健全な経営は役割分担と相互牽制で

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一つの事業が成立するにも、さまざまな部門と多くの人材が組成されますが、経営の役割においても多様な側面があることから、一人が担うには荷が重く、事業が上手く回らないといった弊害が生じることがよくあります。現在は、経営を分担することが当たり前になっていますが、そこにも問題は潜んでいるようです。

これまで3記事に渡って「成長段階ごとの中小ベンチャー経営者の悩み」についてお話しくださった経営コンサルタント高森厚太郎氏が、経営の役割分担の必要性について語ってくださいます。

(高森氏の「中小ベンチャー」に関する過去記事はこちら)

経営には役割分担がある

数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。

前回の記事「成長段階を進む中小ベンチャーの悩み“組織マネジメント”」のなかで取り上げた問題へのアンサーとして、今回は「経営の役割分担」についてお話しします。

CEO・COO・CFOによる経営システム

中小ベンチャーの経営者は、経営者にしかできない固有の仕事とそれ以外の多岐にわたる雑多な仕事をこなしながら、企業の成長段階に応じた悩みを随時解決していかなければなりません。そんな経営者が、「とても1人では立ち行かない」「キャパシティーを超えている」と思いはじめた時に出てくるのが、1人の経営者ではなく複数の経営陣で経営を担当する「経営の役割分担」という考え方。一般的なのがCEO・COO・CFOの3人体制による経営です。私は、この3者による体制が経営者固有の4つの仕事を過不足なくカバーする上で、非常によくできたシステムだと思っています。

3者(CEO・COO・CFO)の独立した役割

出典:高森氏の資料より

理念を作り信じさせるのがCEO

「CEO」は、基本的にはその企業を起業した当人(創業者)が就く立場です。通常日本では、「最高経営責任者」や「代表取締役」と訳されます。上記表の4つの仕事の中で①経営理念の作成、なかでもミッションを作成する役割は、この人にしかできません。

そもそも起業は創業者の情熱や信念がなければなし得ないものです。その意味で、創業者(CEO)とは「理念を唱えるドン・キホーテ」、自らの理念(ミッション)と、その実現手段としての自分の会社を、理屈抜きに強烈に信じていて、その理念(ミッション)の達成に向かって脇目も振らずに猛進していきます。そればかりか周囲にも同じ理念(ミッション)を信じさせ、自分についてこさせる、そんなエネルギーを持っているのがCEOです。CEOは企業の顔であり、④渉外活動を通じてビジネスチャンスを広げていくべき立場でもあります。

COOは実務のPDCAを回すオペレーター

CEOが理念(ミッション)を唱えているだけで事業が成り立ち、自動的に企業が成長していくわけではもちろんありません。理念(ミッション)は実務に落として実行されなければなりませんが、そのオペレーションを担うのが「COO」です。

最高執行責任者であるCOOは、言うなれば「オペレーションを率いる番頭」、②実務のPDCAを回す立場です。CEOが理想を見ているとすれば、COOは現実を見ています。理想と現実を1人の人間の中にあわせ持とうとすると、自家中毒を起こしがちです。どちらかを諦めるか、なんとか妥協点を見つけるか、両者とも追求しようとして空中分解してしまうか……。やはり理想と現実は分けて別々の人間の中に持たせた方が合理的と言えます。

管理部門全体を統括するCFO

「CFO」は、CEOやCOOのように事業を推進していく立場ではなく、事業を客観的に俯瞰する立場です。日本では「最高財務責任者」と訳されることが多く、「経営管理担当の参謀」というイメージでしょうか。主として「カネ」に関する部分を見る立場ですが、「ヒト」など組織管理全体を含む③リソースの調達と配分の全社的戦略を整えていく立場です。

経営の三権分立による相互牽制

このように、経営者が自ら4つの仕事をこなしていくのは難しいため、CEO・COO・CFOによる3人経営体制はとても効率的なシステムだと言えるでしょう。3人の経営体制は、一人ではこなせない経営の仕事を「役割分担」して行えるという利点以上に、重要と考えるのは「相互牽制」です。

COOがいないと事業は推進しない

経営チームがあっても、この3人がそろってない会社というのは結構あります。例えばCOOがいないケース。CEOとCFOだけだと、組織マネジメントはCEOがやるケースが多くなりますが、CEOは理念を唱えるドン・キホーテらしく夢見がちで、組織が現実遊離したり、経営と組織が乖離したりします。

また、CEOはキャラクターが強く、圧が強かったりするので、組織が疲弊してしまう可能性もあります。一方、経営の相棒であるCFOは、カネ系、つまり数字が強い人です。しかし、管理サイドであることから、事業サイドの組織にうまく血を通わせることができません。このように、COOがいない結果、組織が大変になり、いつまでも会社が安定しないということが考えられます。

CFOがいないと安定した管理ができない

CFOがいなくてCEO、COOだけの会社も同様です。CFOがいない会社は、CEOのビジョンを語る力とCOOの組織を動かす力を持つので、攻めには強くなります。しかし、CFOの冷静で客観的な事業管理力を欠くので、守りが弱いと言えるでしょう。

1者による独裁もバランスを欠く

しかし、経営チームに3人が揃っていても、CEOの独裁体制 (このタイプの会社は多いです) だと、理想を追うばかりで現実の数字や人を見られない、進捗管理で組織にプレッシャーをかけるだけに陥りがちです。逆にCFOが強すぎる (上場会社はこの傾向あります) と、企業が守りの態勢に入ってしまい、事業推進力が弱まってしまいかねません。

経営の三権分立がベスト

3人の業務の住み分けが合理的にできており、3人の権力や能力が拮抗していて、相互チェック機能も健全に働いている状態、つまり三権分立が出来ている状態が理想的な経営体制と言えるでしょう。

では、経営チームのメンバーであるCEO・COO・CFOにはそれぞれどんなスキルが必要でしょうか。次の機会に、CEO・COO・CFOに求められるスキルやマインドについて明らかにしていきます。

出典:連載コラム「経営を役割分担した方がいい理由」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

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高森 厚太郎
プレセアコンサルティング株式会社
代表取締役パートナーCFO

投稿者プロフィール
東京大学法学部卒業。
筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。
日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。

現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするベンチャーパートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。

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