いい塩梅の「労務管理」が会社と社長を守ってくれる

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従業員を雇用すると必要になるのが「労務管理」です。労務管理と聞くと、難しい、面倒、会社にとって不利益になるのでは…などと考える経営者の方もいらっしゃいますが、それは違います。
労務管理は人材を活用し、円滑な組織運営や事業の発展を実現するためのものであり、また、労務上のリスクやトラブルを回避するためでもあります。

前回、経営者の重要課題である「組織づくり」について解説くださった、MASTコンサルティング代表取締役の高島氏、同社執行役員兼中小企業支援を行う加藤氏に今回は、労務管理とその前提となる就業規則について、教えていただきました。

怠ると怖い「労務管理」職場環境の把握は経営改善の第一歩

[図表1](※図はZ-EN編集部作成)

一口に労務管理といっても、労働時間・賃金・安全衛生・教育訓練など、様々な項目がありますが、意識していただきたい重要な観点は「管理をしないと企業が抱えている問題点が顕在化せず、気づかないうちに深刻化するリスクがある」ということです。

例えば、労働時間で考えてみましょう。
労働時間を管理していないと、無用な長時間労働が発生していても気付くことができなかったり、気付けてもそれに対して問題意識を持てなくなる可能性があります。
そうなると、ムダな残業代やその未払いが発生するうえ、法的にペナルティを課されるリスクもあります。

何より長時間労働が発生しているということは、そもそも仕事の内容や進め方などに何らかの問題を抱えている可能性があるということです。生産性の低さだけでなく、自社の製品やサービスの質への悪影響や、大切な従業員の健康面での深刻な問題を示唆しているのかもしれません。

しかし、具体的な状況を把握していないと、問題に気付くことはできません。そして、知らず知らずのうちに状況が悪化し、気付いた時には経営や業務に大きなダメージを受けていたというケースは、よくある話です。

「問題が起きないようにあらかじめ労務管理を徹底する手間・コスト」と「問題が発生してからそれに対応する手間・コスト」を比較すると、その負荷は後者の方が何倍・何十倍も大きくなります。
逆に言うと、労務管理を適切に行えば様々なリスクを回避しつつ、仕事や職場環境の質を高めていくことができるのです。

「就業規則」で社長の想いをカタチにする

労務管理には、その目的や管理項目によって様々な手法がありますが、その基本となるものが「就業規則」です。

企業は事業目的に向かって活動する組織ですが、働く目的は人によって異なります。
各従業員が自分の考えや解釈だけを基準に行動することがないよう、企業は事業目的とその達成に向けたルールを定め、労使双方でそれを共有することが必要です。

そのルールを明確にしたものが就業規則です。

規則というと、様々な規制をするといったイメージがありますが、それは就業規則の役割の一部にすぎません。

会社で働くにあたり、何を遵守してほしいのかということ以外、どんな人材になってほしいのか、そのために会社は何をするのかなど、言い換えれば、就業規則とは、社長の思いをカタチにして従業員に伝えるものでもあります。

[図表2](※図はZ-EN編集部作成)

このことから、就業規則はむしろ「会社を発展させていくための大切なツール」として、前向きなものとしてとらえていただきたいものです。

そのため、経営理念などを盛り込み、なるべく平易な言葉で従業員にしっかりと伝わるものを作成することをおすすめします。

従業員全員に周知する就業規則。作成は慎重に。

就業規則の作成にあたっては、その内容について絶対に明記しなければいけない事項も存在し、労働基準法などの法律の遵守など細かいルールがあります。

また現在は、従業員の働き方や経営の手法も多様化しています。変形労働時間制を導入したり、勤務地限定社員や短時間正社員といった多様な社員を規定したりすることで、労務管理が実施しやすくなり、経営にとっても有力なツールとすることができます。

ただ、インターネットなどで公開されている就業規則の雛形をそのまま使うのは避けて下さい。
なぜなら、それはあくまで雛形であり、内容が自社にそぐわないことが多いからです。

会社はそれぞれ事業目的や業種・業態が異なるのに、定型の雛形をそのまま使用するということはおかしな話ですし、トラブルの原因になりかねません。

このように労務管理や従業規則は複雑で繊細な制度ですので、管理方法や作成については、労務の専門家である社会保険労務士に相談するのもよい選択肢です。

そして、就業規則を作成したら、必ず従業員に周知徹底しましょう。従業員が10名以上になると、就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出る義務も発生します。

法律的にそう決まっているから、と言ってしまえばそれまでですが、大切なのは、会社の発展に向けて従業員と一丸となって事業に取り組んでいくことです。

すばらしい会社を作っていくために、ぜひ前向きな気持ちで労務管理や就業規則の作成に取り組んでいきましょう。

出典:幻冬舎『会社と社長を守るための「適正な労務管理」とは?』

この記事は掲載元の幻冬舎と著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

高島 宏明
MASTコンサルティング株式会社
代表取締役 中小企業診断士

投稿者プロフィール
1974年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、大日本印刷株式会社にて情報システム業務、監査法人トーマツにて上場支援業務に従事した後、独立。
2011年に中小企業診断士を取得。

経営支援に従事する士業がネットワーク化し活躍するためのプラットフォーム構築を目指して2013年MASTコンサルティング株式会社を設立、2015年には中小企業の海外展開支援のため同タイ法人を設立、両社の代表取締役就任。
中小企業のIT、財務だけでなく、事業承継、M&A、海外展開支援等に携わっている。

加藤 久徳
MASTコンサルティング株式会社 執行役員
中小企業診断士・社会保険労務士・2級機械加工技能士

投稿者プロフィール
流通業やメーカーの基幹業務システム構築を得意とするシステム会社で8年間営業職に従事。その後転職し、工作機械の精密部品加工会社の製造現場、外資系生保の個人・法人営業を経て独立開業。
様々な業務経験を活かして、中小企業の計画立案や業務改善、補助金・助成金の活用支援などを行っている。
また、近年は労務管理や社内制度整備にも力を入れており、業績の向上と、様々なリスクを未然に防いで会社を守るという2つの視点から支援を行っている。

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