昔あこがれていた税理士を一度辞めてみようと思いました。

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社長の高齢化やコロナ禍のなか増える事業者の廃業は、事業者をサポートする会計士・税理士などの士業の事業継続にも影響を及ぼしています。顧問先の減少や、事業環境の激しい変化で複雑化する法改正などにより、現在閉塞感を感じている税理士、会計士に事務所を譲渡する選択肢があることをお話されるのは、プロビタス税理士法人代表の片山康史さん。ご自身も会計事務所を事業譲渡した経験を持つ片山さんに、譲渡を思い立った経緯から譲渡成約までのご経験や想いをお話いただきました。

ふと、税理士引退が頭をよぎるとき

税理士試験の5科目合格を揃えるのは非常に大変でした。苦労して得た税理士資格なので、引退するなんて税理士になったときには考えもしなかったことです。しかし税理士を継続していくのは簡単ではありません。

いつまで税理士を続けられるだろうか…
税理士業に魅力を感じられなくなってしまった…

そんなことが、ふと頭をよぎったことがある方は少なくないでしょう。

  • 年々税法の難易度が上がり、最新の情報を理解するのが難しくなってきた。
  • 社長の高齢化に伴い、事業をたたむ顧客がちらほら出てくるようになった。
  • 様々な理由により少しずつ顧問先数が減ってきて、事務所の売上も減少してきた。
  • 顧問先には事業承継や相続の提案をしているけれど、自分の事務所は今度どうしたらいいのかと不安に思うようになってきた。
  • 自身の健康上に問題があり、このまま税理士業を継続していくことは難しいかもしれない…。
  • 仕事は受注できているが、人の採用ができず、事業拡大をしていくことが困難だ。

日々の税理士業務のなかで、このような悩みを抱えている方に、もしかしたら参考になるかもしれないと思い、私の経験をご紹介することにします。

とある税理士のケース

なぜ私は会計事務所をお譲りしたのか?

確かに税理士は長く続けることができる仕事です。しかし、先に挙げたような思いが私の頭によぎったのは、独立して税理士法人を立ち上げ必死に走っていた5年目の頃でした。

疑問を抱えつつ中途半端に業務を続けることは、お客様に迷惑をかけるかもしれない。そうかといって、事務所を辞めてしまえば従業員の雇用が守られないと、ジレンマを抱えていました。その時に知ったのが、事務所の事業を他の方にお譲りするという選択肢。
結果として、私は自身の会計事務所を他の会計事務所にお譲りしました。

リスクをとって独立を決意

私が自分の会計事務所を持ったのが2013年2月、当時勤務していた会計事務所を退職した直後に独立しました。

2011年に東日本大震災があって、当時勤務していた会計事務所も大きな影響を受けました。その時は外国人の確定申告を多く担当していましたが、その外国人の多くが帰国してしまい、仕事が激減してしまったのです。退職せざるを得ない状況にどうしようかと思っていたところ、一緒にやらないかと声をかけてくれた方がいて、独立を決意。前職の経験を活かし国際税務専門の税理士法人を立ち上げることにしました。独立後はアベノミクスによる経済回復などもあって、順調に事業を拡大することができました。

しかし、一緒に立ち上げた方との関係が悪くなってしまい、その時点で事業の拡大がストップ。引き続き税理士法人を継続するか、辞めてしまうかについて悩むようになりました。辞めてしまうというのは極端に思われるかもしれません。でも、せっかくリスクをとって独立し雇われ人ではなくなったのに、また人間関係で悩むのをバカバカしく思うようになったのです。

将来について非常に悩んでいた時期でした。

税理士を辞めることに決めた

そのようなタイミングに、お客様のM&Aをお手伝いする機会がありました。そのなかでふと、「自分も事務所を売れるのではないか?」と、思うようになったのです。1年ほど悩んだ結果、「まずは売却先を探してみよう、それで見つからなかったら仕方がない」という結論を出しました。

M&Aのアドバイザーの方にお願いして、買収を希望する多くの税理士先生たちと面談を行いました。そのプロセスのなかで、時には自尊心を大きく傷つけられ泣きながら最寄り駅まで歩いて帰ったり、時には顔面神経痛を患ったり、右手が上がらなくなったり、出るべきではないところから血が出たりということがありました。M&Aの最中は、常に大きなストレスを感じていたのです。

事務所を売却するという選択をしてから、実際に売却するまで10か月ほどの期間がかかりました。強いストレスを感じながらも完遂することができたのは、このM&Aがきっとお客様や今まで支えてくれた従業員のためになる!という信念があったからでしょう。最終的に事業を良い事務所にお譲りすることができ、私の選択は間違っていなかったと確信を持っています。

自分の事務所をお譲りした後

自分の会計事務所を売却した後、しばらくは何もしていませんでした。事業を売却するという行為は多大な労力を使います。契約後はしばらく抜け殻のような状態でしたが、そこでようやく気づいたのです。いままで売却することに全力投球でしたが、その後のことは何も考えていなかったと…。

とは言え、何か仕事をしなければなりません。税理士をやめようと思っていましたが、生活もあります。

そこで、また新たな税理士事務所プロビタス税理士法人を2018年に立ち上げ、引き続き税理士業を続けることにしたのです。今回は、外資系企業向けの国際税務だけではなく、一般企業向けのサービスや、事業譲渡した経験を元にコンサルティング業務などにも事業分野を広げて業務をおこなっています。

自分の会計事務所を譲渡してわかったこと

自分の事務所を売却することができるなんて、最初は考えてもみませんでした。でも思いがけず、私の事務所に魅力を感じ、譲り受けたいと申し出てくれた方がいました。

その理由は、とても意外なものでした。自分の事務所の魅力は自分ではわかりません。他の人の目で見て初めてわかる魅力もあるのです。

お譲りしてはじめて気づいたこともあります。それは、売って終わりではない!ということです。譲渡契約成立後も、買い手となった税理士との関係性は続きます。もし、買い手側にトラブルが生じた時には売り手側も受け止めなければならないのです。売却した後のことまで想定しておくべきだったというのが、今感じていることです。

辞めることを考えている税理士へ

成約後もサポートしてくれるアドバイザー探しが大事

M&Aをするためには、アドバイザーのサポートが必須です。しかし、私自身そのM&Aアドバイザーを正しく選択できたのか、いまだに疑問に思っています。確かに、アドバイザーの方は多くの買い手候補者を紹介してくれました。しかし、残念なことに契約締結後は全く連絡が取れなくなってしまったのです。

M&Aは譲渡契約締結後からスタートと言っても過言ではありません。その大切なスタートのところでアドバイザーからのサポートが全くなかったことが、譲渡後の統合作業をうまく進められなかった理由にもなっていたと思います。M&Aアドバイザーには、譲渡契約成立後も売り手に寄り添いつつ何時も逃げずにサポートすることが求められると考えています。

もし、”税理士をやめようかな“と思われるようであれば、まずは信頼して相談できるM&Aアドバイザーを探すことが一番大事です。

辛いことも多かったですが、今思えば、お譲りしてよかったなと思います。後悔はありません。つたないですが、私の経験をお伝えして悩める税理士、会計士の方に少しでも多く役立ててもらえればと思います。

片山康史
プロビタス税理士法人代表  税理士、中小企業診断士

投稿者プロフィール
1974年生まれ 兵庫県西宮市出身 東京大学文学部卒業
日本マイクロソフト株式会社勤務後、新しい環境に挑戦するべく税理士を目指し32歳のとき未経験者として税理士法人PwCに転職。国際税務の経験を積む。
アルテスタ税理士法人を経て2013年独立、TMF税理士法人を立ち上げる。2018年に事業譲渡後、プロビタス税理士法人代表。
目標は、自分の知識と経験で皆を幸せにすること。海外進出も目指す。

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