失敗事例から学ぶスモールМ&Aの投資戦略

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失敗は成功のもと、とよく言いますが、M&Aでの失敗はそう簡単に片づけられるものではありません。今回は、失敗事例をもとにした「スモールM&A」の投資戦略について見ていきます。

まずは自らの投資基準を持つ

ビジネスの世界では、「失敗」を前向きに捉える向きもありますが、М&Aの世界では致命傷となるケースも少なくありません。
ですが、M&Aにおける過去の貴重な失敗事例を知ることにより、ある程度回避することは可能です。失敗事例からは一定の法則が見えてきます。
私も投資する側として、アドバイザーとして、多くの失敗を経験してきました。スモールM&Aの現場で陥りやすい失敗事例をご紹介しますので、参考にして頂ければ幸いです。

スモールM&Aの場合、売買事例の客観的データが少ないため、高値で買ってしまうということは良くあります。売手やアドバイザーが饒舌で、押しが強い場合などは要注意です。競争が多いと煽られ、急がされて、冷静な判断能力を奪われてしまうこともあります。

まずは、自らの投資基準を持つことが大事です。また、業界通や、経験豊富なアドバイザーに相談することにより、高値買いのリスクを避けることができます。急がず、慌てず、冷静に対応することが基本です。

組織の大きさも判断基準

従業員数が多いM&A案件では、人が大量に辞めてしまうことがあります。
「ダンバー数」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。友達や集落の数は150人あたりが限界であるという人類学者の研究結果です。会社経営に置き換えれば、組織体の構成人数には限界があるということです。私が、スモールM&Aを好きな理由はここにあります。

組織体が小さい場合、投資実行後に一気に社内の空気を前向きに変えることや、個々のきめ細かいフォローが可能となります。従業員が数百名、数千人規模だと、そう簡単には行きません。企業は人の集合体であり、人の心は簡単にコントロールできないということを理解することが大切です。

法規制の改正や、技術革新など、対象事業の価値が低下することがあります。異業種参入型のM&Aでよく起こる失敗事例です。ただし、その業界の専門家に聞けば事前に分かったことがほとんどです。
実は、売却理由として「後継者不在」や「選択と集中」など、もっともらしいキーワードが並びますが、「売り逃げ」というスタンスで売却を狙う売手もいることも知っておくべきです。

売手と買手には「情報格差」があるだけに・・・

実際に事業を引き継いだ後に、聞いていた話と違うということが多々あります。稀に、決算書上に記載のなかった借入や未払賃金等の「簿外債務」等が突如出てくるケースもあります。
教科書的な対策としては、経験豊富で優秀なアドバイザーに依頼し、しっかりとデューデリジェンス(資産査定)をする等でしょうが、それでも確実に回避できるとは限りません。

究極的には、商取引と一緒で、トラブルがあった際に責任を持って対応できる取引先なのかを見極めることが大切です。

売手と買手に情報格差があるため、悪意があれば騙す事も可能です。悪意がなくても、何かを守るためや、様々なプレッシャーに負けて情報を曲げてしまうこともあります。これは、M&Aに限らず投資の世界でもよくあることです。
誰が持ってきた話なのか、何故こんな良い話が自分の所に来たのだろうか、何か違和感はないか等、基本に立ち戻り判断することが大切です。

上記以外にも、「取引先が離れた」、「実はシナジーがなかった」、「既存役員が謀反を起こした」、「重大なコンプラ違反があった」、「少数株主と意見が衝突した」、「交渉中に業績が悪化していた」、「事業計画が壮大すぎた」……など、枚挙にいとまがありません。

自らの投資基準と、下調べを念入りに

失敗して欲しくないために、ネガティブな話ばかりしてしまいましたが、小規模のM&Aは、売手・買手・従業員・取引先等の三方良し、四方良しのケースがほとんどです。

幸か不幸か、国内でのM&A件数増加と共に、失敗事例や訴訟データも増えてきました。その先人たちに敬意を表して、失敗事例を参考にしながら、傾向と対策を事前に練ることが成功への最短ルートに違いありません。

 

齋藤 由紀夫
株式会社つながりバンク 代表

投稿者プロフィール
株式会社つながりバンク 代表。
オリックス㈱に16年在籍後、2012年に独立。
スモールМ&Aの普及活動を中心に、事業再生・リノベーション等に注力。自らМ&A・事業投資も行い、数件エグジット済。
経営革新等支援機関(中小企業庁主管、認定支援機関)、事業引継ぎ支援センター 専門登録機関、日本経営士協会 経営士、日本外部承継診断協会 顧問。
趣味は焚火、居酒屋巡礼、トレイルランニング。

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