時代を生き抜くために企業が業績を維持し、さらに成長を続けることは容易なことではありません。しかし、老舗企業が存続の危機に陥ったり、中小零細企業であるがゆえにデジタル化の波に乗り遅れたりする課題を抱えつつも、絶えず新しいことに挑戦し変化していく企業こそが生き残り、成長を続けているという実例はたくさんあります。
前回の「企業の値段はどう決まる?赤字でも買い手がつく!M&Aの高評価事例」に続き、今回は、製造、販売、不動産、金融などさまざまな業界の事例から、企業が取り組んだ事業リノベーションと、その転換のポイントについて紐解きます。Z-ENにもご寄稿いただいている、事業再生コンサルタントで中小企業診断士の(株)レヴィング・パートナー代表取締役 寺嶋直史氏と、株式会社つながりバンク代表 齋藤由紀夫氏の共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』から、一部を抜粋してお届けします。
目次
本業を変化させていくことの大切さ
帝国データバンクの調査(TDB景気動向調査〔2015年6月〕)「“本業”の現状と今後に対する企業の意識調査」でユニークな発表がありました。
創業時期から「本業」が変化しているかどうかを調査したところ、約半数の企業が「本業」が変化していると回答したのです。
また、歴史ある優良企業こそ、変化を柔軟に取り入れていることもわかりました。
とはいえ、必ずしも革新的な「イノベーション」が必要というわけではありません。
今ある事業を少し手直しして変化を加える不動産の「リノベーション」のようなもので十分です。
中小企業にこそ事業リノベーションを
変化できるものが生き残る。
中小企業こそ変化を恐れず、果敢に挑戦すべきです。
小さなリノベーションでも成功し新たな利益を生み出せば、それは多くの中小企業の励みになります。
中小企業が変革を試み、本業をシフトしつつ成功した事業リノベーションの事例をご紹介します。
太陽に透ける和傘の美しさがヒントに
▶和傘製造会社
Z-ENでも「老舗ベンチャー事例「伝統」と「革新」よそ者だからできた」でご紹介した、創業が江戸時代後期という老舗京和傘製造企業が、変化を取り入れて成功した事例です。
日本では長い歴史の中で和傘が使われてきましたが、1960年(昭和35年)頃にポリエステル製の傘が世に出ると、市場を一気に奪われてしまいます。
和傘のニーズは激減し、異業種から飛び込んだ5代目となる現当主が継いだ時の売上は、年間数百万円まで落ち込んでいて廃業寸前でした。
しかし、彼は諦めず、自らの柔軟な発想で転機を呼び込みます。
ある時、太陽に透ける和傘の美しさにヒントを得て照明器具として開発。
試行錯誤の結果、海外バイヤーの目に止まり、今では高級ホテルや商業施設で使われるまでに高く評価され、市場での支持を得ています。
集客方法を電話からインターネットに転換
▶テレマーケティング会社
新規アポイントを電話で獲得するサービスを代行していた企業が、その後、インターネットを活用した集客代行に移行した事例です。
さらに法人営業をサポートするサービスを開発して、複数のメディアを運営する企業に成長しました。
変化のスピードを上げながら事業を拡大して中小企業から脱却し、2016年に東証マザーズに上場しています。
総務の負担軽減を機にコンサルタント事業へ
▶文房具販売会社
取引企業の総務部署との接点により、購買担当の負担を減らすことにニーズがあることに気づき、プラットホームを提供して成長した事例です。
こちらもZ-ENの「日本の底力をアップさせる~新シルバー世代の経営者」でご紹介しています。
現在では、総務のコンサルタント事業に進出しています。
M&Aを通して、周辺ビジネスを拡大
▶解体工事事業
解体工事をすれば、必ず廃棄物が大量に発生します。
その処分のための産業廃棄物処理は許認可事業ですから、免許を持つ事業者だけの集合体であるこの業界には独特のルールが存在し、新規参入には高いハードルが立ちはだかるのです。
そこで、M&Aで事業を譲り受けて参入し周辺ビジネスを取り込むことで、狭き門となる業界にも参入することができた事例です。
廃棄されていた中古エアコンを活用
▶電気工事事業
エアコンの取り付けや廃棄の仕事が増えてきたことから、まだ使える中古エアコンが大量に廃棄されていることに気づき、新規事業に転換した成功事例です。
中古エアコンの買取業者として会社の立ち位置を変え新たな事業を展開したことで、本業である電気工事事業の引合も増え、相乗効果が出ました。
手持ちの情報をもとに関連事業を拡大
▶不動産販売
公務員や医師へ投資用不動産を販売している中で、医療・教育に関するM&A案件情報を入手できるようになりました。
その情報を新たな事業に活用できないかと模索したところ、関連事業である健康診断・クリニックビジネス、専門学校などの経営に乗り出すことができ、大きな成功を収めています。
伝統の技を基にブランディングし直す
▶工業用金型製造業
金型設計の歴史ある企業ですが、徐々に菓子パッケージ製造などに業態をシフトさせていきました。
また、時代遅れともいわれる木型職人の技術を、きめ細かいニーズに対応できるコンサルタント型営業としてブランディングしたことで、開発できるジャンルが広がりました。
こちらも「ピンチをチャンスに変える事業承継 (前編)”異業種への進出”」で詳細を確認できます。
最近では、フェイスシールドのような新商品を開発し、メディアでも取り上げられています。
出典:幻冬舎ゴールドオンライン「歴史ある優良企業こそ『“本業”を変化させてきた』というデータ」
この記事と資料は、著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。
本シリーズの記事は下記からもご覧いただけます。
・企業の値段はどう決まる?赤字でも買い手がつく!M&Aの高評価事
・差別化と転換点の見極めが「大企業」へと押し上げる!
・財務諸表を読み解き、粉飾を暴く!リアルの把握がスモールM&A成功の鍵