ビットコインがもたらす共通認識の転換は大きな商機となる(後編)

暗号資産(仮想通貨)取引の歴史は浅く、普及にはまだまだ時間が必要です。前回に引き続き、ビットコイン草創期から業界を牽引してきたビットバンク株式会社 代表取締役CEOの廣末紀之氏が、暗号資産取引の未来を展望しています。インタビュアーは、当サイトにもビットコインに関する記事を寄稿してくださった中島宏明氏です。

紆余曲折あった事業立ち上げ

中島宏明氏(以下、中島氏)――ビットバンクを設立して、最初から取引所を始めたわけではなかったのですよね。

廣末紀之氏(以下、廣末氏)――そうですね。思えば遠回りしました。最初は、西麻布のベランダや六本木のピンクカウといったダイニングバーに、ビットコインが入手できるATMを設置して、「ビットコインを買える・ビットコインで飲食できる」空間をつくりました。決済にビットコインを使うことでリアリティが高まりますし、ビットコインユーザーが増えると考えたからです。しかし、KYC(本人確認)を取るのに、アメリカと日本の時差が課題となってやめました。

次にビットバンクウォレットという、クレジットカードでビットコインが購入できるウォレットサービスを提供しましたが、盗難クレジットカードの利用が多く、チャージバック(支払い異議申し立て)が多発して、これもダメになりました。

どうしても取引所を開設したかったのですが、当時は自前で取引所サービスを開発するだけのリソースがありませんでした。そこで、現BINANCEのCEOである、CZ氏がつくったbitDJというサービスを利用した開発も試みましたが、先方のエンジニアは1人だったので開発スピードが遅い。それならば、ということで2016年、独自に取引所サービスの開発を始め、事業としては2017年にスタートできました。

他にも「ビットコインは誤解が多いから教育や正しい知識の啓蒙が必要だろう」と、FLOCブロックチェーン大学校を設立しました。さらに、『ブロックチェーンの衝撃』という本を出版したりもしました。

ブロックチェーンの衝撃
著者:ビットバンク株式会社&「ブロックチェーンの衝撃」編集委員会(日経BP)

あらゆるモノを価値化できる世界が到来する

中島氏――お話を伺っていると、廣末さんは業界の生き字引のようですね。金融業界とIT業界をご経験されて、ビットコインや暗号資産は、今後どのように社会に影響を与えていくと感じていらっしゃいますか?

廣末氏――あらゆるものが価値化されるようになると考えています。例えば、「SNSのいいね」や「ありがとうという感謝の気持ち」を価値として表現でき、移転(送金・決済)や保存できる世界が実現します。

1円未満の金額や超巨額など、日常的な利用を想定されていないものは今の金融システムでは対応できません。そのような既存の金融では対応できない「1円未満の送金や保存」が出現すると、社会のあり方が変わります。「いいね」や「ありがとう」は0円ですが、そこに超少額でも価値がついて移転・保存されるようになると、モノやサービスの売り方も変化してくるでしょう。例えば、1回の使用料が0.01円のサービスがあったとしても、既存の金融では決済できません。しかし、仮想通貨なら決済が可能です。

中島氏――それは大変興味深いお話ですね。1円未満の寄付でも、世界中から集まればまとまった価値になると思います。それを別の価値に替えて活かすこともできますよね。事業を始めるときの資金調達の手段として、最近はクラウドファンディングなども流行っていますが、暗号資産を活用することで超少額ずつ世界中から集めることもできそうです。

分散型と中央集権型を組み合わせて堅牢なサービスに

中島氏――暗号資産が持つ課題について、廣末さんの見解をお教えください。

廣末氏――今のフェーズは、既存社会とのフィッティングを試されている期間だと捉えています。ビットコインは消費電力が膨大だとよく言われますが、社会に受け入れられるためには、自然エネルギーを活用したマイニングなど、エコシステム全体で環境問題を考えないといけません。また、マネーロンダリングの問題も常につきまといます。FATF(ファトフ)というマネーロンダリング対策やテロ資金対策などにおける国際的な指導、推進等を行う政府の金融活動作業部会の動向は、意識しておく必要があります。

中島氏――2020年は、DeFi(分散型金融)が人気になり、分散型管理の取引所も多く生まれました。取引の実行や記録が人の手を介さずにブロックチェーン上で行われているDeFiは、「究極の自己責任」の世界だと思いますが、個人的には取引所のようなセキュリティ管理が重要な部分は中央集権型で行うのが良いのではないかと思っています。つまり、分散型と中央集権型の良いところを組み合わせていくのです。

廣末氏――そうですね。すべてが分散型だと無責任になりますから、組み合わせるのが良いと思います。常に新しい技術とのぶつかり合いのなかで、今はまだ社会に溶け込めるかを試されている局面ですね。まだまだ暗号資産取引は始まったばかりですから、健全な会社が事業としてしっかりやらないといけないと考えています。

中島氏――ビットバンクさんのような健全な企業が増えていくことは、業界全体にとって望ましいことだと思います。ビットコインは、過去にシルクロードというダークサイトで悪用されていたこともありますが、今後はモラルを持った人や企業が、正しい方向に進めていく必要があると思います。そうでなければ、本当の意味で普及していきませんから。

トラフィックが集まるところに商機がある

中島氏――ビットバンクさんが今後目指していることなどを教えてください。

廣末氏――一番良い取引所にしていきたいと考えています。セキュリティはもちろん重要ですが、現物取引の流動性を確保することも重要だと思います。市場としてはデリバティブが大きいのですが、現物取引に特化してシェアを上げていきたいですね。現在、現物取引高国内シェアは約34%でトップではありますが、これに満足はしていませんし甘んじることもありません。

今の暗号資産取引所は、IT業界でいうISP(インターネットサービス・プロバイダー)だという話をよくしています。ISPは、インターネットに接続するゲートウェイであり、トラフィックが集まる場所ですから極めて重要です。そこでは、いろいろなビジネス機会と出会うことができます。短期的には取引所サービスに集中し、状況を見ながら他の事業に発展させていこうと考えています。

インターネットの草創期、ISPが勃興しブラウザが登場した後、アマゾンやグーグルなど、今では超巨大企業になったスタートアップが生まれました。暗号資産の普及後にも、インターネットと同じように次のビジネスが生まれるはずです。

中島氏――まだまだ草創期にありますから、今後が楽しみですね。今から暗号資産業界に入ろうという人や、ビットバンクさんで仕事をしたいという人もいると思います。そんな人に向けて、よろしければメッセージをください。

廣末氏――「ビットコインが好きな人」「ブロックチェーンが好きな人」と一緒に仕事をしたいですね。やはり、好きじゃないと楽しくないですから。中島さんと話していても、「この人はビットコインが好きなんだな」とすぐにわかります。あと重要なことは、誠実であることです。まだ誤解も多く、なにかと疑われる業界ですから、仲間にもお客様にも誠実であることは貫いていかないといけません。

中島氏――暗号資産取引を始めたり、業界に入ろうとしたりする人が、学んでおいた方が良いことはありますか?

廣末氏――学んでおくと良いのは、「資本主義のルール」や「経済のルール」、それからITの基礎知識とスキルです。情報格差という表現がありますが、知っているかいないかで人生が変わることはよくあります。IT化はまだまだ進みますし、DXが当たり前になるでしょう。ルールや基礎を知ることで、その知識が先を読む力になると思います。

出典:ビットコインは幾度の社会的ストレステストを経て唯一無二の地位を確立する(後編)

廣末 紀之
ビットバンク株式会社代表取締役CEO

投稿者プロフィール
野村証券株式会社を経て、GMOインターネット株式会社常務取締役、ガーラ代表取締役社長、コミューカ代表取締役社長など数多くのIT企業の設立、経営に従事。
2012年ビットコインに出会い、2014年にはビットバンク株式会社を設立、代表取締役CEOに就任。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)理事、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)会長を務める。

中島 宏明

投稿者プロフィール
1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立。一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から暗号資産投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。

この著者の最新の記事

関連記事

編集部おすすめ記事

年別アーカイブ

ページ上部へ戻る