本質的な社会課題を解決する企業に注目!~スタートアップラボ
- 2024/5/10
- 事業投資
目次
訪問看護×IT「ハノン・ケアシステム株式会社」
ハノン・ケアシステムの河田と申します。
どうぞよろしくお願いします。
私は、元々IBM出身で、2020年に訪問看護の会社ハノン・ケアシステムを設立し、訪問看護ステーション「ホウカンTOKYO」を展開しています。
なぜ訪問看護なのかをよく聞かれますが、20年ほど前に病院で亡くなった父が、家に帰りたいと言っていたのにその願いを叶えてあげられなかった、その後悔が心に残っていて、その後在宅医療や地域包括ケアのことを調べたときの愕然とした思いが根底にあります。
何よりもIT化が極めて遅れていることが驚きでした。
現在、実家で1人暮らしをしている母にも同じことを繰り返すことになるのではと考えると、とても怖くなりました。
在宅医療では未だに電話やファックスが主な通信手段。
現実社会の進度とのこの乖離をなんとかしたい!という思いで起業しました。
日本人はなぜ病院で死ぬのか
結局どこで最後の時間を過ごしたいかと聞くと、多くの人はやはり家で過ごしたいと言うんですね。
でも実際は、病院で亡くなっている人の割合が圧倒的に多くて、諸外国に比べ日本には自宅で亡くなっている人はあまりいない。
それは、70年代に保険制度が変わって老人医療費が無料になってから、みんなが病院信奉となったのが原因です。
これが、社会保障費の歪みとなっているので、 元に戻していかなければいけないと考えています。
訪問看護の現状
訪問看護とは、基本的には看護師がご自宅を訪問してケアを提供するという、シンプルな事業です。
病院に行くときと同様に公的な保険が使えます。
今、要介護認定者は全国に700万人いて、訪問看護師は全国で5万人と言われていますので、数字だけ見ても看護師が足りていない状況です。
都内に今1,400か所ぐらい訪問看護ステーションがあるんですが、毎年100か所ぐらいできて70か所ぐらいなくなります。
医療専門職が従事しているのに経営が立ちいかないのには、経営ノウハウを持たずに開業するなどの構造的な問題があるのではないかと思っています。
しかも、利益を出している企業と赤字の企業との差幅がものすごく大きいのも業界の大きな課題 でしょう。
解決策はITによる効率化
訪問看護事業の業務には、営業や人事、経理などが当然ありますが、看護師にしかできない仕事に看護師を集中させなければ効率は上がらないですよね。
そこで、電子カルテの仕組みを独自に開発して看護の仕事と事務の仕事を完全に分ける仕組みを作りました。
また、事務センターをバーチャルで運営しています。
事務員さんがステーションにいないことに医療職の方は慣れておらずストレスになるようでしたが、徐々に慣れて今ではそれが当たり前になって、むしろ業務標準化には非常に役に立っています。
この事業で私が目をつけるのはこのITによる効率化にあり、まずは当たり前のレベルまで引き上げるのを目標にしています。
訪問看護に資する配信サービスのシステム、訪問看護のエコシステムがよりうまく回るような仕組みを作っていきたいと考えていますが、在宅医療全体で見た時のマーケットは結構大きなものになるので、看護師の教育、人材サービス、在宅医療のDX(業務効率化)など、現場で困っていることを解決できるものを提供していきたいと思っています。
今、直営のステーションを3店舗展開し、フランチャイズ型の外部のステーションに弊社の電子カルテの仕組みと事務系のシステムを使ってもらっています。
これが事業の特徴の1つですが、今、全社では、直営店にはまだ赤字のところもあるものの、店舗単体で黒字のところがようやく出てくるようになりました。
1つのユニットエコノミクスとしてようやく成り立ってきたと実感できており、今後は、直営店を増やすのはもちろん、フランチャイズとして外のステーションにもより良いサービスを提供して事業を拡大していきたいと考えています。
看護師の意識変革も必要
訪問看護における本質的な課題は、IT化の遅れ以上に、看護師のマネージメントにあると考えています。
医療の世界にいる人たちの価値観は、一般的なビジネスのそれとは全く異なり、 利益を上げる話をすると、利益のために仕事をしているのではないというスタンスが伝わってきます。
他者に対する貢献の思い、人の役に立ちたいという思いがすごく強いので、やりすぎてしまって、結局、疲弊して辞めてしまう。
だから、看護師の資格を持っているのに全然活用していない方もいっぱいいるはずです。
非常にもったいないですよね。
持続可能性を高める仕組みづくり
持続可能な仕組みのなかで適切に働いていくためにはどうしたらいいのか・・・というところを今深く追究しています。
学びが限られてしまう在宅医療の世界で、学ぶ意欲が強い看護師さんたちにどんな仕組みで学んでもらうのがよいのか。
そこで、3分とか5分とかのショート動画で学べるアプリを作ってスマホで学んでもらう試みに今挑戦しています。
また、彼らが疲弊する1番の原因は、数字に慣れていないこと。
訪問看護の売り上げは訪問件数×訪問単価ですので、件数は利用者の数×1人あたりの訪問回数、 利用者の数は既存の数に新規を足して終了を引くという構造になっていて、訪問単価は診療報酬で決まっているので変えられません。
ここで問題になるのが、1人あたりの訪問回数です。
売上を上げるために訪問回数を増やそうとなりがちですが、その結果起こるかのは、 必要がない看護が何度も入ること。
さらに、利用者を減らさないために終了させないようなインセンティブが働くところが現実には多く、不要な訪問回数を増やすことと同じようにやってはいけないと思っています。
すると、頑張れるところというのが、新規の利用者を増やすことしかないんです。
ですから、うちのノルマは売上や訪問件数ではなく、新規の利用者さんを増やすことです。
ただし、無理に売り込むのではなく、利用者さんとうまくマッチングしてもらえれば、それはお互いのためになり、ケアマネさんも喜んでくれる。
だから、私たちが地域連携活動と呼んでいる、顔を覚えてもらう働きかけを月1回必ずやっていこうと話しています。
その際の稼働率をリアルタイムにデータできっちりと管理して、 過度に業務が集中しないように運営しています。
このような課題を解決していくための仕組みづくりと、ITサービスの分野では、 訪問看護に関する電子カルテを徹底的に極めようとしています。
本質的な社会課題の解決をリードできる会社になる
現在、アイセイ薬局との資本業務提携により、シナジーが期待できる領域が増えているところです。
在宅医療全体を見据えて、いろんなプレイヤーがいるなか、彼らが共通で困っているところに目を向け、例えば、義務化となったBCP(事業継続計画)※のソリューションなどを今考えています。
利用者の安否確認なども今は電話ですが、双方負担が大きいので、アプリ不要のショートメッセージを使って、そこに1回利用者に回答してもらえれば関係先全部で共有できるという仕組みを作り、今月中にリリースしようとしています。
家で過ごしてよかった、看護師がいてくれたから安心して過ごせたと言ってもらえることが私たちのモチベーションに繋がります。
誰もが住み慣れた場所でいつまでも自分らしく生きることを生活の基礎の部分から支えられる会社になりますので、ぜひご支援いただければと思います。
どうもありがとうございました。
※ BCPとは、災害などの緊急事態が発生した際に、企業や団体が損害を最小限に抑え、事業の継続や早期復旧を図るための計画のこと。