小さい会社もいい会社だ~スモール・イズ・ビューティフル~ 

「♪大きいことはいいことだ」。これは、1967年、前回の東京オリンピックが開催された時期に大ヒットなった「森永エールチョコレート」のCMキャッチコピーです。シニア世代であれば、耳にしたことがあるかもしれません。人口が急増し、活気溢れ、モノを作れば売れた時代。時代背景を捉えた秀逸なコピーです。

当時は、企業経営においても、社員数が多い、売上規模が大きい会社が「いいことだ」とされてきました。しかし、現代の社会では、拡大志向の呪縛に捉われた多くの経営者が、現状とのギャップに苦しんでいるのも事実です。その原因は何なのでしょうか。

小さいことはいいことなのか

近頃、E・F・シューマッハーが50年ほど前に著した、「スモール・イズ・ビューティフル」が再び注目を浴びています。メディアアーティストであり情報学者でもある落合陽一氏が、最近メディアで推奨した影響があるようです。

スモール イズ ビューティフル
F・アーンスト・シューマッハー著(講談社学術文庫)

本書の内容を、ざっくりと要約すれば以下のようになります。

  • 「規模の経済」「巨大信仰」「貪欲」「嫉妬」が、様々な問題を引き起こす。
  • 「足るを知る」ことで、バランスを取ることが重要。
  • 地球環境に配慮し、継続を前提とした経済活動が必要。
  • 最小資源で最大幸福を目指す「仏教経済学」を取り入れるべき。

私もこの世界的名著をお勧めします!と言いたいところですが、とにかく読みにくい。20年前に本書を手に取り、第一章あたりで挫折しました。今回、再挑戦し、環境問題、経済、ビジネスにおいて新鮮な気づきがあり、改めて「会社」のあり方について色々と考えさせられました。

今日、Google、Amazonのような巨大IT企業の出現により、会社規模は大きい方がいいような論調は更に強くなっている印象を受けます。

現政権下においても、日本企業の生産性が低い理由のひとつに「中小零細企業が多い」と論じられ、統廃合を後押しするような政策が打ち出されています。

これは正しい方向性なのでしょうか。

本書から、社長も社員もストレスなく過ごせるヒントを得た気がしましたので、経営者視点から考察して共有したいと思います。

「固定費」という魔物

規模の拡大を目指すと、当然ながら「人件費」「家賃」等の固定費が上昇します。最近では、「社会保険料」が払えずに苦しんでいる中小企業が急増しています。特に粗利率が低く、労働集約型の業界では、社会保険料の増加率を吸収するのが難しくなってきています。

いきなり、ビジネスモデルを転換しようと思っても、組織が大きいほど反発も強く、変化に時間を要します。固定費である「人件費」の削減も、倒産危機レベルでなければ違法行為となってしまいます。

しかし、組織が小さければ、危機感を共有し、変化へ対応するための「生存戦略」を迅速に遂行できます。

メンタル面で病む社員

「職場うつ」が社会問題になりつつあります。大企業サラリーマンや公務員等、大きな組織に属している方々で特に増加しているのは何故でしょう。厚労省の「労働者健康状況調査」1)によれば、その理由のトップは「職場の人間関係の問題」です。

組織が大きくなれば、人間関係も希薄になりやすく、コミュニケーション不足によるストレスが増加する傾向にあります。

良い学校を出て、大企業に就職し、できれば定年まで勤める。これは本来、幸せな社員となるロールモデルだったのですが、ストレスフルな「職場」となっていることで、「幸せ」の意味や価値が分かりづらくなっているのだと思われます。

大企業の「スモール・イズ・ビューティフル」成功事例

ミスミという上場企業をご存じでしょうか。社員数1万人を超える業績良好な大企業です。現名誉会長である三枝匡氏が、社長就任時にスローガンに掲げて断行した組織改革がまさに「スモール・イズ・ビューティフル」と言えます。

三枝氏は元々、著名な企業再生コンサルタントです。縦割りの弊害である「大企業病」を防ぐために、組織を数名~10名単位に分類し、各々が自分たちで考えて動く組織に改革しました。独立採算管理を導入し、小ユニットの集合体をつくる考え方です。名経営者として知られる京セラの稲盛氏が提唱する「アメーバ経営」もこれに近い考え方です。

組織は肥大化すると様々な問題が発生しますが、会社組織が人間の集合体である限り、いずれも避けて通れない課題です。大企業においても、その解決策のひとつがスモール化だというのですから、興味深い事例です。

幸せなスモール企業になるためのヒント

日本の企業で、社員100人以上の会社数は1%程度2)です。これが現実です。しかしながら、多くの経営者は「規模の拡大」を目指し、そのギャップに苦しんでいます。

一旦、大きな組織にすることを諦めて、数名単位のスモールカンパニーを「複数」つくる発想をしては如何でしょうか。それぞれの会社に責任者、社長を配置するやり方です。

この手法で、高収益の会社を運営している社長は数多くいます。また、社長も社員もストレスが少なく、人生を楽しんでいる方々が多いようにも見えます。

事業が予想以上に軌道に乗った際は、組織を大きくするのも良いでしょう。もしくは、伸ばすのが上手い方にバトンタッチする、会社ごと譲渡する、という選択肢もあります。

ベンチャーキャピタルや金融機関などの第三者からの要請や、見栄による規模拡大は、結果として不幸の入り口となることが多いため、立ち止まる勇気が必要です。

受け止め方次第で、コロナという危機は、会社経営、人生を見直すよいきっかけとなるに違いありません。

出典
1)平成24年 労働者健康状況調査 厚生労働省
2)平成28年 都道府県別従業者規模別企業数 男女平等参画局

齋藤 由紀夫
株式会社つながりバンク 代表

投稿者プロフィール
株式会社つながりバンク 代表。
オリックス㈱に16年在籍後、2012年に独立。
スモールМ&Aの普及活動を中心に、事業再生・リノベーション等に注力。自らМ&A・事業投資も行い、数件エグジット済。
経営革新等支援機関(中小企業庁主管、認定支援機関)、事業引継ぎ支援センター 専門登録機関、日本経営士協会 経営士、日本外部承継診断協会 顧問。
趣味は焚火、居酒屋巡礼、トレイルランニング。

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