勝負や交渉の場面では、自分と相手の立場や力量の違いを敏感に感じ取り、立場が上だと傲慢になったり、逆に相手より秀でたものがないと悟ると卑屈になったりに陥りがちです。だからこそ、可能な限り対等な関係で他者と関わろうとすることは、すべての状況下での処世訓となるのではないでしょうか。
毎週月曜日に更新している本コラム。今回は、事業承継やM&Aにも生かせる先人の教えを、一般社団法人数理暦学協会の代表理事 山脇史瑞氏のナビゲートでお伝えして参ります。
交際の道は、碁将棋の道に法とるを善とす。
夫れ、将棋の道は強き者、駒を落として、先の人の力と相応する程にしてさすなり。
己、貧にして不才、且つ無芸無学ならば、碁を打つが如く心得べし、
先の人富みて才あり、且つ学あり芸あらば、幾目も置きて交際すべし。
是れ碁の道なり、此の理独り、碁将棋の道にあらず、人と人と相対する時の道も、此の理に随ふべし。(二宮翁夜話巻之四)
人との関係構築は、将棋と碁の法則に従うとよい。
将棋の法則は、強い方が駒をわざと落とし、
弱い方のレベルに合わせた上で、勝負を行う。
逆に、自分の方が不利な場合は、碁の法則に従え。
相手が優れていることを十分認め、敬意を払いながら、
先に条件を提示させて貰う。
これこそが、碁を打つ際の心得であり、人間関係にも使える法則である。
「二宮翁夜話」は、二宮尊徳(金次郎)が門人たちと問答した際の言行を記した書。門人の一人で師の身辺で暮らした福住正兄が、4年間で書き留めた「如是我聞録」を整理したものです。
これは二宮尊徳の記した「交際の法則」である。
通常、人間関係には必ず高低差がある。
全てのファクターで平等な人間関係など、
世の中には存在しない。
その高低差が拡大すると、人間関係が難しくなる。
自分たちが有利な場合は、有利な部分を外すことである。
相手との差が大きい程、最も有利な条件を外し、
互角な人間関係を構築した上で、交渉を始めることこそが、
弱き者と戦う法則である。
たとえば、事業承継やM&Aの場面でも、
財務面が有利であれば、その意識を徹底的に外すこと。
技術力に秀ででいれば、その優位性を外し、
デザインが優れていれば、その自負心を捨て去る。
高学歴の社員が多ければ、誇示することがないように、
社員に徹底させること。
相手と同じスタート地点に立ち、同等な人間関係を
築かない限り、交渉がまとまらない。
どのような勝負にも終わりが見いだせない。
それでは逆に、自分達の方が不利な場合は、
碁の法則に従え。
相手を十分認め、敬意を払う。
しかし、絶対に卑屈になってはいけない。
萎縮して、戦いそのものを
最初の時点から放棄してしまうことのないよう、
先に条件を提示して守りに入らない。
相手を自分たちのペースに巻き込むことも大切で、
考えすぎて返答を遅らせ、相手のペースに飲み込まれる
ことだけは避けなければならない。
これこそが、碁と将棋の法則であり、
事業承継やM&Aの場面にも通じる処世術である。
二宮 尊徳 は、江戸時代後期の経世家、農政家、思想家。一般には「金次郎」、諱の「尊徳」は「そんとく」という読みが定着しています。経世済民を目指して報徳思想を唱え、報徳仕法と呼ばれる農村復興政策を指導しました。
出典:東洋古典運命学「高学歴女子の婚活は、碁や将棋のやり方を参照せよ」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。