成長戦略はシステマティックに構築しよう

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中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングを手掛ける高森厚太郎さんが、経営戦略や戦略策定について解説くださるシリーズ。
本連載の最終回は、企業の成長マネジメントにおける戦略策定のポイントを高森さんの詳しい解説でお届けします。

中小ベンチャーに止まらず、多くの企業経営陣が事業変革へ踏み出すための新たな一歩を示唆する内容です。

高森氏の資料を元にZ-EN編集部が作成

成長戦略の立案

前回の「経営戦略策定は経営理念の再確認と事業環境の分析から」でご紹介した、あなたのパン屋は、経営戦略(事業戦略)を立て終え無事に船出をしました。
しばらくするとあなたのパン屋は地元で大評判になり、一定の成功を収めます。
さて、あなたは次に何をしますか?

あなたは考えます。
もっと生産量を増やそうか。
それとも2店舗目を出そうか。
それとも隣接する敷地にカフェを併設しようか……etc.

こうした事業拡大、あるいは多角化の方向性を考えることが、企業の典型的な成長戦略になります。

成長戦略のフレームワーク「アンゾフのマトリクス」

では実際、多様な拡大路線があるなかで自社を成長させるべき方向をどのように決めればよいのでしょう。
成長戦略を立てる際に悩むような場面では、「アンゾフのマトリクス」というフレームワークにあてはめてみることが有効です。

高森氏の資料を元にZ-EN編集部が作成

「アンゾフのマトリクス」は、「製品」と「市場」を「既存」と「新規」にそれぞれ分けた2×2のマトリクス。
成長戦略として、以下、4方向の戦略オプションをカテゴライズします。

  • 既存製品に既存市場でさらに勝負する「市場浸透戦略
  • 既存商品を新規市場で拡大しようとする「市場拡大/市場開拓戦略
  • 新規製品を既存市場で仕掛ける「新商品/サービス投入戦略
  • 新規製品を新規市場でトライする「多角化戦略

これらを取りこぼしなくシステマティックに探索することができるフレームワークが「アンゾフのマトリクス」です。

全社戦略がマネジメント機能を果たす

こうした成長戦略により拡大し多角化していく事業群をどうマネジメントしていくか、事業ポートフォリオなどを組みながら具体的に考えていくのが全社戦略になります。

上図は、米国発の戦略コンサルティングファーム、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の考案したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)です。
詳細な説明は割愛しますが、自社の事業を「市場成長率」と「相対的マーケットシェア」で分類してみることで、どの事業に集中すべきか、どの順で展開していくかの全社戦略を考える大きな助けとなります。

収益モデルの確立が急務

ところで、事業戦略が実現できているとはどういう状態のことを言うのでしょうか。
漠然としたイメージとしては、ヒトやカネなどリソースを投入すればするほど儲けが増える状態があげられます。
すなわち「収益モデルが確立できている状態」です。

事業戦略とは、つまるところこの状態を目指すものと言えます。
この「事業戦略が実現できている状態」を作り、維持し続けるには、以下の3つの要件が担保されている必要があります。

UE(ユニットエコノミクス)が成立している

UEとは、ビジネスの最小単位における収益性のことです。
「UEが成立している状態」とは、1単位当たり、たとえば車なら1台あたり、パン屋なら1店舗あたりの収益が黒字になっている状態を意味します。
会計用語で売上高から材料費などの変動費を引いたものを限界利益といいますが、私の感覚的には、限界利益の3分の1で直接人件費を賄えている状態がUEが成立している状態であるように思います。

たとえば売上が400万円上がっている企業で、材料費など売上に応じて変動する費用が100万円かかっているなら、限界利益は300万円。
この企業の直接人件費が100万円以内におさまっていれば、この企業のUEは成立しており、未来に向けて成長し続けられるというイメージです。
これがたとえば限界利益の半分ぐらいの直接人件費がかかっていると、この上に他の固定費(賃料や管理部門の経費等)もかかってきますので、企業全体の黒字は難しいような気がします。

UEを達成する方程式がある

UEは計算式ですから、この計算式の黒字状態を維持するために、まず基準売上高が達成できていなければなりません。
かつ、商品やサービスの変動費を基準値内に収める方法論が確立されていればいいのです。

リソースが調達できる

以上2点をクリアしていれば、その企業は基本的にどんどん収益を上げていける状態にあるわけですが、加えて必要なのが、リソースが調達できる状態にあることです。

成長にあわせて適切なタイミングで資金が調達できるか、人を採用できるかも大切なポイントとなってきます。

市場にニーズが存在している

こうした成長状態が持続する大前提として、以下の2点も必要です。

  • Product Market Fitが成立している
    その商品やサービスが市場に受け入れられている状態が続いていること
  • 市場が天井に達してない
    UEは成立しているがまだ上限ではなく更なる市場のニーズが存在していること

こうした事業戦略の策定過程を、CFOは、CEOや経営陣に寄り添いながら、論理的合理的な策定を促すべくリードないしフォローしていきます。
そして「事業戦略が実現できている状態」を持続させるためにUE達成のための収益モデルを描き、CEOとともに適宜リソース調達を行います。
一方、COO以下は、実際にUE達成のための方程式(売上達成、コスト削減)を達成していく推進者、という役割分担になってくるのではないでしょうか。

本連載は、1回目「経営の全体管理で企業の全体像を掴め」、2回目「経営戦略策定は経営理念の再確認と事業環境の分析から」も公開しています。ぜひ、ご覧ください。
※資料はすべて著者から提供されたものです。

出典:中小ベンチャーの成長マネジメントにおける「戦略策定」(後編)
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

高森 厚太郎
プレセアコンサルティング株式会社
代表取締役パートナーCFO

投稿者プロフィール
東京大学法学部卒業。
筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。
日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。

現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするベンチャーパートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。

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