テレワークをより推進する「電子帳簿保存法」改正
- 2021/7/9
- 経営全般
2022年1月に改正電子帳簿保存法が施行され、実務化に踏み切る企業が増えるだろうと想定されています。印鑑や会計帳簿などが次々に電子化されているなか、メリットを実感する前にデメリットの方を大きく感じてしまった場合、なかなか実務に踏み出せないのが現状です。もちろん、会計士や税理士などの専門家に相談しアドバイスを受けるでしょうが、実際の業務に携わるのは現場の社員ですから、電子化は会社全体の課題として全員で共有していくことが求められるでしょう。ゴージュ会計事務所の代表で公認会計士の岡野貴幸さんが、実務に基づいた電子帳簿保存導入に関する障壁や導入後のメリットについて解説してくださいます。電子帳簿保存を検討される方の参考になる内容です。
会計士も難しいと感じる電子帳簿保存の導入
「電子帳簿保存」という言葉を聞いたことがある人は多いと思いますが、実践している会社はほぼないと言っていいのではないでしょうか。
その理由として、依頼している税理士が対応していない、自身で調べるには複雑で良く分からないという点が大部分ではないかと考えています。というのも、私自身も導入したいと思いながら、いくつか障害となっており、クライアントに提案することが出来ないでいたからです。
電子帳簿保存法改正により普及が広がる
「電子帳簿保存法」とは、現金出納帳や仕訳帳、領収書などの書類の全部、または一部を電子データによって保存することを認めた法律です。1998年に制定後、これまでに何度も改正が繰り返されてその度に使いやすくなったものの、それでもまだ実務ではほとんど使われてきませんでした。やっと2020年12月10日に公表された令和3年度(2021年度)の税制改正大綱で電子帳簿保存法が改正されたことにより、2022年1月1日以降、使い勝手が格段に良くなります。
改正内容は、世の中の大きな変化に伴いテレワークの推進等を推し進めていくためにも制度を普及させたい政府の意図が強く出ていると感じます。電子帳簿保存が導入しやすくなったことにより、今度こそ制度を利用する会社や個人が増え世の中に普及していくのではないでしょうか。
今までなぜ電子帳簿保存が実務で導入されてこなかったのか、法改正後はどのように変わるのかをみていきましょう。なお、細かな制度の説明ではなく、実際に実務に触れている中で感じた点を中心に記載します。
電子帳簿保存が実務化されない理由
はじめに、現状の電子帳簿保存法で出来ることを簡単にまとめていきましょう。
- 総勘定元帳、仕訳帳を電子で保存可能
- 電子取引に該当するものは領収等が不要
- 受領した領収書について、スマートフォンで撮影したデータも保存可能
(ただし、タイムスタンプにより電子的に承認が行われていなければならない。)
これだけ聞くと利用したいと思いますよね。しかし、実務を行っている中で強く感じるのは、下記のようなハードルが実際の導入に二の足を踏ませることです。
ハードル1.利用開始3か月前までに税務署への届出が必要、かつ、その内容が煩雑
届出3か月後からしか始められないのは、実際に始めようとした時の意気込みにかなりのブレーキになる事項です。始める際には、すぐに実務に取り入れ、実際にやりながら修正を繰り返して徐々にやり方を構築していきたい会社がほとんどでしょう。にもかかわらず、3か月先からでないと始められないとなると、進めようとする熱が冷めてしまいます。
また、その届出の作成自体に結構手間がかかります。そのためスタートアップの会社だと、届出を作成する負担のほうが大きく感じられてしまうのです。税務署への届出という形式的な作業ではありますが、これがまず立ちはだかる大きな壁となっていました。
ハードル2.紙で受領した領収書を電子保存のみとするには要件が厳しかった
まず導入の障害となった点として、タイムスタンプのルールがありました。タイムスタンプとは、ある時刻に電子データが存在していたことを証明する技術のことで、これを押すことにより電子データが改ざんされていないと担保するものです。
このタイムスタンプ付与のルールとして、以下の2点があります。
- 領収書を受領した本人がスキャン等で読み取る場合、領収書原本に自署すること
- 受領から3日以内にタイムスタンプの付与をすること
受領から3日以内というのは、日々、領収書を受領したらスキャンするということを行わなければならないことになり、ハードルがとても高い事項です。
また、これを行えば領収書原本を破棄できるかというと、それはできず、1年に1回以上、各自事務に係る処理の内容を確認する定期検査を実施し、検査が完了するまで原本を破棄してはならないというルールになっています。
改正法により導入へのハードルが解消!
2022年1月1日改正法施行以降の大きな変更点としては、税務署への届出がなくなることです。つまり、いつからでも電子帳簿保存が始められるようになります。これは最も大きな障壁となっていた事項が解消されると言えるでしょう。
また、タイムスタンプのルール、定期検査についても大きく要件が緩和されます。まず、領収書を受領した本人がスキャン等で読み取る場合、領収書原本に自署することが不要となります。加えてタイムスタンプの付与期間がこれまでは3日以内だったものが、最長2か月となります。さらに1年に1回以上とされていた定期検査も廃止されます。
この改正により、電子帳簿保存が大きく推進しそうです。改正法施行までの間に各社準備を進めていくと、大きく業務が効率化することでしょう。
出典:「電子帳簿保存法」の障壁、改正によりどう変わる?
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。