【書評】事業のバトンは能力がピークのうちに後継者に

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事業承継問題に直面する際、多くの経営者たちはまだ大丈夫と問題を先送りにしがちです。自分の力を過信し、高齢になっても現役を退くことをよしとしない彼らは、会社や社員だけでなく家族までをも危機に陥れていると、気づいていないのです。危機のなかで人は成長し本物になるのだから、できるだけ早く事業は後継者に承継すべきと、著書『社長の危機突破力』で語る三條慶八氏。140億円の個人保証による負債から完全復活した経営者である三條氏は、1,200人以上の経営者を救ってきたコンサルタントです。コミュニケーションデザインや企業支援コンサルタントのエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏の書評でご紹介します。

社長の危機突破力
著者:三條慶八(かんき出版)

本書の要約

会社を承継する選択肢は、(1)親族内承継、(2)従業員等への承継、(3)M&Aの3つがあります。社長の健康寿命が伸びる中で、事業承継のタイミングが遅れがちですが、これは後々リスクになります。会社の価値が毀損する前に、次の経営者に事業を任せることを早めに決断しましょう。

経営者の高齢化がマイナスになる理由

どんなに元気でも、頭もしっかりしているつもりでも、残念ながら、老いには勝てないもの。体力、気力、知力……は60代近くなると徐々にピークダウンしていきます。 さらに、50代ごろから人は自分を変えることができにくくなり、新しい発想にはついていけないことが増えていきます。

この数年、中小企業の後継者問題が話題になっています。寿命が伸びる中、経営者の高齢化が進んでいますが、事業承継のタイミングを間違えると、会社や取引先だけでなく、大切な家族もトラブルに巻き込むことになります。

AIなどのテクノロジー技術が加速度的に進歩していく現在において、高齢化する経営者が、新たなテクノロジーをキャッチアップして、複雑化するITサービスを利用することが難しくなっています。従来のアナログ型の経営を脱せられないことが、取引先との関係を劣化させることに繋がっています。

能力がピークのうちに後継者にバトンタッチしよう!

現代の経営では、後継者を育てることが、社長のもっとも大切な仕事であると言っても過言ではありません。 自分の生涯をかけて育ててきた大事な会社であるならば、自分の能力がピークにあるうちに、後継者に事業をバトンタッチすべきでしょう。

自分の会社を今後も世のために役立たせたいのなら、50代後半から後継者を育てることを意識すべきだと経営コンサルタントの三條慶八氏は指摘します。事業を承継するためには、数年間のバトンタッチの期間が必要になります。

70歳を超えてなお、社長を続けることは、マイナスこそあれ、プラスはあまりないと著者は言います。

しかし、実際の社長の意識や行動は異なります。アクサ生命の「社長さん白書 2020」によると事業承継を予定している時期は、「70歳~79歳」の回答が最多(39.8%)。次いで、「65歳~69歳」が27.5%、「60歳~64歳」が12.7%です。ここまで事業承継を先延ばしにすると、会社の価値を毀損する恐れがあります。社長と取引先が高齢化する前に、事業承継を考えるようにしましょう。

企業承継の選択肢

会社を承継する選択肢は、(1)親族内承継、(2)従業員等への承継、(3)M&Aの3つがあります。適材と思える後継者がいないような場合には、M&Aも一つの方法です。その際、社員のためになるM&Aであることが必須条件になります。社員たちの幸せを考えることが、M&Aの成功の秘訣であり、強いてはそれが会社の存続と発展に繋がるからです。

親族内承継の場合

親族に経営を継ぐ際にも、なるべく実権を早めに手放すようにしましょう。中小企業の社長、特に創業社長は、息子などの親族に後継を譲ったものの、自分は代表権をもつ会長に留まるケースが少なくありません。人生100年時代、健康寿命も長くなり、第一線から退こうとしない会長が増えているのです。

しかしその結果、会社を承継した親族は、いつまでも会長の補佐役を務めているだけで、年齢を重ねても実力がつきません。後継者に実力をつけさせ、周りに認めてもらうためには、なるべく早く経営を任せるようにしましょう。そして、後継者に失敗体験を積ませることが重要なのです。

失敗は成功のもと

「社長が元気な間にできるだけたくさん、失敗させるほうがいいですよ。いえ、失敗させるべきです」と失敗体験を積ませることをすすめています。こうして、創業し、今日まで会社を大きくしてきた父親を超える実力をつけさせないかぎり、周囲も社員も息子を認めないでしょう。銀行の支援も得られないはずです。

社長交代の大前提は、後継者に早くから失敗体験をたくさん積ませて、経営者として鍛えておくことだと三條氏は言います。

また、後継社長となった親族側も、長年、会社に命をかけてきた前社長への配慮を怠ってはいけません。あえて意識的に経営上の相談を持ち掛けたり、意見を取り入れたりして、前社長への心遣いを行うことで、経営を軌道に乗せられます。頭では、引退すべきだとわかっていても、実際に社長の座を去るのは寂しいものだと理解し、前経営者への配慮を忘れないようにしましょう。

前社長、現社長の仲がうまくいっていれば、社員も安心して働けます。その結果、従業員が存分に力を発揮できる環境が整い、取引先や金融機関との関係もよりよい状態を保てるようになるはずです。

徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「事業承継で社長が意識すべきこと、先送りが禁物である理由。」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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