
ピアノ学習者が参加するコンクールの開催やピアノ指導者の育成に尽力する「ピティナ」をご存知の方は多いと思います。そのピティナ運営とともに音楽教育関連事業を広く行う株式会社東音企画(以下、東音企画)代表の福田成康さん。
前回のインタビュー「ピアノ業界を牽引する老舗企業の2代目は、絶えず変革を試みる」では、先代がピアノ業界を引っ張ってこられた創業時からの軌跡と、承継された福田さんのご経歴などを伺いました。
2回目となる今回は、戦略的な経営手法とITとの関連についてインタビューさせていただいています。
コンクールに焦点を当てた施策で業績を伸長
Z-EN――福田さんが東音企画に入って事務代行を始めてから、会員数もコンクールへの参加者数も右肩上がりに増えていらっしゃいますね。どのような働きかけがあったのでしょうか?
福田成康氏(以下、福田氏)――1990年4月には東音企画が(一社)日本ピアノ指導者協会(以下、ピティナ)の事務代行に着手できるように、1989年の秋からずっとコンピュータの仕様を組んでいました。
その最初の年に1600万円の赤字が出てヒヤッとする経験もしましたが、同時期に素晴らしいスタッフとの貴重な出会いもあり、意欲は高まっていました。
まだ、ピティナのことを把握できていない頃で、まずは現状の売上比率の一番高いところから取り組もうと考えました。
コンクール事業だとわかってからは、これを伸ばすための施策を考えていくことにしたのです。
コンクール要綱を楽器店経由で売ることや、指導者へのダイレクトメール送付などの7つの施策がすべてヒットし、その直後の91年~92年にかけて売り上げがぐっと伸びた形です。
先駆的なIT導入によるデータ蓄積
――コンピュータの導入がとても早い!学生時代からの先見の明ですね。
福田氏――世間的には早いですね。
営業兼システムエンジニアとして基本設計を任せられる非常に優秀な人物に入ってもらい、コンクールの参加申込みや、会員管理システムを作りこんでいきました。
データはそのまま残り、今でも使っています。
――89年からのデータの蓄積があるということですか。素晴らしいビックデータですね!
福田氏――面白いのは、当時のコンクール参加者が今は指導者になっているということです。
どの門下だとどのくらいの比率で指導者になるか、といったことがデータの分析からわかりますから、当初のコンクール開催の目的であった、生徒のコンクールを通じて指導者の指導力を上げることが可能なわけです。
32年間分のデータですから、現在の日本でも顧客情報を扱う分野でトップクラスに入ると思います。

2002年開設の音が出るピアノ曲事典:ピティナHPより
クラシック音楽の祭典
――その後も色々と変革されていますが、ターニングポイントはありましたか?
福田氏――これまでのピティナの軌跡をグラフで見ると、ずっと綺麗に伸びています。
1997年から始まった、ピアノ学習の成果を発表する場であるピティナ・ピアノステップの開発や、ブルグミュラーコンクール、バッハコンクールなどの提携コンクールの企画・開催などがターニングポイントになったと思います。

ピティナHPより
2005年から丸ビルの音楽プロデュースを開始したことも転機となりましたね。
今までのクラシック音楽は、ホールで演奏するのが当たり前。
でも、もっとアウトドアでできないかと思っていました。
2002年に丸ビルができたとき、「ここでいつか必ずコンサートをやるぞ!」と社員に想いを伝えたものです。
自分では覚えていないですが、文化庁の人にも言ったらしく、その縁で丸ビル関係者を紹介されて、2005年の年末に第9(ベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章「歓喜の歌」)のコンサートをやれることになりました。
続けて、クラシックの祭典「ラ・フォル・ジュルネ※」の日本版として丸ビルを会場にコンサートを開催するなど進めて行くことができました。
※1995年に創設され、フランスのナントで年に一度開催されるフランス最大級のクラシック音楽の祭典。日本ではそのまま訳して「熱狂の日」音楽祭とも呼ばれる。(wikipediaより)

出典:東京国際フォーラム
YouTubeを始めとしたデジタルなクラッシック啓蒙
――福田さんの思いが形になっていったわけですか!YouTubeへの取組も早かったですよね。
YouTubeのチャンネル開設は、YouTubeがアメリカで設立された翌年の2006年でした。
早かったと思います。
そして、昨年2020年に登録者数が10万人を超えました。
2018年にコンペ特級ファイナルでグランプリをとった角野隼人さん、今ちょうど開催中のショパンコンクールに挑戦中ですが、YouTuber「かてぃん」としてYouTube上で活躍の場を広げるなど、YouTubeがクラシックにもたらした影響は大きいです。
コロナ禍のなか開催となった2020年度の特級グランプリ決勝においては、YouTubeLiveの最大視聴者数は8,000人を記録し、ピアノコンクールの配信として大きな転機となったと思っています。

画像提供:ピティナ
今各地に広がっているストリートピアノも、リモートカメラを介していつでもYouTubeで演奏を見ることができたら面白いと思います。
過去には、渋谷のライブ開催できるダイニングバーをゴールにして、各エリアのトップストリートピアノが競うというアイデアもありましたが、文化的なイベントもビジネスとして何かしらの価値を生み出すものにならないとデベロッパーなどの企業の食指も伸びない。
そこが難しいところですね。
――対面での演奏が当たり前だったピアノ業界にとっては、今回のコロナは大きな過渡期になりましたね。
福田氏――コンクールも2020年度は一部上位クラスのみ開催して、ほかはクローズし、課題曲チャレンジという動画審査を行いました。
2021年度は、リアルと動画の両方で開催し、動画審査は順位がつかないものの、1,800人の応募がありました。
今後、どうなっていくかは未知ですね。
ピティナ・ピアノコンペティションは4つの時代「四期」を学習する総合コンクールですが、惜しくも本選に進出できず本選の課題曲の発表の場がない方や、「四期」の学習を完遂したい方のための動画コンクール「準本選」を今回、新設しました。
こちらも300人ほどの参加者が集まったので、いいのができたと満足しています。
――それは楽しみです!コロナ禍前から、システムに重きを置き拡充されていたことが功を奏したのですね。eラーニングシステムの利用者も多いのでしょうか?
福田氏――そうですね。
700~800人の利用者とgoogleのYouTubeメンバーシップを入れると4,000人くらいですね。
まあまあ伸びていると思いますが、まだ、手が回ってない感じです。
弊社のシステムは全部自前で作ったものですが、今の規模でシステム数は20を超えていて、維持管理が非常に大変です。
システムエンジニアの採用も積極的に行っていまして、今は、ここで働いて楽しいと思える人にいて欲しいと考えています。
この続きは次回「音楽で人と人を繋ぎ平和の礎に」でご紹介します。
※資料は福田氏より提供されたものです。