【書評】失敗に寛容な社会こそがイノベーションを巻き起こす
- 2020/9/14
- 書評
現在、日本のホームレス数は約4,900人*。ホームレスになることが避けられなかった方々も非常に多いのが現状です。ですが、ホームレスの人たちの中には、働く意思がある人は多いようです。
そんな彼らの働き口を探す手助けをしたいと考え、19歳で起業された川口加奈氏。彼女の考えや起業に対する思いについて綴られた本書を、書評ブロガーとしても有名な徳本昌大氏がご紹介します。
*厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について」
14歳で“おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」
著者:川口加奈(ダイヤモンド社)
本書の要約
日本では一度ホームレスになるとなかなか抜け出せない厳しい現実があります。
失敗してもやり直しができる社会を実現するために、著者の川口加奈氏はNPO法人Homedoorを立ち上げ、「おっちゃん」たちの課題を解決しています。
彼女が実践するスモールテストや巻き込み力は、多くの起業家の参考になるはずです。
失敗を許せる社会を目指す理由
一回失敗したら終わり。・・・・それっておかしくない?
本書の著者の川口加奈氏は就労支援を兼ねたシェアサイクル事業で、「ホームレス」と「放置自転車」の2つの社会課題を同時に解決します。
川口氏は中学2年生の冬の初めての「炊きだし」体験が全ての始まりだと述べています。そして、誰が何度でも、やり直せる社会を作りたいと言います。言い換えれば、日本は失敗に冷たい社会で、これがイノベーションの芽を摘んでいるのです。
今日はウーマン・オブ・ザ・イヤー2019、日本を変える「30歳未満の30人」を受賞している注目の起業家にフォーカスしたいと思います。
川口氏は家がない人、ホームレスの人々を親しみを込めて、「おっちゃん」と呼んでいます。
著者は14歳の時に参加した炊き出しの現場で、元ホームレスの「おっちゃん」にホームレスになった理由を質問します。その時の「おっちゃん」の答えは予期せぬもので、ホームレスになった人たちが怠惰ではなく、選択肢のある環境にいなかったからだと気付きます。
これまで出会った方の中には、些細なことがきっかけとなり、ホームレス状態に陥っている人も多かった。
そういう人をゼロにすることは、確かに難しいかもしれない。しかし逆に言えば、世の中にやり直すための選択肢がたくさん存在し、脱出するための「道」として機能していれば、ホームレス問題は解決できるのではないか。
誰であれ、失敗しても再挑戦できる仕組みが社会にあれば、この問題は「問題」じゃなくなるはず。
彼女はここから、「やり直しができる、失敗が許せる社会」を追い求めるようになります。
著者は14歳で問題に遭遇し、19歳で認定NPO法人Homedoorを立ち上げ、悪戦苦闘しながら、社会課題を解決していきます。川口氏は現場や当事者の声を大事にし、ホームレスの課題をいくつもの課題を見出し、そのための術を考えます。
■夜回りの声かけ
■シェルターの運営
■相談の受付
■仕事の提供
■金銭管理のサポート
■就職から家をかり、ホームレスからの脱出
「おっちゃん」たちとのコミュニケーションを通じて、「おっちゃん」たちには働く意志があることを見出し、シェアサイクルサービス「HUBchari」をスタートします。
それは「おっちゃん」の「わし、自転車なおすくらいやったらできるぞ」という一言から生まれました。「おっちゃん」たちの得意を活かすことで、ホームレスと放置自転車の社会課題を同時に解決してしまったのです。
しかし、消費税のアップやコロナショックで日本経済は停滞し、社会的弱者が増加していると言います。虐待やDV被害も増え、女性や若者、外国人労働者も家を失っていると言います。このマイナスの連鎖を早く止めるためにも、「誰が何度でもやり直せる社会」を実現すべきです。
現代のような不確実な世の中では、誰もがホームレスに転落する可能性があるという著者の言葉が響きました。
起業家は失敗を恐れず行動を続けるべき!
ビジョンがあってもいきなり事業がうまくいくわけがありません。それも大学生が一人で立ち上げた社会起業ですから、資金もすぐにショートしそうになります。
そこで、資金調達するためにいくつかのビジコンに参加し、賞をそうなめにしてしまいます。彼女の勝因はビジネスプランを作るだけでなく、実際に事業を行っていたことでした。
川口氏の行動力が資金だけでなく、人脈や念願だったオフィスをも引き寄せたのです。
ただ、「HUBchari」の売り上げはしばらくゼロが続き、最初の拠点がなくなるなどその後も課題が山積みします。自信を失った川口氏を助けたのは、起業家の先輩の次の言葉でした。
途中でやめたら、それは失敗になるかもしれないけれど、続けている限り、それは成功までの途中経過。
今、赤字を1億抱えていたとして、そこで事業をやめたら失敗だけど、そのまま続けて、いつか黒字になって、たくさん儲かったら成功になる。
だから、続けることが一番大切だよ。
(起業家の先輩の一言)
苦労してここまでやってきたにもかかわらず、ここでやめたら全てが水の泡になってしまいます。
「HUBchari」が失敗に終わっても、また違う事業を考えればよいのです。
あくまで最終ゴールはホームレス支援だと気付き、失敗を恐れることをやめ、続ける覚悟を決めたことで、ビジネスが動き出しました。
この後、「HUBchari」の拠点が増え、プレスリリースの効果でメディア取材が増えていったのです。
「女子大生×ホームレス×自転車問題」がメディアに受けたことでテレビや新聞に掲載され、営業の後押しになったのです。
大阪ガスの実験サポートが決まり、ついには日経新聞の記事が援護射撃になり、ビジネスが軌道に乗り始めました。
著者は実験(スモールトライ)の重要性を次のように指摘します。
実証実験のような、まずは小さくても試しにやってみる、スモールトライの必要性は、この10年間で何度も体感した。
たとえ準備不足でも、「実験」というマジックワードがあれば、トラブルがあってもお客さんからそこまで怒られることもない。しかも、「こういうこと始めます」と宣言することで同じことを目論んでいる人に先制できる可能性もあれば、その人と提携できるチャンスもある。さらには、反応が悪ければやめてしまってもいいわけで、自由度が非常に高い。プレスリリースを活用すればメディアにも取り上げてもらえるし、本格的に始動するときは、すでに実験をやりましたという経歴が強みとなる。
内容にはよるけれど工夫を重ねればお金も多くはかからない。何かをやろうとしている人に、スモールトライは非常におすすめだ。
著者はスモールトライを繰り返し、ネットワークを広げ、企業や行政からの協力を取り付けていきます。
スタートアップもこのスモールトライに取り組むべきです。起業家はプランだけでなく、実際に行動し、多くの人を巻き込むことでチャンスを広げられます。
本当に働きたいのに働けない人が数多く存在する日本。
著者は「HUBchari」という事業を通じて、ホームレスだった「おっちゃん」たちに勇気と元気を与えたのです。空白の履歴書を持つホームレスの人たちに就労リハビリというチャンスをギブすることで、多くの「おっちゃん」のやる気を引き出したのです。
著者は目の前の「おっちゃん」の一言を大事にし、様々な人のご縁の中から、彼らの就職をサポートします。社会構造から生まれる課題を現場から発見し、アイデアとネットワークで次々解決し、ついにはホームレスの「おっちゃん」たちに住む場所を提供します。
17歳の時に著者が施設の間取り図を描いてから10年、ようやく彼女の夢が実現しました。
ホームレスの人たちが住む場所を得ることで、再就職の準備ができるようになったのです。
ホームレス問題は、他の社会課題とより密接に絡み合うようになってきており、ホームドア単独で解決することが不可能だと言われるほど複雑化が進んでいる。社会のセーフティネットたらんとするならば、私たち自身変わりゆく社会課題に合わせて柔軟に変化し、成長を遂げなければならない。だが、根本は変わらない。
当事者たちの声に耳を澄まし、必要なことを提供する。そうやって失敗しても安心して立ち直っていける社会をつくること。
あの炊き出しから15年、これこそが私が見つけた「働く意味」だと今は確信している。
川口氏は現場力とコミュ力(巻き込む力)で、社会的な課題を次々解決します。
本書からエネルギーをもらう一方で、行政がホームレスを見捨てている厳しい現実を知ることができました。彼らのための住居は少なく、働く意思を置き去りにしている実態をなんとか変えなければなりません。
著者のエネルギーが全国に広がり、Homedoorの取り組みが多くの行政や支援団体に採用されれば、ホームレスの人たちの課題は解決していくはずです。
著者と「おっちゃん」の心温まる交流をぜひ、本書で確認してもらえればと思います。落ち込んだ著者を助け出したのは、実は「おっちゃん」たちの思いやりや過去のスキルだったのです。
初めて給料をもらった「おっちゃん」の差し入れの話など、人の優しさにも触れられる一冊です。
NPO法人Homedoorへの寄付も可能です。詳細はこちらから。
徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる『川口加奈氏の14歳で“おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」の書評』
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。