事業再生コンサルタントで中小企業診断士の(株)レヴィング・パートナー代表取締役 寺嶋直史氏と、株式会社つながりバンク代表 齋藤由紀夫氏の共著『スモールM&Aのビジネスデューデリジェンス実務入門』の抜粋から、前回は「優良な中小企業の成長を支える事業変革!その秘訣を成功事例で紹介」で、本業に軸を置きながら変化を柔軟に取り入れて成功した事例をご紹介しました。
3回目となる本編では、皆さんもよく知る日本の大企業が、スタートアップから日本経済に大きな影響を及ぼすまでの長い歴史の中で大きな決断をくだし、確かな財政基盤と成長エンジンを手に入れてきた経緯から、競合他社との差別化をどのように図り、どんな転換点があったのかをご紹介します。大企業たる所以が明らかになります。
目次
業界トップ企業へ変革、そのターニングポイントとは?
今では業界トップの大企業も、スタートは例外なく中小零細企業、ベンチャー企業でした。
では、どこで差別化を図り、ターニングポイントを迎え事業をリノベーションしたのでしょうか。
日本を代表する大企業の転換点を、実際のリノベーションを通じて見てみましょう。
なお、各企業の転換期については、筆者独自の視点となります。
大手新聞社を支える不動産事業
▶朝日新聞
不動産事業の歴史は古く、1929年には不動産会社を設立しています。
その90年後となる2019年の決算では、全体利益の大半は不動産賃貸業から発生しています。
所有不動産も大阪は中ノ島、東京は有楽町と優良物件ばかりです。
確固とした不動産収益があるからこそ、新聞の販売部数が激減しても良好な財務内容を維持していることが理解できます。
織物産業の新規事業「自動車部」が成長
▶トヨタ
1933年、現在の(株)豊田自動織機の中に設立された新規事業部門である「自動車部」がトヨタ自動車のスタートです。
創業者の発案ではなく、後の大同メタル工業(東証一部)の創業者である川越氏の発案、説得があったということもユニークなエピソードです。
高度成長期後半の「共同仕入」で低価格路線に
▶イオン
1758年、着物やクシ、かんざしの小物販売からスタートしています。
徐々に取扱品目を増やし、高度成長期後半に業務提携先3社で立ち上げた「共同仕入」会社(初代ジャスコ)が大きな転換期だったと考えます。
仕入を強化し、低価格路線を打ち出し、M&A等を活用しながら現在の地位を築いた経営力は小売業界では特出しています。
圧倒的な情報力、営業力で不動の地位に
▶野村証券
1872年に初代野村徳七が両替商「野村商店」を開業、2代目徳七が銀行業、証券業へ乗り出しました。
成長の転換期は何度もありますが、筆者は1906年に創設した経済情報誌「大阪野村商報」にあると感じます。
その後、第二次世界大戦中は「戦費」調達の中枢機関として機能しました。
現在でも情報力、営業力で他の証券会社を圧倒するのは、このような歴史があるからかもしれません。
調剤薬局から化粧品メーカーに拡大
▶資生堂
1872年に開業した「調剤薬局」がスタートです。
調剤薬局から化粧品メーカーに進出する第一歩目となる自社商品は、意外にも「育毛剤」でした。
その後、練ハミガキ、化粧水と拡大路線に入りますが、この「育毛剤」が大きな転換期であったことは間違いありません。
リース会社から10以上の事業を展開
▶オリックス
1964年にリース会社として創業。
現在は銀行・保険・不動産・環境等など10以上の事業ポートフォリオを見事に実現しています。
多角化戦略の転機は、1986年の野球球団買収の前後です。
同時に社名から本業の「リース」を外し、証券・生命保険・信託銀行などをM&Aにてグループ化し、現在では連結会社が900社を超える事業投資会社へと成長し変革を続けています。
金融事業のM&Aで「経済圏」構築
▶楽天
1997年に現在の会長である三木谷氏が創業した楽天の成長エンジンはM&Aです。
特に、金融事業におけるM&Aは見事です。
2003年にあおぞらカード、2005年に国内信販を傘下に収め、カード、銀行、証券、旅行などの各種ポイントサービスで囲う楽天経済圏のベースを築きました。
ECサイトを見るだけでは気づきませんが、新規事業とM&Aをうまく取り入れながら、変革しつつある楽天が今後どこに向かうのか、目が離せません。
出典:幻冬舎ゴールドオンライン「歴史ある優良企業こそ『“本業”を変化させてきた』というデータ」
この記事と資料は、著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。
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