事業リノベーションに、働きやすい職場づくりは不可欠です。すべて自分の手柄にしようとする上司がいると、それを支える組織は疲弊してしまうばかりか、新たな人財も育たないでしょう。古今東西変わらずにあるこのような問題を、東洋思想の先人はどのように見ていたのでしょう。
毎週月曜日に更新している本コラム。一般社団法人数理暦学協会の代表理事 山脇史瑞氏のナビゲートでお伝えして参ります。
事を処理するに理有りと雖も、而も一点の己れを便ずるもの、
挟みて其の内に在れば、則ち理に於て即ち一点の障碍を做して、理も亦暢びず。
言志録 183条 佐藤一斎
どんなに道理があっても、どんなに筋道が通っていても、
僅かでも自分の便宜を優先させようとする野心や、
優越を誇る気持ちがあると、相手は微妙にそれを感じ、心の底から納得してもらえなくなる。
「言志四録」は、江戸後期、佐藤一斎が四十余を費やし記した随想録(四部構成)。指導者のための指針書として吉田松陰や西郷隆盛の愛読書としても知られる儒教のバイブルです。
自ら是として人を見下す、
此は是れ汝が一生の大病根である。
伝習録 陸澄所録
特に生まれが良い者は、自然に人を見下す癖がある。
この癖は、生涯付き合わなければならない病気であることに留意せよ。
「伝習録」は、中国明の時代に王陽明が起こした儒学の教えを弟子がまとめたもので、陽明学の入門書。その一節「陸澄所録」より抜粋。
狭い庭に大きな樹木があるとする。
土の栄養も、恵みの雨も、すべてこの大樹が吸い取ってしまうため、
どんなに良い種を蒔いても育たない。
事業リノベーションとは、このような大樹を、細い根すら残さぬレベルに伐採し、
風通しを良くして、土を耕し、様々な植物を植える作業でもある。
大樹を活用したければ、狭い土地から根ごと抜き、広い大地に移植する。
しっかりとした木であれば、根を張り更に大きくなるできるだろう。
しかし、狭い庭でしか通用しない木であれば、根を張れず立ち枯れてしまう。
それが自然の摂理である。
経歴が良く、成功体験のある者ほど、
人を見下す言動を行っていないか常に意識することこそ大切だ。
「今の若い者は仕事ができない」という言葉そのものが、老木の言葉である。
「今の若者」が悪いのではなく、
人を見下す癖そのものが、原因なのかも知れないと別の視点から考えることこそ大切だ。
王陽明は中国明時代の学者、思想家で、朱子学の考えを批判する新しい儒学思想としての陽明学を提唱した人物。朱熹しゅきが書物を通し物事を窮めることによって理を得ると説くのに対し、理は元来より自分自身に備わっていると、形骸化した朱子学を批判し、時代に適応した実践倫理を説きました。日本でも、幕末の維新運動の際、吉田松陰、高杉晋作、西郷隆盛らが陽明学の影響を受けています。
出典:東洋古典運命学「成功したければ、両手を空けよ」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。