経営者の突然の逝去にも慌てない備えを
- 2021/3/22
- インタビュー
経営者が突然倒れたときに会社をどうするのか?この問題がふと頭をよぎった経験のある方は少なくないでしょう。中小企業の社長の平均年齢は2021年度で60.1歳※。高齢化が深刻化するなか、非常時に対応するために平常時からしっかりした備えを!と提唱する(一社)緊急事業承継監査協会・代表理事 伊勢田篤史さん。経営者の突然死が招く相続・事業承継問題を回避するためにはどうすればよいのか、お話を伺いました。
※帝国データバンク「全国社長年齢分析2021」参照
目次
経営者の突然死で訪れる緊急事業承継
Z-EN――協会の名前にもなっている「緊急事業承継」という言葉自体、あまり聞きなれない言葉のように思いますが、「緊急事業承継」とは何でしょうか?
伊勢田 篤史 氏(以下、伊勢田氏)――「緊急事業承継」とは、経営者の突然死により、「緊急」かつ「事業承継」をしなければならない状況を示す造語です。
日本の中小企業においては、経営者の高齢化が進む一方で事業承継対策を講じることができておらず、「緊急事業承継」が今後大きな社会問題になると考えています。
――確かに、事業承継に関する対策を何もしていないなかで、経営者が倒れてしまったら…と考えると、ぞっとしますね。
伊勢田氏――中小企業の経営者が、何らの対策もとらずに突然死してしまった場合、亡くなった当日の対応から、資金繰り、後継者選び、社葬、相続等まで、さまざまな問題が生じます。
特に、ワンマン経営者の場合、他に誰も会社の経営に関与できていないケースも多く、現場はパニックに陥ります。
資金繰り1つとっても、経営者以外の役員等が誰もその詳細や実態を把握していなければ、あれよあれよという間に資金ショートしてしまうリスクも十分に考えられます。
まぁ、中小企業においては、経営者すら資金繰りを把握していないケースも多いですが。
事業承継の緊急性を回避するには?
経営者の現状認識不足
――伊勢田さんは、そんな「緊急事業承継」という問題について、どのようにアプローチされているのでしょうか。
伊勢田氏――まずは、経営者の皆さんが、「明日死ぬかもしれない」という現実と向き合うことが重要だと思います。
ただ、多くの経営者の皆さんは、「俺は(私は)絶対に死なない」と口をそろえておっしゃいますので・・・。
入口の段階で躓いてしまうことも多いのが実情ですね。
――「俺は絶対に死なない」・・・誰も、死にたくはないですからね。
伊勢田氏――緊急事業承継の問題は、一般的な事業承継対策とは切り離して考えるべきと考えています。
事業承継について、経営者の方が、以下のようなお話をされているのをよく耳にします。
「5年以内に後継者を決めて、その後継者を5年後に代表取締役にする。その後、5年くらいかけて徐々に経営権を移行していき、自分は引退する予定だ」
これが50歳くらいの経営者の方であればよいのですが、70歳近い経営者の方からお聞きしたこともあり、びっくりしたことがあります。
事業承継というと、どうしても長期プランで考えるケースが多いかと思いますが、上記のような長期プランが終了するまで、現経営者が生きている保証はどこにもありません。
そのため、緊急事業承継についての対策は、一般的な事業承継対策とは別個のものとして真っ先に考えておく必要があります。
経営者抜きで会社が回る仕組みを作ること
――緊急事業承継の対策・・・具体的には、何をすればよいのでしょうか。
伊勢田氏――端的にいえば、経営者が突然死しても、会社が回る仕組みを作ることです。
後継者選びを含め、会社を存続させる仕組みを短期的に作ることができないのであれば、M&Aを利用して、大企業等の傘下に入ることも検討する必要があるでしょう。
経営者が亡くなってからのM&Aは、残された遺族が本当に大変な想いをすることになりますからね。
▶経営者の突然死によって訪れる緊急事業承継には、組織を挙げての仕組みづくりが欠かせないことがよく理解できました。次のページでは、緊急事業承継に有効な訓練と伊勢田さんの著書『緊急事業承継ガイドブック 社長が突然死んだら?』をご紹介いただきます!