デューディリジェンスを十分に行わない場合も資本構造の確認は必要

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スタートアップ・ベンチャー企業における投資受入やM&Aで必須となるのが、企業の資産価値を適正に評価する手続き(デューディリジェンス)です。法令違反となるような事案は破談の原因となるため、法務リスクにかかる調査(法務デューディリジェンス)により、潜在的なリスクを洗い出す必要があります。

そこで、IT企業経営者としての経験も持つ弁護士・中野秀俊氏による、スタートアップ・ベンチャー企業投資におけるデューディリジェンスの、資料開示に関する解説を紹介します。

デューディリジェンスの手順を知る

通常のデューディリジェンスは、投資家候補から開示依頼資料リストが交付され、対象会社が資料を準備して、必要な資料を投資家候補に対して開示するという流れになります。

資料開示の方法は、PDF等のファイルをファイル共有サーバーにアップロードするか、または電子メールにより送付する方法が多く用いられています。場合により、該当資料をベンチャー企業で準備し、投資家候補が現地に赴いて資料を確認する方法がとられることもあります。

必要な開示資料を確認する

法務デューディリジェンスの場合、使用される資料開示依頼リストにおいて、 開示が依頼される資料の例は以下となります。

なお、下記のリストにおいては、期間や対象の限定を付していませんが、「過去3年分の株主総会議事録」「過去5年間の労災事故」「売上上位5社との契約書」「年間売上額1000万円以上の取引先との契約書」「過去5年分の訴訟の記録」など、実際の依頼においては期間や対象に限定を設けて資料開示を依頼することが多くあります。

会社組織関係

  1. 定款
  2. 株主総会議事録、招集通知およびその添付書類
  3. 取締役決定書
  4. 組織に関する社内規定、会社組織図

資本関係

  1. 株主名簿、新株予約権原簿
  2. 会社に関する株主間契約
  3. 会社と株主との重要な取引に関する契約および資料
  4. 会社株式の購入、買戻し、質入消却等に関する契約および資料
  5. 新株予約権、ワラント、転換社債等の潜在株式の発行に関する契約

従業員関係

  1. 従業員数(正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト、出向の内訳)
  2. 就業規則(給与規程・賞与規程・退職金規程・職務発明規程等を含む)
  3. 会社と従業員との間のその他の契約
  4. 過去の労働争議、ストライキ等に関する資料
  5. 過去の労災事故の一覧および関連する資料

契約関係

  1. 主な取引先のリストと各社との契約
  2. 主要な業務定期契約、業務委託契約
  3. 金銭の貸借、保証・債務引受け、担保権設定等に関する契約
  4. その他意外取引または潜在的債務に関する契約

紛争・クレーム関係

  1. 過去の裁判、調停、仲裁その他現在係争中の紛争に関する記録
  2. 会社の潜在的紛争・クレームに関する書類
  3. 過去の判決、仲裁裁定、調停調書、和解調書等
  4. 政府機関からの法令違反等の通知または関連する調査の資料

開示された資料への質疑応答の方法は2種類ある

スタートアップ・ベンチャー企業における資料開示がなされた後、投資家候補から開示資料について質問が行われます。

電子書類による方法

エクセルファイルに質問や追加資料依頼の旨を記入して、それに対して、ベンチャー企業が回答または追加資料の送付を行うという方法で行われることが多くあります。

例えば、以下のようなものです。

質問日    :2019/1/1

重要度    :中

資料名    :タイムカード

質問種類   :質問

質問・依頼内容:御社の残業時間の計算方法では、提示より早めに出勤した分は残業時間に含めていないのでしょうか。

回答日    :2019/1/2

回答     :残業時間に含めて残業代を支払っています。

 

口頭によるマネジメント・インタビュー

スタートアップ・ベンチャー企業から開示された資料の検討やQ&Aリストによるやりとりがある程度進んだ後に、マネジメント・インタビューを行うこともあります。マネジメント・インタビューは、デューディリジェンス担当者が投資対象の企業を訪問して対面(または電話)でインタビューするものです。

インタビュー事項は、大抵はインタビュー実施の数営業日前までに送付されます。なお、法務デューディリジェンスにおけるマネジメント・インタビューでは、以下のようなことを目的とした質問を行うことが多いです。

  1. 開示資料の内容に基づく質問のうち重要な点に関する質問
  2. Q&Aリストにおける回答の補足を求める質問
  3. 開示された資料には記載されていない問題点があるか否かの確認

スタートアップ・ベンチャー企業の投資は、投資金額が比較的少額で、十分な費用をかけて調査する必要性が低いことから、デューディリジェンスの全部または一部を実施しないことはよくあります。しかし、投資家の多くは、投資対象の運営態様、財政状態等について、ある程度は知っておきたいのです。そのため、重大な関心事となる、投資対象の最新の株主構成や既存の投資契約・株主間契約・種類株式の内容等の資本構造にかかわる資料は、投資後のベンチャー企業の株主として、最低限確認することになるのです。

出典:マイナビニュース「スタートアップ・ベンチャー企業の投資のデュー・ディリジェンス」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

中野秀俊
グローウィル国際法律事務所 代表弁護士
グローウィル社会保険労務士事務所 代表社労士
みらいチャレンジ株式会社 代表取締役
SAMURAI INNOVATIONPTE.Ltd(シンガポール法人) CEO

投稿者プロフィール
早稲田大学政治経済学部を卒業。大学時代、システム開発・ウェブサービス事業を起業するも、取引先との契約上のトラブルが原因で事業を閉じることに。

そこから一念発起し、弁護士を目指して司法試験を受験。
司法試験に合格し、自身のIT企業経営者としての経験を活かし、IT・インターネット企業の法律問題に特化した弁護士として活動。特に、AI・IOT・Fintechなどの最先端法務については、専門的に対応できる日本有数の法律事務所となっている。

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