いつの時代にも”学び”から得るものは多く、ときに道を切り開く“解”を導き出してくれる手がかりにもなります。が、その一方で、知識や理論一辺倒では実社会で通用しないことも周知の事実であり、経験者の声に耳を傾け他者の気持ちを想像することを経なければ真の”知”を得られないことにも私たちは気づいています。
毎週月曜日に、一般社団法人数理暦学協会の代表理事 山脇史瑞氏ナビゲートで連載中の本コラム。今回は、事業変革や承継を成功させる上でも大いに役立つ先人たちの言葉をお伝えします。
学びて思わざれば則ち 罔し、思いて学ばざれば則ち 殆し
論語 為政 第二
書籍やセミナーで学んだことを、実践的にどう活用するか、
自分だったらどうするか、そこまで考えを巡らさない限り、
学びの真髄は理解できない。
孔子の教えの書「論語」は、儒教入門書として広く普及し、儒教の経典である経書の一つ。なかでも「論語 為政 第二」は、主に政治の要点や君子のあるべき姿、礼について説明しています。
事業承継、M&Aにおいても、財務や法務などの専門知識が豊富な士業にとって、容易く成約できると思える案件があるかもしれないが、机上の理論や自己解釈だけで突っ走ることは、避けなければならない。複雑化して必要以上に時間や経費を要したり、挙句の果てに途中で取りやめたりする場合がある。
どうすればスムーズに事が進むのだろうか。
その極意を、王陽明が次のような言葉で残している。
先生(王陽明)曰く、只心を解せよ、
心明白なれば書物は自然に融會す。
若し心上に失せずして、只書上の文義に通ぜんとすれば、かえって自ずから意見を生ず。
伝習禄 陳九川の記録 王陽明
その書籍を記した人の「こころ」を読め。
それを、自分のこころ(気持ち)に置き換えて、自分のこころが納得できるかどうか、
それを検証することがポイントだ。
「伝習録」は、中国明の時代に王陽明が起こした儒学の教えを弟子がまとめたもので、陽明学の入門書。その一節「陳九川の記録」より抜粋。
現代ビジネスにおける書物は、提案書・条件提示書・契約書、メールやLINEなどの連絡内容も含まれるだろう。
相手の気持ちや環境を自分の立場に置き換えて、自分だったら納得できるか、どう感じるか、当事者の気持ちになって検証すれば、学んだことの真意は自然に理解できるだろう。
事業承継の場面でも、相手の心情・人情を無視し、数字や条件だけに注目して進めようとすることは、その会社に対するそれまでの社員の忠義心や目的意識そのものを否定することになる。そんな彼らから承継後に、忠義心、モチベーションを求めることなど当然の事ながら困難だ。
交渉するパワーを継続させ、相手からの信頼を得るには、目に見えるものだけでなく相手の心をも読み想像する。学んだことを真の知にする道は、ここから見い出せるだろう。
王陽明は中国明時代の学者、思想家で、朱子学の考えを批判する新しい儒学思想としての陽明学を提唱した人物。朱熹が書物を通し物事を窮めることによって理を得ると説くのに対し、理は元来より自分自身に備わっていると、形骸化した朱子学を批判し、時代に適応した実践倫理を説きました。日本でも、幕末の維新運動の際、吉田松陰、高杉晋作、西郷隆盛らが陽明学の影響を受けています。
出典:東洋古典運命学講座「心情を捉えない限り、M&Aは成就せず。」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。