異業種コラボで地酒の可能性広げ、若い世代に伝える(後編)

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徳島県で130年続く酒蔵の五代目であり、杜氏として日々酒造りに向き合っている三芳酒造株式会社の馬宮亮一郎さんへのインタビュー。前編では、厳しい経営状況の酒蔵を継いだ後、改革を重ねて酒質を上げ、ファンを増やすために試行錯誤してきた道のりをお話くださいました。後編では、家族や異業種と協働でのさらなる挑戦や、地域社会に根ざした地酒の存在を若い世代に伝え、さらには地域活性化の“潤滑剤”となるよう心を砕いている取り組みについて伺いました。

娘たちも日本酒の世界へ

Z-EN――130年も続く酒蔵で新しい日本酒造りに挑戦し続けていらっしゃる馬宮さんですが、事業承継した際の経営状況はかなり厳しかったと伺いました。ご自身で酒造りを始めてから20年余り。挑戦を続けられてきて、どのような変化を感じられているのでしょうか。

馬宮亮一郎氏(以下、馬宮氏)――経営が厳しいことに変わりはなく、いつどうなるか分からない状況ではありますが、蔵の未来に少しだけ明かりが見えてきました。
飲んでいただきたいお酒の形も見えてきて、ありがたいことに応援してくださる方も増えています。
数年前に、私の祖母と母が、相次いで他界しましたが、母が亡くなる前に、金融機関の担保に入っていた土地屋敷が担保を外れました。
ぎりぎりのところで、親孝行できたかのではと思っています。

――それはお母さまたちも喜ばれたことでしょう。小さい頃、お酒の売れ行きを心配していた娘さんたちも、成長されたことと思います。

馬宮氏――はい。長女の綾音は高校3年生の時、東京農大の醸造学科への進学を希望しました。
祖母と母が他界した頃です。
お酒造りを手伝ってくれてはいましたが、音楽が好きで小さい頃からずっと音楽を続けていたので、家業である酒造りへの気持ちを持って進路を決めていたとは思ってもいませんでした。

驚きましたが、嬉しかったですね。
今は、東京農大を卒業し、お酒の世界で働いています。
次女の織絵も東京農大に入り、卒業後は社会人として働いています。三女の胡春はいま、大学生です。

三人娘が醸したお酒でクラウドファンディング挑戦

画像はクラウドファンディンのページより

――娘さんたちが日本酒について学んでくれて、お父様としても心強いのではないですか。

馬宮氏――本当に。実は、2021年4月に徳島県産山田錦を50%まで磨いた純米大吟醸を広く知ってもらおうと、クラウドファンディングに挑戦しました。
そのために娘たち3人は2018年のお正月、徳島産の山田錦で純米大吟醸を仕込んでいました。
私と妻も手伝い、精米歩合を変えて家族みんなで造ったお酒は、純米大吟醸は綾音、純米吟醸は織絵、特別純米は胡春の名前を付け、それぞれをイメージしたイラストでラベルも作りました。

画像はクラウドファンディンのページより

純米大吟醸は、その年の徳島県の鑑評会で1位をいただいたんです。
その後、2年間氷温貯蔵し、初めて出荷するにあたりクラウドファンディングで販売したところ、266人の方から目標の6倍にもなる300万円以上を応援していただきました。
新たなお客様との繋がりを、娘たちが作ってくれたことが本当に嬉しいです。

音響メーカーと「加振酒プロジェクト」

画像はクラウドファンディンのページより

――素敵なお話ですね。さらに、音響メーカーとのコラボもなさったとか。

馬宮氏――東大阪市の音響機器メーカー「オンキョー」さんと、醸造過程で音楽による振動を与えた日本酒を造る「加振酒プロジェクト」で2021年7月にクラウドファンディングを実施しました。
もともと、オンキョーさんは加振器を使った日本酒造りをしていました。
単に音楽を聴かせるのではなく、実際にタンク内のもろみを振動させるなら、物理的な変化が起こり風味に違いが出るかもしれないと考えたのです。

モーツアルトの振動で味わいUP!

――最新技術とのコラボですか。物理的な振動に可能性を感じたのですね。

馬宮氏――はい。事前の実験で精米歩合70%の純米酒で挑戦することに決め、タンク内に水中マイクを設置しました。
醸造の最後に行う「留め」の工程から搾りまでの約1か月、モーツアルトの楽曲による振動を与え続け、変化を観測しました。
同時に、まったく同じ原料、条件で振動を与えない酒も造っています。
振動を与えた酒は、与えていない酒に比べて発酵が進み、濃厚でしっかりした味わいに仕上がりました。

720ミリリットル瓶で1,500本ずつ造って「壱 ICHI」と名付け、クラウドファンディングで応援してくださった方に飲んでいただきました。
こちらも、268人の方から目標の4倍となる140万円余りを応援していただきました。
さらに、地域に特化するということでいえば、阿波踊りの「ぞめき」という踊り方の振動を与えれば、まさに「徳島の酒」を造れるかもしれません。

▶三姉妹の名前を冠したお酒を家族で造ったり、モーツアルトの楽曲の振動でお酒を醸したり。さまざまな挑戦を続ける馬宮氏が、地元の人たちを巻き込んだ取り組みは次のページで!

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馬宮亮一郎
三芳菊酒造株式会社 代表取締役・杜氏

投稿者プロフィール
徳島県三好市生まれ。立教大学卒業後、レコード店勤務を経て、実家の三芳菊酒造(三好市)を継承。
2000年から、杜氏として酒造りを行う。
2008年から、徳島県立三好高校の生徒たちに酒造りを指導。
2021年、音響機器メーカー「オンキョー」と加振酒プロジェクトを実施。
酒蔵でのライブや、「三芳菊を飲む女子会」といったイベント、各地での日本酒会などを積極的に展開中。

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