スタートアップ・ベンチャー企業が行き着くのはIPO?M&A?

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新しいビジネスモデルの構築や革新的なプロダクト開発など、短期間で目まぐるしい成長を見せるスタートアップ・ベンチャー企業。しかし、成長を続けながらもその先の目標を据えることには、しばし悩む経営者も少なくないようです。企業の出口戦略としての大きな柱、IPOとM&Aについて、それぞれのメリット・デメリットから企業が何を選ぶべきなのかを考えてみたいと思います。解説は、IT企業経営者としてのご経験をお持ちの弁護士、中野秀俊氏。専門家の視点から、スタートアップ・ベンチャー企業の出口戦略についてお話しくださいます。

IPOとM&Aで出口戦略を考える

スタートアップ・ベンチャー企業にとって、成長を遂げた後も、さらなる成長を目指すことは一つの目標ですが、最終的な出口戦略としては、IPO(新規株式公開)とM&A(事業売却とがあります。

ひと昔前は、IPOを目指すことが当然のような空気もありましたが、資金調達手段が多様化している中、必ずしもIPOだけが選択肢ではなくなりました。

そこで、スタートアップ・ベンチャー企業にとっての”IPOとM&Aのメリット・デメリット”を解説します。

IPOとM&A どちらが自社に適しているか

IPOとM&A のメリット・デメリットは、新規ビジネスの組成の経緯から、ビジネスの特徴、見据える資本政策等によって様々です。IPOとM&Aそれぞれについて、多くのケースでパターン化するメリット・デメリットを以下のように整理してみました。会社よって状況が違うためIPOとM&A、どちらが適しているかは一概には言えませんが、それぞれの効果と問題点を比較して、自社にとってよりよい出口戦略を構築してみましょう。

IPOのメリット・デメリット

金銭面

金銭面のメリットは、次のことが考えられます。

  • 既存株主の市場価値が売却益により付加され、期待可能性が高まる
  • ストックオプション(※1)により、役職員に経済的な利益を広くもたらす

一方、デメリットは、次のことが考えられます。

  • IPO直後の保有株式の全売却は難しい
  • 上場後はインサイダー規制等により売却時期が制限される

つまり、IPOしても、株主は、すぐには全部の株式を換金できるわけではありません。

※1 ストックオプションとは、予め定めた価額で会社の株式を将来取得する権利を従業員や取締役に付与するインセンティブ制度のこと。

ガバナンス体制

グレーゾーンを突くビジネスモデルは、上場審査で苦難する可能性があります。

法令遵守体制(ガバナンス・内部管理体制等)は、IPOに係る引受審査、上場審査に耐えうる組織設計を、3年以上前から意識し、準備を進める必要があります。この管理体制構築に相当数の人的・物的リソースが割かれることになります。(ただ、東京プロマーケットでは、最短1年半ほどでの上場も可能です。)

また、上場した後も、決算発表等の適時開示体制、インサイダー取引防止体制等の内部管理体制を維持・強化するためのコストと労力が継続的に求められます。

ガバナンス体制の強化は、企業にとって重要な要素です。コストと労力がかかったとしても、企業内の不正や情報漏えいのリスクが減り、透明性のある優良な企業として企業価値が向上することは、もちろんメリットでしょう。

組織面

IPOを目指す過程でのメリットとして、組織としての成長(一体感の醸成)が期待できることが挙げられます。

また、役職員に対してストックオプションを交付していた場合に、IPOに伴うキャピタルゲイン(※2)の実現が見込めます。

※2 株式や債券など、保有している資産を売却することによって得られる売買差益のこと

M&Aのメリット・デメリット

金銭面

資本政策との関係では、創業株主は全株式の売却もできるため、手取額としてはIPOより多額となる場合もあります。ただし、相対取引で価格決定するため、売却益は、契約交渉力に左右される可能性があることに注意が必要です。

また、創業者・投資家には経済的な利益をもたらしますが、従業員に対しては経済的利益を与えにくいですし、売却先以外の他社との資本業務提携等は困難になります。

大手企業とのCVC(※3)などの場合には、大企業のブランド力や資金力を活用できます。このような買収企業のリソースを活用できるのも、大きなメリットです。

※3 コーポレート・ベンチャー・キャピタルの略語。事業会社が自社の事業内容と関連性があり本業の収益につながると思われるベンチャー企業に投資する。

ガバナンス体制

法令遵守体制については、IPOに比べ「ビジネス優先(技術・営業)」で進められます。

買収先企業のデューデリでOKが出れば、手続きが進むことになります。(ただし、デューデリジェンスに備えた最低限の管理体制構築は必要です。)

組織面

組織面でいうと、大手企業とのCVCや買収などによって、創業時からのベンチャーマインドのあるコア人材が退職するといった事態はよく起こります。

また、持株比率の低下により、創業株主自らが経営を継続する場合、経営意欲がなくなってしまうこともあります。

経営の着地点を見据えよう

このように、IPOとM&Aを功罪両面から比較してみました。どちらが良い、悪いという話ではありません。ただ、会社の出口として、こういうものがあるんだということを前提にスタートアップ・ベンチャー企業を経営することは有意義ではないかと思います。

中野秀俊
グローウィル国際法律事務所 代表弁護士
グローウィル社会保険労務士事務所 代表社労士
みらいチャレンジ株式会社 代表取締役
SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO

投稿者プロフィール
早稲田大学政治経済学部を卒業。大学時代、システム開発・ウェブサービス事業を起業するも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。

そこから一念発起し、弁護士を目指して司法試験を受験。
司法試験に合格し、自身のIT企業経営者としての経験を活かし、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動。特に、AI・IOT・Fintechなどの最先端法務については、専門的に対応できる日本有数の法律事務所となっている。

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