エリアに面白みのある産業クラスターを産む(後編)

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リノベーションまちづくりで“まち”の課題を解決

――いよいよ、行政と民間が連携した、新しい”まちづくり”の展開ですね!

清水氏――その頃私に声がかかる仕事は、その殆どが空き店舗や空きビルをただ埋めて欲しいという空き店舗、空きビル対策でした。
そんな中でオファーをくださった北九州市は違いました。
「清水さんのやっていることは、空きビル活用を起点として、“まち”が抱えている課題を解決することですよね?それを北九州でプロデュースしてくれませんか?」というものでした。
私が今までやってきた“リノベーションまちづくり”の根本を理解してくれていたんですね。

折しも、民間だけで“まちづくり”を行うことに限界を感じていましたから、行政も巻き込みながら、民間主導型の“まちづくり”をするチャンスが来た!と感じました。

北九州リノベーションスクールの様子

出典:リノベーションスクール

まちを愛し公共心を持つ事業者市民が先導役

――北九州の”まちづくり”はどのように取り組まれたのですか?

清水氏――神田の“まちづくり”で学んだのは、まちを愛し公共心を持ち、継続する事業を実行できる人をしっかりと掴まえないとプロジェクトは動かないこと。
まずは志をともにしてくれる不動産オーナーをメンバーに迎えなければだめです。
行政が検討委員会を作る従来のやりかたではなく、“まち”の中からしっかりした不動産オーナーを委員として選出し委員会を組成しました。

北九州では、リノベーションスクールという形で2011年から6年間やりましたが、みんなが“まち”のことを考えて活動し、大きな実績を残しました。
このスクールで創出された起業者は200人を超え、新規雇用者も500人を超えていました。

志のある家守がプロジェクトの機動性を高める

――リノベーションスクールは北九州からはじまり、今は76都市に広がっているそうですね。

清水氏――はい。
昨年受講修了生が5,000人を突破したと聞きました。

地方から発せられる想いは1つなんです。
でも1つのエリアが再生出来たからといって、他のエリアにそのままコピペできるかというとそうではない。
地域資源も人的資源もそれぞれ違いますから、すべてローカライズが必要です。
各地で志のある家守を育て、その家守を中心にプロジェクトを進める形で機動性を高めていけるようになってきました。

(左)「とりあえず」使われていた倉庫をペンキ塗りするワークショップの様子
(右)リノベーション後の現在「guest house MARUYA(静岡県熱海市)」
※画像は、全国のリノベーションプロジェクト「ReReRe Renovation!」より引用

公民連携事例「オガールプロジェクト」

――今も岩手県の紫波町での“リノベーションまちづくり”に取組んでおられるそうですね。

清水氏――紫波町しわちょうは東西30㎞、3.3万人のうち中央の平野部に三分の二の人口が集まる“まち”です。
奥羽山脈と北上山脈の間の典型的な人口減少・高齢化が進む過疎地域でした。
奥羽山脈から質の良い水が流れ、南部杜氏が集まる酒造りの土地でもあります。

この“まち”は、13年前に開始した、「オガールプロジェクト」で一躍注目を浴びています。
プロジェクトは、長らく使われていなかった10.7haの町有地を公民連携でまちの中心にするものです。
計画当時、私は東洋大学の大学院で公民連携の講義を行っていて、紫波町と一緒に行ったのが、このプロジェクトです。

オガールプロジェクトはうまく運んで完成し、まちの人口減少が止まり、高齢化率も下がり始めました。
しかし、まちの東西にある山際エリアは過疎化が進み、2022年3月末までに7つの小学校が廃校になります。
今度は廃校を活用して、紫波町の地域創生を更に進化させるために、高校生および社会人を対象に一緒に体験学習スクールを始める予定です。
産業の持続と地方創生のための人材育成はこれからの日本にとって大切なことですから、これに注力していこうと思っています。

不動産の活性化で産業クラスターを産む

 

――最後に、アフターコロナのエリア開発をどのようにご覧になりますか?これから不動産をやってみたい、もしくは遊休不動産を活性化したいと思っているZ-EN読者にアドバイスをお願いします!

清水氏――コロナ禍の影響は大きいですね。
働き方、住まい方、遊び方が全国で変わってきています。

自然の中のグランピングやキャンプ場が人気を集め、まち中では屋外の公共空間の使い方が大切になってきました。
東京では、少し都心を離れた住宅街で空き家や空き地がポコポコ発生するスポンジ化はいたるところに現れていますが、都心から近いところにも家賃が陥没する地帯がたくさん出ています。
コロナ禍ではそういった面白いエリアが一層広がっているのです。

こういう変化する時期はチャンスです。
衰退地域の中の半径200m、端から端まで徒歩で5分程度のスモールエリアを、キャラクターを持った面白いエリアに変えていくことを仕掛けていくと良いと思います。
遊休化した不動産を活用して、何をやりたいの?ということが大事です。
不動産の事業でありながら、そのエリアで産業のリノベーションを行ったり、人と人がより良い関係を持てるコミュニティをつくったり、若い人材を育てたりしていきたいと思っています。

本稿「エリアに面白みのある産業クラスターを産む」の
前編「敷地に価値なし、エリアに価値あり」はこちらから

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清水義次
株式会社アフタヌーンソサエティ 代表取締役
建築・都市・地域再生プロデューサー

投稿者プロフィール
東京大学工学部都市工学科卒業後、教養学部アメリカ科学士入学
アフタヌーンソサエティを設立
建築・都市・地域再生、家守事業等のプロデュースを手がける。千代田区神田、新宿区歌舞伎町で現代版家守によるまちづくりを実践。その後、北九州市小倉魚町でリノベーションまちづくりの指針となるエリアヴィジョンづくりやまちを変えるエンジンとなるリノベーションスクールの仕組みを構築する。以降、全国の仲間とともに縮退時代に適合したまちづくり、人々の健康で幸せな暮らしを支える地域づくりを行っている。
♦︎株式会社リノベリング代表取締役
♦︎一般社団法人公民連携事業機構代表理事

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