会社を売却する社長の本音 飽きたら売ってもいいのでしょうか?

会社を他人に譲渡する。多くの社長にとって、人生の一大事です。企業にとっても、最大の機密事項であることには間違いありません。では、どのような心理変化によりその決断をするのでしょうか。多種多様な譲渡案件を取り扱い社長の本音を知る機会も多いM&Aアドバイザーに、開示資料には決して現れることのない社長の心理を教えていただきました。

M&Aの成功確率は決して高くない

筆者は第三者に事業を承継することを主なメイン分野とするM&Aアドバイザーですが、必ず親族や従業員への承継を先に検討することをお勧めしています。中小企業の多くは家族経営、親族経営で成り立っており、ある日突然第三者が経営を引き継いて簡単にうまくいくような単純な話ではありません。

失敗すれば、当然誰かを攻めたくなのが人間というものです。実際には買手のマネジメントの失敗でありながら、前経営者の責任を問うような不毛な揉め事も多々あります。M&Aアドバイザーの仕事とは矛盾するかもしれませんが、安易な気持ちで第三者に譲渡することは勧めておらず、自分の中でその理由がしっくりくるまで問いただすことにしています。

内外部環境の変化理由には建前も多い

下記の図をご覧ください。内外部環境の変化については、書店に並んでいるような専門書にもよく出てくる理由です。いわゆる建前が多い世界です。法改正、競争の激化、最近ではコロナショックなどがあげられます。

内部環境として多いのは、後継者不足、ノンコア事業の売却、資金調達の限界、体調不良など、中には深刻な状況に陥っているケースも多く、一刻を争うような事案もあります。ただし、これらをいい訳や建前にしているケースも充分あり得るでしょう。

本音1:社長業が向いてなかった

自ら社長になることを目指して独立した方もいれば、親から受け継いだ方、会社を何かしらの理由で辞めざるを得なかった方など、社長になった背景は多様にあるものの、決して前向きな理由だけではありません。中でも、社長になって初めて自分にその適正が無かったと気づく社長も多いのです。

代表的なもののひとつは「借入が怖い」というものです。借金は悪、返せなかったら大変なことになると教育されてきた方は多いでしょう。しかしながら、ビジネスには先行投資しなくてはいけない局面があり、その資金調達をして責任を負えるのは社長だけなのです。

また、「従業員の雇用・教育が嫌だ」という本音もよく聞きます。組織の堅苦しさが嫌で独立した方も多いのですが、事業が拡大するにつれて必然的に組織をつくらなくてはいけなくなるという、ある意味皮肉な話です。

人は雇いたくない、借り入れはしたくないと、リスクをとりたくないのであればやはり、経営には向いてないと言わざるを得ないでしょう。

本音2:飽きてしまった

けしからんと思う方も多いでしょう。しかしながら、これが現実です。社長も人間の一人であり、人間とは飽きる生き物なのです。社長には、転勤や配置転換もありません。中小企業の社長であれば、来年もその翌年も同じ仕事をしなくてはならないのが現実です。

また仕事ができる社長ほど、飽きっぽい方が多い印象を受けます。常に変化を求めて新ししいことにチャレンジしたからこそ、激しい生存競争に打ち勝ってきたという会社も多いのです。一旦、ビジネスが軌道に乗ると、それまでの熱量が急激に下がってしまうようなことは決して珍しくはありません。

飽きた社長はどうするか

会社に飽きてしまったということを、誰に相談できるでしょうか。社員に言えるでしょうか。社長の相談役である税理士に相談しても「そんなことでどうする」等と諭されるのが落ちでしょう。銀行や取引先に言えるでしょうか。下手をすれば、おかしな社長とレッテルを貼られ取引に影響が出る可能性もあります。

経営や、本業に飽きてしまった社長は多いのですが、誰にも相談できず悶々としているのが現実です。そして、そんな思いを抱えながら日々の雑務に追われ、義務感から経営を継続している社長も多いのです。

そんな現状を目の当たりにすると、現実的な解決策として「飽きたら第三者に譲ってもいいのではないか」という選択肢が、不謹慎とは思いながらも有力となります。逆に、社長が飽きてしまったまま経営することのリスクは高く、経営意欲のなさは社員や関係者にも伝わり、徐々に経営が悪化する可能性も孕んでいます。

たとえ社長業に飽きたとしても、それなりの年数社長をしているということは、ある意味すごいことです。そのような社長は別のことをやってもうまく行く可能性は高いです。実際に会社を売却した後にその資金で、新規事業を立ち上げて成功したり、買手としてM&Aにチャレンジしたりする方の事例は沢山あります。

飽きたらやめていいんです!

飽きたらやめていいんです。ただし、自分以上に熱量を持った方に事業を託す責任があります。そこには従業員がいて、取引先、そしてその家族がいるのですから。そのような視点でみると、M&Aは単に価格面の条件だけで判断してよいのかといった疑問も生じます。飽きて売るのだから、少しぐらい後ろめたさを感じて、自分以外の誰かの幸せのために第三者に託すのがちょうどよいのかもしれません。

齋藤 由紀夫
株式会社つながりバンク 代表

投稿者プロフィール
株式会社つながりバンク 代表。
オリックス㈱に16年在籍後、2012年に独立。
スモールМ&Aの普及活動を中心に、事業再生・リノベーション等に注力。自らМ&A・事業投資も行い、数件エグジット済。
経営革新等支援機関(中小企業庁主管、認定支援機関)、事業引継ぎ支援センター 専門登録機関、日本経営士協会 経営士、日本外部承継診断協会 顧問。
趣味は焚火、居酒屋巡礼、トレイルランニング。

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