中小企業M&Aにおけるシナジー効果の鍵は、「問題解決」と「強み活用」の統合
- 2020/9/20
- M&A
中小企業間でも広がるM&A。失敗を避けるために何が必要なのか、中小零細企業が抱える経営改善や業務見直し問題を様々な角度から解決し、多くの企業を再生に導いていらっしゃる、事業再生コンサルタントとしてご活躍の寺嶋直史先生にお話しをうかがいました。
目次
法務DD・財務DDは専門家が実施するが、ビジネスDDは未実施か素人実施の実態
近年M&Aで「ビジネスデューデリジェンス(以下、ビジネスDD)」が重要視されてきています。中小企業のM&Aは増え続けていますが、実際には多くの買い手企業の社長が「失敗した」と感じている実態があります。それは、ビジネスDDを実施しない、あるいはビジネスDDの品質が不十分であったことが大きな要因となっています。
M&Aで行うデューデリジェンス(以下、DD)は、主に法務DD、財務DD、ビジネスDDの3つの種類があります。
法務DDは、法的権利の有効性の評価や、係争事件の有無、偶発債務等の潜在的な法務リスクの有無のチェックを行うことで、弁護士が実施します。
財務DDは、売掛金や在庫、土地・建物等の資産を再評価し、簿価ベースの決算書を実態ベースに作り直して、潜在的な財務リスクの有無のチェックを行うことで、会計士・税理士が担当します。
このように法務DDや財務DDは、その道の「専門家」が実施しています。
一方でビジネスDDというのは事業の中身をチェックするもので、具体的には、経営や組織、営業・販売や製造など、事業の各機能で問題がないか、そして強みがどこにあるかを確認して、事業面のリスクや成長の可能性を探ります。
ただしビジネスDDは、他のDDのように経営の専門家が実施している訳ではなく、買い手企業の一般社員という「素人」が行うのが一般的です。実施されるビジネスDDのクオリティは低く、個々の問題を抽出できておらず、買収後のPMIで事業の中身のリスクを回避できていないため、買収側にとって機能しているとは言えません。
そのため、ビジネスDDを実施しないケースも多々あります。つまり買い手企業は、売り手企業の事業の中身(事業内容の現状・問題点・強み)を理解しないまま購入しているのが現状なのです。
買物は「中身」を吟味して決定するのが当たり前
我々は日常生活の中で様々なモノを購入していますが、その際にはその中身を検討した上で、購入するものを決定しています。
例えばプライベートでは、日用品や文具では使い勝手などの機能性、衣服ではデザインや色合い、そして試着をして着心地などを確認します。また、家電やAV機器では、その機能性や操作性、大きさやデザインなどについて検討します。さらに、一生に1度購入するかどうかという住宅などは、自身や家族の生活スタイルや将来設計まで踏まえて検討します。このように、購入額が高額になるほど中身を慎重に検討して決定しますが、日々購入する安価な買物でも中身をしっかり理解して選択しています。
これはビジネスの世界でも同様で、部品や材料、商品の仕入についても、様々な選択肢からそれらの中身を吟味して購入品を決定しています。特にビジネスでは感情面で選択することは稀で、合理的に判断して購入を決定するため、中身をよりシビアに判断します。
プライベートでもビジネスでも、中身を吟味して購入の是非を決定するのは当然のことで、中身(機能)をよく理解せずに購入することは通常あり得ません。
ビジネスDD未実施で企業買収することは、「中身」を理解せずに購入すること
しかしM&Aの世界では、日常生活で当然に行っていることを実施できていません。法務DDや財務DDなど、法的リスクや財務・税務的リスクを回避するための調査を行っていながら、肝心な事業の中身に関するリスク調査については何も実施していないのです。
企業というのは、同じ業種で同種の製品を作っていても、経営や業務の中身はまったく異なります。例えば、経営手法や組織体制、戦略や戦術、管理体制や業務フロー、各作業方法、そして社員のスキルや商品自体の特徴も、各企業によってそれぞれ違っています。特に中小企業の場合は、大企業と異なり、体制やしくみが曖昧で、個々の業務や作業が属人的になる傾向があります。そのため、同種の製品でも事業の中身は異なり、様々な問題を抱えるケースが多く、さらにそれらの問題が顕在化しておらず、社長や社員でさえも自社の問題点が何なのかを理解していない事が多いのです。
したがって、ビジネスDDで、専門家が各機能や各業務についてしっかりと問題点を抽出しておかなければ、買収後のPMIがうまく実施できません。また、売り手企業を、統合せず引き続き単独で事業を運営する場合でも、新社長は業務の中身を詳細に理解できておらず、社員との信頼関係が構築できていないため、うまくコントロールができないのです。
このように、売り手企業の買収後に、PMIで統合する場合でも、統合せずに単独で運営する場合でも、いずれにせよ効率的に運営して効果を上げるためには、売り手企業の個別の問題点を、買収後に改善しなければならないのです。
買収後のシナジー効果の鍵は、双方の「問題」を解決し、「強み」を活用できるよう統合すること
また、ビジネスDDでは、売り手企業の問題点だけでなく、強みを抽出する必要があります。そしてその強みを把握することが、売り手企業の買収後の成長戦略、およびシナジー効果発揮の重要な要素になります。
シナジー効果を上げる方法は、売手企業と買い手企業の、それぞれの問題点と強みを把握した上で融合することです。具体的には、売り手企業の問題点を買い手企業が補って改善し、売り手企業の強みを買い手企業にも活用する、そしてその逆も行って統合するのです。こうして互いの問題点を改善し、お互いの強みをそれぞれが活用することで、シナジー効果が得られるのです。そのため、単にマニュアル通りにPMIを行ってもシナジー効果は期待できません。
しかし、売り手企業の社長や社員は、問題点と同様に、自社の強みを理解していません。そのため、買収しても売り手企業の事業の潜在的な問題は解決せず、潜在的な強みを活かすこともできないのです。そのため、企業を買収して、決められた方法で時間をかけてPMIを行っても、シナジー効果を発揮することが難しいのです。