登録制度から見えてきたM&Aアドバイザーの実態とその推察

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コロナ禍以前に比べ増加傾向にあるM&A業界では、事業譲渡を考える中小企業経営者をバックアップするM&A支援機関も増えています。それらの実態は長らく不透明なままでしたが、中小企業庁に登録する「M&A支援機関に係る登録制度」によって、取引形態や最低手数料の実情が徐々に明らかになってきました。
長年、M&A業界に従事してきた株式会社つながりバンク代表の齋藤由紀夫が、直近の情報を読み解き、積み重ねてきた知見からの推察をお話させていただきます。

M&A支援機関は約3,000事業者

多くの中小企業経営者にとってM&Aは重大イベントですが、一生に一度あるかないかのことであり、専門家であるM&Aアドバイザーとの間に情報格差があるのは当然です。
その格差に対策が講じられないまま市場だけが拡大することによって、M&Aのトラブルも増えてきています。
そのような課題解決を図る目的もあり、経済産業省が旗振り役となっている「M&A支援機関に係る登録制度」が令和3年8月からスタートしていることは、こちらの記事でまとめています。

制度開始当初に2,278事業者(法人1,700件、個人事業主578件)だった登録機関は、令和6年1月時点で約3,000事業者となり、筆者も驚く登録数となっています。
直近3年間に設立された支援機関が全体の半分以上という新規参入が極端に多い業界です。
今年、M&A支援機関の実態とM&Aの規模等について中小企業庁が行った実態調査のレポートもあり、これまでベールに包まれてきたM&A支援機関の実態・活動内容が徐々に明らかになってきました。

出典:中小企業庁HP
M&A支援機関登録制度「令和5年度公募(12月分)結果」より

成約ゼロのM&A支援機関が74%も

登録支援機関は毎年実績報告が求められています。
報告を怠ると更新ができないため、回答率は高く94%令和6年1月19日付「現在の登録状況について」より)でした。
ただし、全報告者のうち、74%を占める1,971事業者が、M&A実行件数がゼロ件という残念な結果となっています。

M&Aの相談はとても多いのですが、相手を見つけて実行に至るまでのプロセスには多くの課題や予測不能な問題が発生するため、高い専門性と豊富な経験が求められます。
ただし、今回の登録は、紹介業務やデュー・ディリジェンス(DD)等は実績に含まれていないので、実際に案件に関与した事業者はレポートよりも多いかもしれません。

登録支援機関は、M&A仲介専門業者がトップ

出典:中小企業庁HP
M&A支援機関登録制度「令和5年度公募(12月分)結果」より

登録機関の内訳としては、
①M&A専門業者(仲介)(22%でトップ)
②税理士
③経営コンサルタント
④M&A専門業者(FA/片側)
⑤会計士
⑥中小企業診断士
と続きます。
従業員数は、4人以下が全体の86%、10人以下は95%と小規模ブティックが多い状況です。

出典:中小企業庁HP
M&A支援機関登録制度「令和5年度公募(12月分)結果」より

M&Aの実情と支援機関の実態

実態報告の調査レポート(中小企業庁財務課「M&A支援機関登録制度実績報告等について」)では、「純資産」(解散価値)の何倍で譲渡されているのかという尺度で集計が行われ、中央値は1.4倍という結果でした。
売却を検討している方にとっては、かなり低い金額と感じるかもしれません。
考え方は同じですが、実際の現場では、純資産+実質営業利益(CF)2~5年分で計算する「年買法」という手法がメインで採用されています。
筆者の最近事例では、純資産に6年分の利益を乗せて譲渡できたケースもあるので、あくまでも債務超過や業績低迷している企業をも含めた平均値との認識です。

最低手数料は1,000万円以下が88%

最低手数料は500万円と、1,000万円で設定しているケースが最も多い状況です。

出典:中小企業庁財務課
「M&A支援機関登録制度実績報告等について」

金額帯でみると、多い順から①200~500万円以下が36%、②200万円以下が31%、③500~1,000万円以下が21%、④1,000~3,000万円以下が12%という結果です。

また、全体の約半数が「中間金」を成功報酬として設定していました。
成功報酬の計算式では「譲渡価格」を基準にするのではなく、負債までを含めた「移動総資産」を基準とする業者が1/4以上存在していることが印象的でした。
契約を締結する前にそのあたりの確認が必要です。

※実績報告では報酬総額の内訳について、報酬の受領タイミングにより「着手金(FA契約・仲介契約締結時等の報酬額)」、「中間金(基本合意締結時等の報酬額)」、「成功報酬(最終契約締結時等の報酬額)」の文言を用いている

出典:中小企業庁財務課
「M&A支援機関登録制度実績報告等について」

簡単便利な株式譲渡が73%

M&Aの教科書には、さまざまなスキームが事例として出てきますが、今回の調査では①株式譲渡73%、②事業譲渡21%、③その他5%という結果でした。
簿外債務を引き受けたくない理由や、特定の事業だけ欲しいというニーズもあり、もう少し事業譲渡が多いと推測していましたが、実行手続きが簡便な株式譲渡が選択されている結果となりました。

求められるM&Aアドバイザー評価制度

今回の調査結果にはいろいろと疑問点が残りますが、不透明であった業界情報に透明性が出てきたことは、利用する側にとって大きな意義があったと感じます。
一方で、今回の調査対象となった支援機関の多くは、まだまだ「会社」というよりは特定の「個人」の実力、経験、人間性に依存しているのが実態です。

M&A人材の流動性も高まってきています。
「個人」の得意分野も、売手側、買手側、デュー・ディリジェンス、譲渡後のフォロー(PMI)と、業界業種等さまざまです。
依頼する側も初めてのことが多く、支援機関となる「個人」の力量が分かる評価制度のようなものが求められてきているのかもしれません。

齋藤 由紀夫
株式会社つながりバンク 代表

投稿者プロフィール
株式会社つながりバンク 代表。
オリックス㈱に16年在籍後、2012年に独立。
スモールМ&Aの普及活動を中心に、事業再生・リノベーション等に注力。自らМ&A・事業投資も行い、数件エグジット済。
経営革新等支援機関(中小企業庁主管、認定支援機関)、事業引継ぎ支援センター 専門登録機関、日本経営士協会 経営士、日本外部承継診断協会 顧問。
趣味は焚火、居酒屋巡礼、トレイルランニング。

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