「人」なくして企業の継続もなし!人的資本経営に今、注目が集まる理由

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企業価値を算出する際に、会計・財務の分析がメインとなりますが、近年、組織や人材の評価も重要視されつつあります。「人的資本経営」「ヒューマンキャピタル」という概念が日本でも広がりつつあるのです。上場企業・ベンチャー企業の人事、法務等の担当を経て、組織・人事コンサルティング会社を2004年に立ち上げ、2020年より、株式会社DWAYSディーウェイズの代表取締役をされている三浦才幸社長に、人材不足を補う手法や人的資本経営の取組みについて寄稿頂きました。「ヒト」で悩む経営者の方々、是非ご一読下さいませ。

人的資本との最初の関わり

私が初めて「人的資本経営」に触れたのは、2012年の初め。某上場企業での海外IRの時でした。
当時、私が在籍していた小規模IT系ベンチャー企業の株価は、9.11の影響でかつてないほど低迷し、その対策のため、海外IRに打って出ることにしました。
欧州の某機関投資家を訪問した際、一通りの企業紹介を終えると、「人材マップ」の提示を求められたのですが、人事の経験が長かった私は、日本語版の人材マップを持参していたので、それを提示しました。
人材マップの提示を求めてきた投資家は初めてだったので、理由を聞いたところ、以下のように説明され、妙に納得したのを覚えています。

IT企業は人こそが利益の源泉だから、どんな経歴・力量を持っている技術者がどの程度いるかがわかれば、その企業の限界収益が計算できる。それがHuman Capitalの考え方

考えてみればとても基本的なこと、でも忘れていませんか?

人はコストではなく投資対象

元々日本企業は「人」を大切にしてきました。
「人は城」(国を支える一番の力は人の力であり、信頼できる人の集まりは強固な城に匹敵する)や、「人に賭ける」との言葉に現れている「人」重視の価値観です。
経営者としては、従業員に働いてもらわないと事業が立ちいかないわけですから、当然と言えば当然です。

企業からの支出はすべてコスト、とする考え方を改めると、様々な可能性が生まれてきます。
その従業員にどう働いてもらうのか、能力以上の成果を発揮するのはどんな時か、投資対象となるスキルはどんなスキルなのか等を、経営戦略と連動するように考えることは、経営者の役割そのものです。

将来的な価値への持続可能性

人的資本経営の目的は、持続可能性・サステナビリティの担保です。
企業経営や事業運営は、一瞬で終わるような短期的な収益や打ち上げ花火的な事業を期待されているわけではありません。
これからの経営には、健康経営、安全衛生、エンゲージメント等、持続させるための施策・考え方が不可欠なのです。

図1.は、経産省に報告された「伊藤レポート3.0(「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会」の報告書)」からの抜粋です。
このうち、企業のサステナビリティを支える考え方の1つが「人的資本経営」であると位置付けられています。

図1.
出典:伊藤レポート 3.0(サステナブルな企業価値創造のための長期経営・ 長期投資に資する対話研究会報告書)

中小企業が取組むべきは、質か量かの明確化

人的資本経営は、とかく大企業が中心の考え方と捉えられていますが、中小企業経営者向けのアンケートでは、回答者の約9割が「積極的に取り入れたい」と回答されている例もあります。
多くの中小企業はかつてない人材不足に苦しんでいるようですが、その一方で、どんな人がどのくらい足りないのかが可視化されていないという課題もあります。
単に人の数が足りないだけなのか、仕事ができる人が少ないのか、という質か量かの問題が、肌感覚で語られているのが現状です。

まずはそこを可視化しなければ、経営や事業を持続可能な状態にすることはできません。
質の問題であれば、リスキリングやDXに積極的に取組む必要があります。

内閣官房から発表されている「賃金・人的資本に関するデータ集」(図2.)に、米国、フランス、ドイツ、イタリア、英国、日本各国の人材投資比較があります。
資料には、OFF-JTにかかる費用について、対GDPにおける比率が示されています。

図2.
出典:内閣官房「賃金・人的資本に関するデータ集」(図3、図4も同)

このうち、日本とアメリカの数値(2010-2014年)を比較すると、以下のようになります。

(1US$=140円で計算)

1年間で1人当たり、約39倍もの研修費用の差がみられます。
研修費用だけがすべてではありませんが、人材育成・教育の視点からは、日本企業の人的投資には質の問題と短期収益優先の考え方が垣間見られます。
一方で、下記、図3.と図4.にあるように、多くの日本企業はこの間、内部留保を大きく積み増しています。

図3.

図4.

これらの資料だけで、全ての企業で質を高めるべき、と結論付けるわけではありませんが、個々の企業に必要なのは質なのか量なのかを経営者が見極めなければならないのは確かです。

「どんな経営をするのか?」が必要な人材を決める

人的資本経営は、経営戦略を明確にすることがすべての出発点です。
そして、それが各施策に連動しているかをチェック・分析することが重要です。
経営戦略に連動しない人事施策は、経営そのもののリスクを高めることになりかねません。

どのような(質)人材が、どのくらい(量)必要なのかを明確にしなければ、望む人材が育つことも、応募してくることもないでしょう。
企業の評価・価値基準は、大きな変革期に差し掛かっています。
人的資本経営への変革は、大きなリスクを伴うものではありません。
経営戦略を実現する人材像について、一度構想してみることをお勧めします。

▶次のページでは、持続可能な事業経営のために「人」をどのように大事にすべきなのか、人的資産について考えるきっかけを三浦さんが提言してくださいます!

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三浦才幸
株式会社DWAYS(ディーウェイズ)代表取締役

投稿者プロフィール
明治大学法学部卒。アルプス電気人事部にて社内制度設計・構築、労務・勤労対応、労使間対応等に従事。
同社法務部にて、国内外係争事案(ダンピング、回収、社内不祥事)対応 、営業職向け契約知識研修、契約交渉等を担当。
その後、IT関連上場企業役員として、ガバナンス、コンプライアンス、IR情報開示、人事、総務、事業企画、財務、法務、株主総会等、幅広く担当。
2004年に独立し、組織・人事コンサルティング会社を創業後は、人事・組織開発、健康経営に関するコンサルティングや、ビジネス法務、コンプライアンス研修等を中心に活動している。
2020年より現職

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