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IT事業のあるべき未来像
――10年後、坂本さんはどんな世界を実現したいですか。
坂本氏――一言で言うと、あるべき姿で情報システム投資が行われている社会を実現したいです。
ITド素人が失敗前提のうえでIT投資を進めているような体制が多くの企業で横行しています。
昔の事例のような、自社にIT知識のある人間がいないから、ベンダーにとりあえず連絡して営業提案をもらって、その提案通りに進めてみるといった動き方は多少減ってきてはいるものの、IT企画・導入を推進している担当者がIT素人というのは未だ主流です。
そこで、きちんと企業の戦略としてIT投資の計画を策定し、それを推進できる体制を整備し、メンバーが集まり、内製化して進めていくような状態を実現したいです。
今は全体としてあまりにもその状態からかけ離れた状況にありますから。
ITを橋渡できる人材育成が急務
――いま、解決しなければいけない課題はどういうことですか。
坂本氏――ITを使ってビジネスを創ったり、ITとビジネスを繋げたりすることができる人材が、いまは非常に限られた人だけです。
そのような人間が出てくる土壌が現場にはないと思っています。
コンサルティング業界には、変革の瞬間だけお手伝いして、オペレーションには関わらないとうスタンスが見受けられます。
事業会社の中には、システム会社やコンサル会社に発注するだけの情報部門になってしまっているところが多く、全然人材がいません。
これは、雇用の流動性の問題と強く結びついている課題です。
情報システムにはライフサイクルがあって、数年に1回の大きな波のために、常時、社員を雇用していくというのには無理があり、外部委託をするというのが大前提になっています。
これが、社内に優秀な人間を残しておくことができない理由につながっています。
雇用の流動性を完全に高めるには相当な法改正が必要なため非現実的ですが、非常勤モデルの追求が1つの解決手段になると考えています。
――CIOの本音として、既存のシステムを運用しながら、新しいトレンド、流行に追いついていくだけで精一杯。それをどう取り入れ、どう運用するかを考える人がいないし、考える時間すらないと。実際、経営陣の理解やサポートがなく、CIOが独りで悩んでいるケースは多いと思います。
坂本氏――経営陣も何もしていないわけではなく、CIOにいろいろ言うのですが、結局進まないから仕方なくCDOを雇うのです。
でも、最終的な受け皿はCIOなのだという認識があまりにも不足しています。
組織内体制強化に尽力
――なるほど。社内のリーダーたちがCIOに関わる課題をあまり意識しておらず、CIOに任せるだけの一方的なコミュニケーションで終わっている感じはします。GPTechでは、戦略的に狙っていきたい業界や顧客はありますか。
坂本氏――今重点ターゲットに置いているのは、IT投資の難易度が高いのに、社内体制が弱い業界です。
1つが、公共業界。
2年に1度くらい人事異動がありますが、IT知見をベースに異動辞令を出す公共組織はほとんどありません。
その結果、そこそこの規模の難易度も高いIT投資に取り組むのは基本的には素人という前提になってしまっています。
あとは、業種にもよりますが、売上数百億円規模の企業です。
数年に1度、数億円程度のIT投資があるにもかかわらず、その投資を支えるIT部隊が不十分な場合が多い。
そういった課題を抱えているのは、独立した中堅企業だけでなく、売上数兆円規模の大手企業グループの子会社でも同じです。
大手企業グループの子会社の場合、基盤系の技術は共通化されたり、セキュリティガバナンスが管理されたりしてはいても、改善はその子会社が推進しなければならないことが多いです。
親会社が支援態勢を持っていたとしても、親会社のIT人材では企業規模が大きく異なる子会社に対してはスキルセットが異なるためサポートができない、という課題もあります。
つまり、助けなければどうにもならないところを優先的にサポートしようと考えています。
――すごくいい戦略ですよね。なので、政府のCIO補佐もなさっているということですね。
坂本氏――いくつか目的があります。
政府職員の立場から何かしら政策提言ができないかというのが、ひとつの目的です。
日本全体のIT業界に対して政策提言する、ということです。
自分の会社では実現できないことができうる立場だと考えています。
もうひとつが、公共調達の変革です。
公共組織のIT調達は、ものすごくルール的にがんじがらめになっていてやりにくい。
コンサルやシステム開発が外部委託で外からどんなに関わっても内部ルールを変えることはできないので、内部ルールを変えるという観点で入ったということです。
CIOが果たす役割の重要さがよくわかるお話でした。後編では、システム環境を変革する発注者支援「協調型アウトソーシング」と、坂本さんのこれまでのご経歴などについてお話を伺います。お楽しみに。