市民が営み生きる権利を作り出す!公民連携による自立可能なまちづくり

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パブリックマインドの醸成

――公民連携の実情に話を戻しますが、日本で普及させるにはどんな障壁があるのでしょうか。

岡崎氏――例えばアメリカでも公民連携を図っていますけど、アメリカでのパブリックプライベートパートナーは結婚と同じなんだという考えですね。
結婚する前には、相手のことをいろいろ調べたり、デートを重ねたりして、相手の金銭感覚や親戚にどんな人がいるのかを全部調べようとするじゃないですか。
そこまでちゃんと理解し合ったうえでのパートナーシップ、公民連携をすべきなんだけれども、日本の場合はもともとのスタンスが違う。
行政が一方的に民間を締め付けて言うこと聞かせるような、いびつなパートナーシップになっている。

日本でやっているのは、ガバメントプライベートパートナーです。
日本人は公民連携と官民連携という言葉を一緒くたに使っていますが、アメリカ人から言わせると、公民連携とはパブリックマインドを持ったプライベートとガバメントが連携することなんです。

いわゆる パブリックなリングの上でパートナーシップを結ぶというのが本来の公民連携なのですが、ガバメントの言うことを聞く民と連携することが公民連携だと日本では捉えられているんです。
対等な立場で連携を作るためには、最もやっかいな組織の壁をまず壊さなきゃいけないでしょう。

民設民営だった盛岡バスセンターを官民共有不動産として建て替えたプロジェクト

街が変わる

――そうするとやはり街から変わるのが一番早くて確実ということになるんでしょうか。最近若い人がまちづくりに参画するケースも増えていますね。彼ら自身が変革していくこともあるのではないでしょうか。

岡崎氏――十分ありますね。
2024年7月の千葉県印西市市長選挙で初当選した藤代健吾氏(まちづくり会社代表)は、ザキヤマスクールのOBです。
データセンターが乱立する印西市で、3期務めた現職を破り、「世界モデルのまちをつくろう」「将来のビジョンを語るべき今こそ世代交代を」と訴え、当選した39歳。
僕も投票日の3日前に行って応援演説してきました。

やはりこれからは行政経営の設計に公民連携を組入れていくという藤代氏の公約は、多くの市民の支持を得たということでしょうね。
僕自身は、表舞台に出るよりも参謀になった方が向いていると自負しています。
裏で動ける立場の人って必要だし、結構重要だったりするんですよね。

――市政に携わる人たちにも公民連携への認識と理解は必要不可欠ということですね。

岡崎氏――本当にそうだと思います。

納税者たる民間の声を聴くというのは当たり前のことですし、情報量だけについていえば、行政が持っている分野もあるけれども、民間の方が持っている分野も多々ある。
だから、より充実した情報を保持するところが決定権を持つという構図は、行政経営にも存在しています。

財務の課題

――日本の行政でも、会計が非常にわかりにくいですよね。このパブリックインパイアンスみたいな世界があって、皆さん 多少抵抗もあるでしょうし、詳しい人がいないという実態もありますよね。

※「パブリックインパイアンス」は、無作為に選ばれた参加者がパブリックな問題について様々な観点から議論を重ねていくことで合意の形成を目指すことを指す。この手法は、社会的に複雑な問題を解決するために注目されており、熟議民主主義の一環として位置づけられている。

岡崎氏――いわゆる公会計に詳しい人は、民間の会計をほぼ知らないです。
基本的な大きな違いは、借金やローンで借りたものが収入になり、借金が売り上げ、予算になるってことですよね。

バランスシートを最近は作り始めているんですが、それにかかる将来コストを全然見込んでいない。
それはなぜかというと、原価償却という概念がないからです。
行政の財政破綻とか報じられますけど、実際破綻しているかどうかも分からないことがある恐ろしい会計の仕方ですね。

――そういうところから変えていく必要があるということですね。

岡崎氏――日本でM&Aをやろうと思うと、 会社が持っているドキュメントの様式がそれぞれ違うじゃないですか。
アメリカだと、会計基準の様式が全部統一化されていて、M&Aの時も誰が見てもわかるんですね。
要は、財務諸表なども見慣れた様式でしか出てこないので、わかりやすいし明確です。
この財務関連のドキュメントを定型化するということが日本ではハードルが高くて、本当に下手なんですね。

岩手県紫波町にある〈旧長岡小学校〉の跡地を舞台に 『農ある暮らし』がコンセプトのNOLL villageが開村
(株式会社マザー・オガール地方創生アカデミー公式Instagramより)

地方行政に内在する経営の未熟さ

――確かにそうですね。

岡崎氏――行政経営をその時々の管理者が独自のやり方でやってしまっているという、人材の流動の影響が大きいのだと思います。
アメリカの場合は、そもそも議会のシステムは、シティ・マネージャー制です。
どこの地方行政にもシティ・マネージャーがいて、いわゆる日本の市長のように執行権を持っていて、それを議会にかけるという仕組み。
つまり、シティ・マネージャーは数億円に上るトレード金額でいろいろな地方行政をぐるぐる回る行政経営のプロです。

――プロ経営者は、民間でもすごく費用がかかるので、今はまだあまり機能していないですね。

岡崎氏――先ほど述べたとおり、日本の場合は地域でカルチャーが違うし寛容性がないので 、地域経営者のなかには税収を上げようと頑張る人がほぼいない。
これは多分、旧自治省の政策、いわゆる地方交付税という仕組みの問題です。

例えば、 ある市の予算が100だとして、前の市長は50しか稼げなかったものを次の市長が80まで上げたとしても、この上積み部分が交付金の中から消されるだけ。
だから、張れば頑張るほど、国はその分支援しませんという間違った構造になっているんですね。
現場はやっていられないですよね。
全に地方行政が国営企業化して国に権限を握られているというこの実態構造に地方の問題が存在しているんです。

――地方創成、地域活性化に官民連携で取り組むための一番大きな障壁は、やはり国と地方の力関係の不均衡さや、パブリックへの理解が不十分だということにあるのでしょうか。

岡崎氏――地方行政と民とが対等な立場で、頑張れば頑張っただけきちんと評価される仕組みを作り連携していくこと。
これからはこれが重要になっていくのだろうと思います。

実際、若い人たちがいろんなことにチャレンジするようになったのは素晴らしいことで、これがもう1番嬉しいことですね。
若い人たちがチャレンジできる環境をつくることが最も大事だと思いますし、そういう意味では、今、町は変わり始めているのではないかと期待しています。

――ありがとうございました。

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岡崎正信
株式会社オガール 代表取締役
株式会社マザー・オガール地方創生アカデミー 代表取締役
一般社団法人公民連携事業機構 理事

投稿者プロフィール
1972年生まれ。岩手県紫波町出身
日本大学理工学部土木工学科卒
東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻修了
地域振興整備公団(現:都市再生機構)入団後、建設省都市局都市政策課などで地域再生業務に従事。 オガールプロジェクトの中枢である㈱オガール、オガールプラザ㈱、オガール センター㈱代表取締役として、紫波町の公民連携事業を企画推進している。
同プロジェクトは、「2013 年土地活用モデル大賞」において、最高賞の国土交通大臣賞受賞などで評価され、それを機に全国各地の地域づくり指導・講演活動を開始した。
2022年より、株式会社マザー・オガール地方創生アカデミーの代表として岩手県紫波町との公民連携を図り、廃校となった旧長岡小学校の土地や校舎を活用した「ノウルプロジェクト」を始動。
グラウンドを活用した住居棟「ノウルヴィレッジ」や会員制サウナ、レストラン「EGNE」、グローサリーショップを配備したオーベルジュ棟を、2025年春より順次オープンする。
2018年 日本建築学会賞業績賞受賞
2019年 ふるさとづくり大賞総務大臣賞受賞

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