農業体験×食育×農家支援でESG経営に取り組む(前編)
- 2021/4/12
- インタビュー
情報とモノがあふれた今の時代、商品の差別化が難しくなりました。商品から個性が失われると消費者の多くは価格を基準に選ぶようになり、価格競争が激化します。特に、日本の果物などは価格面で外国産に太刀打ちできないため、農家はさまざまな課題に直面し存続の危機に陥っているのです。
今回お話を伺った、ファミリーツリー株式会社の代表取締役 安藤仁希さんは、そんな日本の果樹園が抱える経営課題が起業したきっかけだと話されています。生産環境と社会を調和させるESG経営を重視し、果物と人をつなぐ独自のサービスを生み出した、ご自身のキャリアに迫ります。
目次
オーストラリアで見た大自然や農業が原体験に
――本日はありがとうございます。まずは、安藤さんのご経歴について教えてください。ファミリーツリーの起業前はSEO会社にいたと伺ったので、なぜ農業に着目したのか、とても気になります。
安藤 仁希氏(以下、安藤氏)――高校卒業後に大手自動車メーカー関連会社(部品工場)に就職し、物流生産管理の仕事を3年半ほどしました。
その後、オーストラリアに7か月ほど滞在する機会があったんです。
そのときに、現地の大自然や農業に魅了されてしまいました。
自分で手間暇かけて育てたものを食べるというのは、かつては当たり前のことだったのかもしれませんが、日本で、特に都心で暮らしている私にとってとても新鮮な体験でした。
都会には自然が少ないですし、作物を育てる機会もありません。
実ったときの達成感や採れたての味わい、農業を通じての地域との交流など、農業でしか体験できないことがたくさんあるとオーストラリアで感じました。
それで、自分でも農業を本格的にやりたくなってしまって。
帰国後に浜松市の果樹園で働くことにしました。
――多くの人は、「ときどきする農業体験」で満足してしまうと思いますが、安藤さんはそうではなかったわけですね。実際に農家さんで働いてみて見えてきた光景というのもあったのでしょうか?
安藤氏――そうですね。
働いてみて直面した果樹園農家の経営課題というのが、後の起業のきっかけになっています。
例えば、年に1回しか収穫のチャンスがない果物を育てている場合、年に1回しかキャッシュポイントがないということです。
- どうすれば安定した収益を上げられるのか?
- どうすれば安定した雇用を生み出せるのか?
- 売上を伸ばすためには農地を広げるべきなのか?
- 生産効率を上げるにはどうすればよいのか?
このように、経営課題は数多くあります。
直売でない限り、農家の方が価格を決められるわけではありませんから、多く出回る時期に出荷すれば単価は下がってしまいますし、台風や大雨など気候の影響を受けやすく収穫率を下げてしまう可能性も高いのです。
自力ではどうしようもない課題もあり、限界を感じてしまう農家さんもいらっしゃいます。
また、スーパーには外国産の安価な果物が並んでおり、安さでは太刀打ちできないほどです。
そんな背景に加えて高齢化も重なり、果樹農家は年々減少。
このままでは「美味しい国産の果物が食べられなくなるのではないか」という危機感を私は持っています。
このままでは国産の果物が絶滅してしまう…
――なるほど。その危機意識がファミリーツリー起業の源泉になったわけですね。
安藤氏――そうですね。
国内の果樹園農家が減っていくということは、果物の国内生産量も減っていくということです。
このまま美味しい国産の果物が食べられなくなって、子どもたちに「昔は日本でも果物を育てていたんだよ」と話すようになる未来は見たくありません。
日本の果樹園農家の方々を守っていかないといけないと強く感じました。
それで、なにか支援できる方法はないかと思い、マーケティングを学ぶためにウェブマーケティングの会社に入ったんです。
どんなに良いものを育てても、広く知ってもらえなければ買ってもらえませんし、買ってもらえなければ農業として存続することができなくなります。
ですから、やはりマーケティングの力は重要です。
そこで学んだノウハウを活かして農家さんに貢献したいと思い、ファミリーツリーを2020年に設立しました。
▶海外の農業を目の当たりにして日本の農業、特に果樹園を救おうと起業を決意した安藤さん。次のページでは、その手始めとしての果樹のオーナー制度づくりについてお届けします!