「奥能登国際芸術祭」の仕掛けは、開かれた現代アート×過疎地

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Z-ENでも以前、過疎地を舞台にした現代アートによる祭典について熱く語ってくださったアートフロントギャラリーの関口正洋さん。関口さんは、2000年にスタートした新潟県越後妻有地域の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」への関わりを皮切りに、20年以上も地域とアートを繋ぎ経済効果を生む芸術祭のコーディネーターとして手腕を振るっていらっしゃいます。

“地域おこしと人を繋げる芸術祭”に尽力」でもご紹介しましたが、海と山に囲まれた奥能登の未知への好奇心の強さが芸術にどのように現れるのかが注目される「奥能登国際芸術祭2020+」が、2021年11月まで2か月に渡って開催されました。民家の蔵や納屋に眠っていた民具を素材にするなど、歴史と芸術家のひらめきを融合させた「スズ・シアター・ミュージアム」プロジェクトを含むこの祭典は、珠洲市での開催が2回目。過疎の町での芸術祭が地域の人を始めさまざまな方面に効果と影響を与えたことについて、プロジェクトマネージャーを務められた関口さんにお話を伺いました。

現代アートの祭典「奥能登国際芸術祭2020+」

出典:「奥能登国際芸術祭2020+」Instagramより

「奥能登国際芸術祭2020+」は、石川県の北東部、日本海に突き出た能登半島の先端に位置する、人口およそ1万3千人の「珠洲すず市」で開催されました。
市としては本州で最も人口の少ない地域です。

廃校となった小学校の体育館に民具を展示した『スズ・シアター・ミュージアム』が出来上がるまでに、地域の約70戸から民具の提供を受けています。
桐だんす、輪島塗の器、漁具、木だるなど持ち寄られたものは、この地で生きていた人々の身体と記憶が詰まったものばかり。
地域の景観や伝統を生かし、廃校や古民家、海辺といった人々の生活空間にも作品を置くスタイルが特長です。

これら地域の民具などを現代アートの作品としてよみがえらせることで、地域の忘れられかけた誇りが呼び覚まされます。
また、作品がつくられることで、使われなくなった場所が、老若男女、多様な人々が出入りする開かれた場所に生まれ変わります。
そうして、住民と観光客の接点が生まれるのです。
ボランティアでガイドを務める地元の高齢者が、都会から来た若い女性に故郷の歴史をうれしそうに話している姿も見られます。

こういう光景は普段、なかなか見ることができません。
家に招くと主人と客という立場に分かれますが、作品が異質な存在として働くので、主客の関係を相対化し、フラットな関係で交流できるのでしょう。

スズ・シアター・ミュージアム公式サイトより

芸術祭が過疎地を活性化

多くの人々が職場や家庭といった日常の関係性の中で自分にふたをしていると思います。
例えば、ここでこれを話しても仕方ないなどの、諦めに近い感情です。

一方、今の価値観では変なことと思われることを真剣にするのが作家。
彼らは、タブーと思われていたことにもしばしば踏み込むのですが、アートだからと大目に見てもらえる部分もあります。
彼らの作品を見た人々は、こんな表現があるのかとか、ここまで表現していいのだとかに気付くのです。

アートは地元を含む人々をいつしか縛っている「自分たちはこの程度だ」という思い込みを解消し、個々人の抑制に働きかけていくカンフル剤の役割を果たしているのかもしれません。
地域社会において、今まではお祭りなどがその役割を果たしていましたが、子どもや若い人が少なくなりその機会が減少しています。
芸術祭は、地域に根差しつつも、都市の人も関われる新しいお祭りと言えるかもしれません。

奥能登国際芸術祭珠洲公式サイトより

珠洲市はこの70年で人口が3分の1に減っていますが、アートを媒介にすることで、社会から忘れられかけた珠洲の風土が見直されようとしています。
人口減や時代変化によって地域の伝統を捨てるのか、守り続けるのかの二者択一ではなく、第三の道があるのではとも思います。
もともとあった素材に何かを継ぎ足すことで、今までになかった新しい価値や用途を生んだりする。
接ぎ木するような発想で、見方が変わり、新しい可能性が生まれてくる。
アートは固定化した日常の中に「ずれ」を生み出す機会にもなっています。

芸術祭をきっかけに、金沢市内にある金沢美術工芸大を卒業した若い人が珠洲市に移住する動きもあります。

芸術祭運営を支える情熱の源泉

新潟県の十日町市と津南町で2000年に開かれた「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」に携わって以来、芸術祭の裏方をしていますが、各地のアーティスト、地域の人、行政関係者、ボランティア、お客さんなど、多様な人たちと接することで新しい自分を知ることができるのが続けている動機だと思います。

他者との出会い、他者の眼を通して今までと違う視点を得ることで、自分と自分の環境が更新されていきます。
土地の自然と関わっている農家、漁師は、自然の摂理を教えてくれます。
作家は、作品を通して内なる自然と外の自然の関係を教えてくれます。
ボランティアの人たちは、今、何が有意義なのか、そして楽しいのかといった時代の流れを教えてくれます。

鳥の眼、虫の眼、魚の眼のようなさまざまな眼に出会うことで、自分が今まで持っていた固定観念がひっくり返っていく経験が面白いのです。

出典:大地の芸術祭「Tunnel of Light(清津峡渓谷トンネル)」

▶次のページでは、奥能登国際芸術祭に関わる人々を繋げた経緯をお届けします!

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関口正洋
株式会社アートフロントギャラリー

投稿者プロフィール
1974年神奈川県生まれ。
金融会社勤務を経て、1999年にアートフロントギャラリー入社、大地の芸術祭参画。
2003年から越後妻有のマネージャーとして文化施設の企画および運営に携わり、文化・芸術を活かした地域づくり組織NPO法人越後妻有里山協働機構を立ち上げる。
2013年から奥能登国際芸術祭プロジェクトマネージャー。

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