで売られるものより高額だと分かっていても品質と利便性を評価して買っていただけるため、期待を裏切らないよう細部まで気を配っています。

私の経営理念は「三方よし」です。
お客様、弊社に関わってくださる方々、従業員、そして地域、すべての人にとって良い状態を目指しています。

――今後の事業展開についてお聞かせください。

廣松氏――これまで、27年以上、業務用キノコとして一定の成果を出してきましたが、今後は新しい展開が必要です。
そこで、秋田県にある企業と連携し、キノコの廃菌床をカブトムシの餌にする事業にも取り組んでいます。

さらに、その幼虫を乾燥させて養殖魚の飼料にする構想もあります。
養殖用の餌不足という課題への解決策として、環境面でも注目されている事業です。

この取り組みを通じて、「キノコ×カブトムシ×環境」といった循環型の地域ブランドを作りたいと考えています。
大木町の知名度を上げ、将来的には一般消費者にも選ばれるブランドにしていきたいです。

――キノコの研究開発に裏付けされた、より美味しく便利に使えるキノコは、魅力的です。社会課題の解決も含めた今後の廣松さんの取り組みに注目しています。ありがとうございました。

廣松謙伸
株式会社ドリームマッシュ 代表取締役

投稿者プロフィール
ドリームマッシュを設立後、27年にわたり、キノコ栽培と加工の経験に基づいた高品質で利便性の高いキノコを届ける。
北海道から沖縄まで、約20,000箇所以上の学校、病院、レストラン、大手企業で業務用食材として採用され、品質の高さと利便性で定評を得ている。
「福岡県農林業総合試験場 資源活用研究センター」との協業で、幻のキノコ「博多すぎ茸」の人工栽培に成功。現在は全国で唯一栽培を行い、香港のラグジュアリーホテルなどで継続的に使用され、評価は高い。
また、原料となるキノコの生態や加工特性を研究し、冷凍ダメージの少ない方法での急速凍結処理にも成功しており、冷凍キノコは保存期間も1年間と長く、販路拡大に貢献する。

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