知的財産をサポート!事業投資、M&Aを成功に導く弁理士の活用法【後編】

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知的財産とは何か、その専門家である弁理士が担う役割とはどのようなものか。前編では、くじら綜合知財事務所所長で弁理士の緒方昭典氏が、知的財産の専門家としての視点からわかりやすく解説してくださいました。
後編は、M&Aや事業投資の場面で知的財産が持つ価値と弁理士の活用の仕方について解説してくださいます。

知的財産がM&Aや事業投資に与える影響

皆さんは、企業が他の会社を買収したり、急成長するスタートアップに出資したりする際に、「知的財産」が重要な判断材料になっていることをご存知でしょうか?
特許や商標、営業秘密やノウハウといった知的財産は、将来の収益創出能力、競争優位の持続性、市場参入障壁の構築など、多面的な価値を持つ資産として評価されるようになっています。

そのため、M&A(企業の合併・買収)や事業投資の場面では、これらの知的財産をどのように適切に把握して、それらを評価し、戦略的に活用できるかが、取引の成功を左右する重要な要因となります。
投資家や経営者にとって、知的財産をビジネス戦略に組み込むことは、もはや避けて通れない課題となっているのです。

弁理士の役割の進化と変化

こうした背景の中で、弁理士の役割も大きく変化しつつあります。
発明、デザイン、商標などの知的財産は、特許庁に出願して認められれば、他人の模倣を排除する権利を取得することができるのですが、従来は、この出願手続きが弁理士の主要な業務でした。

しかし現在は、出願手続きの代行者としての支援だけではなく、見え辛く分かり難い知的財産を、判断材料にできるように「見える化」するという役割を担う場面が急速に増えています。
「見える化」した知的財産の情報は、経営戦略を構築する場面だけでなく、後述するように、M&Aや事業投資の場面においても活用されています。

弁理士が活躍する3つのポイント

M&Aや事業投資の場面で弁理士が活躍できる領域は多岐にわたりますが、特に次の3つの観点での貢献が極めて重要です。

知財デューデリジェンスの専門家

M&Aなどで企業を買収する場合、対象企業がどのような知的財産を保有しているか、その権利の有効性、活用可能性、潜在的リスクなどを徹底的に調査する必要があります。
この調査プロセスを「知財デューデリジェンス」と呼びます。

知財デューデリジェンスは、単に権利の存在を確認するだけでは不十分です。
例えば、以下のような問題があれば、それは買収後の事業運営における重大なリスク要因となり得ます。

  • 権利は確かに存在するが、実際のビジネスで有効に活用されていない
  • 特許の請求範囲の記載から、競合他社が容易に回避可能な内容になっている
  • 商標権はあるが、登録された商標について使用実態がなく、このままでは権利が消滅する可能性がある
  • 重要な技術が従業員にノウハウとして受け継がれているため、人材流出の際のリスクが高い

これらの問題があれば、買収後の訴訟リスク、損害賠償リスク、事業継続リスクに直結するため、買収価格の算定や投資判断に重大な影響を与えます。

なお、上記のリスク要因はあくまでも一例であり、個々の事案に応じて、他社の知的財産権を侵害している可能性、重要な技術が他社からのライセンスに依存している状況、海外展開時の権利保護の不備など、多角的なリスク分析が必要です。

弁理士は、法律と技術の両面から知的財産を専門的に読み解き、これらの複雑なリスクを発見・評価し、投資判断に必要な正確で実用的な情報を提供することができます。

知財戦略と事業戦略をつなぐ橋渡し役

企業が買収や出資を行う主要な目的の1つは、「将来の成長力を確保すること」だと思います。
この目的を達成するためには、買収対象企業が保有する知的財産が、「買収企業の既存事業とどれだけ戦略的に相性が良いか」「将来の事業拡大にどれだけ貢献できるか」などを検討して、将来の成長力に寄与するかを見極める必要があります。

弁理士は、見え辛く分かり難い知的財産を、判断材料にできるように「見える化」するとともに、知的財産を将来の成長力に寄与させるための戦略的なアドバイスをすることができます。

例えば、知的財産の活用方法について、「この特許技術を自社製品に応用できるか」「このブランドはどのように発展させられるか」というように、知的財産を積極的に「活かす」という攻めの視点で多様な選択肢を提案できます。
また、「この知的財産は自社で独占的に活用すべきか、それとも戦略的パートナーにライセンス付与して収益化を図るべきか」「競合他社の動向を踏まえて、どのような防御的・攻撃的戦略を採用すべきか」といった高度な戦略提案も可能です。

契約・権利移転のサポート

M&Aや出資の取引が成立した後には、実際に特許権や商標権などの知的財産権を新しい会社へ移転する法的手続きや、営業秘密の適切な移管、秘密保持契約(NDA)の整備、ライセンス契約の見直しなど、複雑で専門的な手続きが数多く必要になります。
これらの手続きにミスがあると、後々重大な法的問題に発展する可能性があるため、極めて高い正確性と専門知識が求められます。

弁理士は、これらの知的財産に関する移転・管理手続きを法的・技術的に正確に実行し、取引後の円滑な事業統合をサポートする重要な役割を担っています。
また、統合後の知的財産管理体制の構築についても継続的な支援を提供することができます。

▶次のページでは、知的財産を保護しその価値を最大化する弁理士の活用の仕方について解説してくださいます。

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緒方昭典
くじら綜合知財事務所 所長
弁理士・知財経営コンサルタント
ベンチャー知財専門コンサルタント

投稿者プロフィール
静岡県静岡市生まれ
東海大学工学部工業化学科卒業後、東海大学大学院工学研究科工業化学専攻卒業
2013年4月弁理士登録
複数の弁理士事務所に勤務したのち、スタートアップに対して、特許や商標などの権利取得だけでなく知財活用を支援するため、くじら綜合知財事務所を設立。
現在は、広くベンチャー企業の知財活用の支援に注力。
情報経営イノベーション専門職大学客員教授。

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