自分の道を極めていくと、本当に自分に足りないものを見つけることができます。すると、自分の苦手なことや嫌いなことを克服している人へのリスペクトが生まれ、素直に教えを乞うことができるようになり、自らの知識を最大限に広げられるのです。先行きが見通しにくい時代ですが、事業投資やM&Aなどで困難な決断をするときでも、己の不得手を自覚して他者を尊重できれば、道は拓けるのではないでしょうか。
毎週月曜日に更新している本コラムでは、一般社団法人数理暦学協会の代表理事 山脇史瑞氏のナビゲートでビジネスの指針となる東洋思想の先人たちの言葉をお伝えして参ります。
避嫌者、皆内不足也
(嫌を避ける者は、皆内足らざるなり)
近思録 朱熹
人は、自信がないことに対して、好き嫌いの問題に転化してしまい、
「嫌だから…」「苦手だから…」と、自らを納得させて回避しようとする。
しかし、この回避をし続ける限り、いつまで経っても、物足りない仕事しかできない。
近思録は、中国・宋代の朱熹が、北宋の儒学者4名の著書から抜粋して編纂したいわゆる朱子学(儒教)の入門書です。このあとに、「四書」、「五経」と読み進める流れは多くの企業経営者に影響を与えており、90歳を過ぎた晩年まで日本各地に多くの企業や銀行などを興した澁澤栄一翁もこの儒教教育を経営哲学の基礎にしています。
私たちは普段、自分の良いところを見せたいと思うもので、
日々の仕事のなかでも、自分にとって都合の良い状況を作り出そうとしている。
そのため、苦手な人や不都合な状況に遭遇すると、無意識にその状況を回避しようと
問題を後回しにして、判断や回答が遅れたりする。
ゆえに、期待していた結果に繋がらず、
廻りからの評価も落ちるといった状況が起きてしまうのだ。
そうなると、それまで頑張っていた自信というバロメーターが低下して、
自信喪失に陥ってしまう。
逆に苦手意識が克服できると、自信が増す。
自信とは、得意な事を評価されるより、苦手なものに立ち向かい、
思わぬ評価を得た時に生まれるものだからだ。
それでは苦手な事を回避して、出来ることばかり行っているとどうなるか?
人は実態にそぐわない自信を増長させてしまうのである。
増長した自信は虚の自信、空威張り。
空威張りが許される環境に、居座り続けられればいいのだが、
許されない状況になると、そこから逃避するか、
許される環境に居座り続けようと引きこもってしまう。
内なる自分に自信がないため、嫌な事を回避する心理状態に陥ってしまうのだ。
苦手意識を克服しない限り、いつまでたっても自信が持てない。
社員に自信を持たせるには、本人の得意な事をやらせ、
成功体験を褒めろという「褒めて育てる」指導法がある。
しかし、東洋古典の指導法では、各々のやるべき事を明確にして、
内の足らざることを自覚させる。
そして、自分の苦手な分野を得意とする人を尊重し、
敬意をもって接するよう教えることこそが大切だと説いている。
他者を敬い自身の足りないものを補おうとする姿勢こそが、
真の”自信”に繋がり、充足した人生をもたらすのである。
朱熹(1130〜 1200年)は中国南宋の思想家(儒学者)で、いわゆる朱子学の創始者といわれます。その思想は、中国から朝鮮、日本、琉球、ベトナムに広がり、大きな権威を持ちました。儒教の学習は、目上の人にはきちんと挨拶する、履物を揃えるというような、人としての基本的な躾を学ぶことから始めるように唱えています。この基本が身についていない限り、どんなに知識があろうと、人として尊敬されることはないとした教えです。
出典:東洋古典運命学講座「己の不得手を自覚して、他を尊重することが道を拓く」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。